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第二章 ギルド業務、再開 編

2 てんてこ舞い…

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「おい、こっちにあったぞ! Aランク依頼!!」
「待て、それは俺たちが先に……!!」
「魔物を狩ってきた、査定を頼む!」
「俺が先に並んでたんだぞ!?」
「いや………私が………!!」

ワーワー押し問答になっている。

「ちょ、ちょっとお待ち下さいっ! 順番に申請しますから…!!」
「落ち着いて、大丈夫ですよ…! 順番通り鑑定しますからぁ!」

うんうん、二人とも元気に働いている。これが、“魔法迷宮ダンジョン”がある支部の恒例行事、職員の“揉まれ”。
いやぁ、懐かしい。俺も別の支部に居た頃、こうやって多くの冒険者に飲まれたっけなぁ……。うんうん。まあ、これも仕方がないだろう。初心者の恒れi…ぶべっ!!!

ドドドドドドドドド………
「おい、依頼の物を持ってきたぞ!!」
「早くやってくれ! 報酬の先を越されちまう!!」

第………二波…………。俺も……飲まれる………なんて。
よく言うよな、“冒険者は飲んでものまれるな”って。



三時間が経ち、ようやく落ち着いたお昼頃。俺を含め、三人ともくたくたになっていた。

「いやぁ……こんなに多くの冒険者を相手にしたのなんて、初めてですよ……。」

帽子を外して、ミヨは自分をあおぐ。

「僕もです……。ついこの間まで、全然人が来なかったのに……。」

鑑定に使うモノクルを、スバルはキュッキュと磨く。
俺も冒険者に踏まれ、制服に足跡がついている。それを手で払い、服を整える。

「今日、改めて身をもって知っただろう? これが、魔法迷宮ダンジョンの持つ魔力だ。他の都市の支部も、これくらいの冒険者を毎日相手にしている。」

もっとも、職員の数は倍くらい違うがな、と付け加える。

「ですが支部長、これが毎日続くとなると、流石に身が……。」

ミヨは折れ目がついてしまった帽子を整え、また頭に被せる。

「ああ、それは気にするな。今日こんなに人が集まったのは、『新しい魔法迷宮ダンジョン“熱死の砂漠”が見つかった』という記事が、王都に流れたからだ。」

ほら、これ見てみろ。と、今朝届いた新聞“日刊アスタル”をポンとミヨの方へと投げる。一面に、『新しい魔法迷宮ダンジョン、お宝に期待』と書かれている。

「お前らも冒険者になった気持ちで考えてみろ。大都市の側にあり、数々の冒険者が足を踏み入れている魔法迷宮ダンジョンと、最近見つかったばかりで、情報は知られておらず、お宝も何も取られていない魔法迷宮ダンジョン、どっちを選ぶ?」
「……私なら、新しい方を選びますね。“未知”を開拓するのも、冒険者の一つの楽しみですし。」
「だろ? 皆、そういう心理で動いているから、今日こんなに人が来たんだ。それに、他の魔法迷宮ダンジョンは、いくつかの地域エリアにまたがっていて、複数の支部が管理することもあるが、ここは違う。ユンクレアは、お前らが知っての通り、“陸の孤島”。ことこの辺りは緑が多いが、一歩外に踏み出せば、西は砂漠、東は荒れ地。そういう土地で、他に支部がないから、結果としてうちに集中することになったんだ。」

まあそれも、今日までだろう。明日からは、多分少しずつ冒険者が減ってしまう。なにしろ、この辺りに出る魔物のレベルは低く、E~Fランクの冒険者が相手にするようなヤツばかりだ。だから、魔法迷宮ダンジョン攻略に来る冒険者をここに留まらせるには、何か手を打つ必要がある。今日冒険者達が魔法迷宮ダンジョンに踏み入れたことで、様々な情報が手に入った。しかもどれも他の支部、……どころか本部すら知らない新しい情報ネタばかり。これも全て、魔法迷宮ダンジョンが近くにある支部の特権だ。さて、と…。

「スバル、今日冒険者達が持ち込んだ魔物の中で、“普通”のものと、“魔法迷宮産ダンジョンさん”のものに分けて、帳簿レポートにつけておいてくれ。」
「了解です!」
「ミヨも疲れているところ悪いが、今日冒険者達が持ってきた依頼に関する情報を整理してくれ。」
「分かりました。……魔法迷宮ダンジョンのものを、優先的に、ですね?」
「ああ、すまない。頼むぞ、二人とも。」
「「了解です!!」」

二人とも、本当に頼もしくなった。この一週間、本当に見違えるようだ。さて、俺も支部長として、やることをやらなければ。
支部長室に戻り、ある人物に連絡を取る。

「……もしもし、フーガだ。ちょっとがあってな………。」



あれからまた数時間経ち、日が傾き、暮れてきた頃。冒険者の数も減り、ギルドは静かになった。今中に残っているのは、このユンクレアに泊まって、翌日出発する冒険者達だ。この“陸の孤島”と呼ばれるユンクレア。外に一歩踏み出せば、水も無い砂漠と荒れ地。しかも、砂漠は夜には非常に気温が下がるので、野宿をしては、死んでしまう。そこで、ギルドの二階をギルド運営の宿屋に改装した。ベッドなどの備品は、この前の討伐報酬を融通し、購入。風呂までは用意できなかったが、砂漠で野宿よりはマシだろう。何人かの冒険者が、ここに留まることになった。

「ふぅ……………………。」
「やっと……終わった…………。」

スバルは立ち上がって肩を鳴らし、ミヨも背伸びをする。

「二人とも、よく働いてくれたな。お疲れ様。」

二人の所へ、紅茶を入れたカップを持っていく。

「……はぁ、暖かい。落ち着きますね…。」
「仕事後の一杯が美味しいって、これのことだったんですね……。」

うーん、多分ちょっと違うと思うが……。まあ、リラックスしてくれればそれでいい。

「さて、さっきから色々と雑用を任せてしまったな。」
「いえ、このくらいへっちゃらですよ。」

ミヨが力こぶを作ってみせる。やれやれ。

「そうか。とりあえず、7時だ。定時になったから、本日の業務は終了だ。ミーティングをしよう。」

カップを持ったまま、相談スペースへと移動。

「それじゃあ、まずはスバルから、買い取った魔物について報告してくれ。」
「えっと、まず午前中に持ち込まれたのが、サンドバニー12匹、サンドラット56匹、そしてローコボルトが2匹ですね。また、魔法迷宮ダンジョンでは、新種の魔物が79匹、48匹それぞれ持ち込まれています。」
「新種の魔物…………姿は?」
「聞き取りで、こんな感じに……。」

黄色い…スライム、とこれは……ゴーレム…か? 『砂で出来ているのか、崩れやすい』か。……これは美味しい。

「ちなみに、新種の魔物の査定は?」
「未確定なので、ギルドカードの番号を教えてもらいました。調査が終わったら、報酬はお支払する、と話しました。」
「分かった。新種の魔物については、本部の同僚にデータを送って、解析してもらう。スバルは引き続き、通常業務を続けてくれ。報酬に関しては、良い対応だ。これからも引き続き、そのような対応で頼む。」
「はい。ありがとうございます。」
「じゃあ、次はミヨだな。」
「依頼に関してですが、本日だけで三件完全達成となりました。二つは“薬草採取”、一つは“魔物討伐”です。その魔物は、スバルくんが報告してくれたローコボルトです。」
「分かった。……………魔法迷宮ダンジョンについては?」
「それが………。」
「ん? どうした?」

ミヨは、困った顔をしている。何があったのだろう。

「……Aランクのパーティが三グループ来たのですが、それぞれ証言がバラバラで……。」
「証言が……バラバラ?」

一体どういうことだろう。虚偽の発言をしているのか、それとも…………?
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