王妃の鑑

ごろごろみかん。

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決別(2)

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彼は言った。

『アデライードが言わなければ来なかった』

そして、続けて言葉を重ねる。

『建前上の夫婦とはいえ、いつまでも白い婚姻なのは問題がある。務めを果たせ、ネアモネ・ディアルセイ・ハッセーヌ』

その言葉だけがずっと、ずっと脳を駆け巡っていた。触れられた手は暖かくて、なのにどうしてか酷く冷たく感じた。彼は行為を終えると、吐き捨てるように、嘲笑うように言った。

『やはり処女ではなかったか。信じていた訳では無いが』

吐き捨てるように嘲笑するように言った彼はその目には私への憎悪しか乗せていなかった。
………どうしてそんなことを仰るの?
私が処女でなくなったのは。無垢のままでいれられなくしたのは………他でもないあなたなのに。それを指示したのはあなたのはずなのに。なぜ私の責であるように言うのだろう。

 『僕はお前を愛さない。………それをゆめゆめ忘れるな』

陛下の言葉だけが脳内に響く。
ひきつれた痛みに続き緊張と恐怖で、私は陛下が退室してからすぐに気を失ってしまった。

目が覚めると真夜中だった。
未だに私は真っ裸で、ベッドの上に転がっていた。寒さに目が覚めたらしい。
起き上がると、嫌な感触を覚えた。覚えのあるその感覚に泣きそうになってしまう。

ーーー死んでしまいたい

もう、嫌だった。どうして私がこんな目に合わなければならないのだろう。考えざるを得ない。何か私は前世で酷い罪でも犯したのだろうか?ついにはそんな馬鹿げた想像までしてしまう。
そんな自分をせせら笑って私はベッドから降りた。
破り捨てられたネグリジェを拾い、サイドテーブルに置いておく。
窓の外には月が輝いていて、それを見てぼんやりと思った。

ーーー逃げよう

いつまでもここにいるべきではない。王妃としてその責務を投げ出せば他方に迷惑がかかるだろう。
だけどそれを覚悟して上で、だ。離縁状を用意して、そして遠くに逃げてしまおう。私を知る人がいない土地で、一から、はじめよう。

「…………親不孝者」

ぽつりと呟く。最後の最後まで私は実家の役どころかお荷物にしかならなかった。お母様が聞いたら、お父様が聞いたら、どう思うかしら。お姉様が聞いたら………。きっとお怒りになるでしょうね。私を殺そうと刺客を雇うに違いない。そして私を殺し、陛下のもとに献上するのかしら。
我が家の不始末はしっかりと取りましたので、と渋い顔をしたお父様が頭を下げる場面まで想像できてしまって少しおかしかった。ふふ、と思わず笑みが零れてしまう。

私は要らない子だったのだわ。
生まれてきてはいけなかった。

何の因果か生を受けてしまったけど、物心つく前に自分で命を経つべきだった。

「………………綺麗な月」

初めて恋をして、初めて愛を教えてくれた人との初めての夜は、私に生への諦観を与えてくれた。

幸せなはずの結婚。
好きな人と結婚出来て誰よりも幸せだった。
だけど今の私は………とてもじゃないけれど幸せとは言えない。



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