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ロウディオ
エピローグ 4
しおりを挟むそれは、剣だった。短剣だ。
宝剣のひとつてあり、宝物庫から持ってこさせた品だった。
短剣の柄には七色の宝石が上から一列に嵌められている。これもまた、わざわざ用意させたものだった。もともとの柄にはなんの装飾もされていない。だからわざわざ細工屋を呼んで、嵌めさせたのだ。
上から、ダイヤモンド、エメラルド、アメジストルビー、エメラルド、サファイアそしてトルマリン──百年前ほどに流行った、ジュエリーメッセージ。宝石の頭文字を繋げればそれは"DEAREST"。最愛の人、という意味だ。数世代前の国王が妃に送ったことをきっかけに、その当時は贈り物に意味をつけることに流行りがあったらしい。
ソフィアは唖然として宝剣を見ている。
「受け取って」
「え?だけど」
「お守りだよ。ソフィアの心配を和らげるには何がいいか………。考えた結果、これを渡せば少しはマシになるんじゃないかと思ったんだ」
僕は宝剣を鞘から抜いた。
美しい刀身はほの淡く光ってすら見える。これは、僕からきみへの愛情の印だ。
「もし僕がきみを裏切るようなことがあれば、これで僕を葬るんだ」
ソフィアのことを、お前、ではなく、きみ、と呼んだ。
ソフィアはその違いに気づかない。
突然の贈物に混乱しているからかもしれない。
ソフィアは僕が何も知らない、十三歳の僕だと思っている。日記を読んだ僕は今、恐ろしいほど二十五歳のロウディオの、彼の考えに共感していた。
きっと──いや、もしかしたら。
僕は、二十五歳の自分のように、歪んだ愛憎のためにソフィアに辛い思いをさせることがあるかもしれない。ソフィアと想いを通わせることが出来なければ、きっとそれは酷くなる。日記にあるとおり、彼女の細い首を締めることくらいはしてしまうことだろう。
僕は魔女の件をソフィアに話していない。
魔女の件を知ればきっと彼女は子を孕むことについて深く悩むことは無くなるだろう。なにせ、今までの七年は魔女のせいだったのだから。彼女は安心することだろう。自分に責はないと知り、ほかに視線を向ける余裕も出てくるかもしれない。
それはいけない。それだけは、許せなかった。
彼女は子ができないことに責任を、罪悪感を感じ、その感情で僕に囚われるのだ。彼女の足枷になるものであれば、なんでも利用する。
彼女の愛が得られないのなら、ほかの感情を利用するしかない。
(ほら。そうやって考えている時点で、僕は二十五歳の彼と変わらない。同じなんだよ、ソフィア)
僕が宝剣を手渡すと、ソフィアは動揺のあまり、ソフィアは言葉が出ないようだった。絞り出すような声で、いう。
「なにを………」
「言ったでしょう。お守りだよ」
尤も、それはきみの、僕から身を守るためのもの、だけど。
この宝剣の刀身が赤く染められることがなければいい。
そう思う反面、彼女に手をかけられたなら、それは愛情の裏返しなのではないかと。
きっとそうなれば、僕は幸福に死ねるだろう。
-fin-
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