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第二章 ギルド業務、再開 編

3 食い違う話

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「『証言がバラバラ』…………か。」

ミヨに言われた言葉を、支部長室で一人考える。
もう夜も遅いので、ミーティングは解散。スバルは今日届いた依頼の品を手入れすると言って、自室兼鑑定室に戻り、ミヨは今日聞いた証言が、もしかしたら慌てて聞いたので、聞き間違いがあるかもしれないと、証言の再精査に取りかかった。とりあえず今はミヨの証言精査の結果を待つことにしたが、報告を聞いていて、一つ引っ掛かることがあった。三グループの証言は、全体を聞けば当たり障りのないものだった。だが……。

『地下に繋がる階段を下ると、そこには古代遺跡が…。』
『僕らは、地下で美しい草原が広がるのを…。』
『私たちは、大きな木がそびえ立つ森林で…。』

「………共通点はないんだがなぁ。」

奇妙なことに、皆バラバラの証言をするなかで、、全員が同じ事を言っていた。

『そういえば、階段を下りてる途中に、が出たんだよなぁ。』
『ま、真っ白いが、僕たちの前に突然!!』
『ひんやりしたみたいな濃い何かが出てきて、ビックリしたわ。』

霧、煙、もや…………。それに該当するのは、俺が知っている限り一つしかない。俺も、かつてとある魔法迷宮ダンジョンに潜った際に経験した。とは言っても、もう二十年も前の話だが……。支部長室を出て、図鑑や記録などが保管されている図書室へと向かう。ここも棚がボロボロだったり、本が無造作に置かれていたり、部屋がホコリまみれだったりで汚かったのだが、部屋を掃除し、備品を買い、整理し直したことで、かつての明るい図書室に戻すことが出来た。俺も受付ヒラだった頃は、ここでよく先輩にどやされたりしたものだ。…………………図書室なのに。記憶を頼りに、“魔物の棚”を探す。………えーっと、この辺だった気がしたんだけどなぁ……。……………お、あったあった。
一冊の分厚い本を手に取る。タイトルは、『大陸魔物大全』。……そのまんまのネーミングだが、大陸中に潜む魔物が、これ一冊でほぼ網羅できる。その中で、“幻影げんえい”のページをチェックする。……………あった。冒険者達の証言の奇妙な食い違い、霧が出るという共通点。これに当てはまるのはこいつしかいない………。だが………。



……カーテンのかかる窓から差す明るい光。図書館で調べものをしていたら、いつの間にか朝になっていたようだ。机の上には、何十冊も本が積んである。……………無意識のうちに、こんなに読んでいたのか。本をかたし、制服を着直してボタンを留める。ゆっくりやっているうちに、時計の針が8時50分を指していることに気づく。……やばい、今日は俺が遅刻になりそうだ……。そういえば、証言の精査はどうなったのだろう……。急いで仕度をして、早足でエントランスへと向かった。



二人はもう起きていて、ミヨは依頼の整理と点検、スバルはモノクルのチェックと、鑑定に使う道具をキレイに並べてお手入れをしていた。

「…すまん、遅れた!」
「おはようございます、支部長。」
「おはようございます、珍しいですね、寝坊なんて。」
「ああ。…………昨日の証言で、気になったことがあったから、調べていたんだ。そういえば、精査はどうなった?」

ちょっとお待ち下さいね……と言い、ミヨは自室へと戻る。……と、メモ帳を一冊と、証言の記録用の魔石を持ってくる。

「昨日の証言のメモと、会話の記録。それを、私の記憶と照らし合わせてみたんですけど、やっぱり虚偽の報告はありませんでした。………報酬に関しては、どうしましょう?」
「そういえば、三グループが来たと言っていたな……。ちょうど報酬は60000マニーだろうから、一グループ頭20000マニーを渡す感じで頼む。それと、お礼も言っておいてくれ。」
「分かりました。有力な情報に感謝しますと、お伝えしときます。」
「…よし、それじゃあミーティングを始めよう。」

相談スペースに集まる。

「今日の業務内容を話す前に、先日査定をお願いしていた魔物の調査結果が終わったから、報告しとこうと思う。」

本部から転送されてきたデータをスバルに渡す。

「“黄色いスライム”は、雷属性の魔法を使う、正真正銘“新種の魔物”だそうだ。他の魔法迷宮ダンジョンでの報告例は、未だに一件もない。ちなみに、もう一つの方、“崩れやすいゴーレム”も、“新種の魔物”で、他地域での発見例はない。」
「ということは、どちらもこの“熱死の砂漠”でしか現れない貴重な魔物ってことになりますね………。」
「ああ。困ったことになった……………。」
「? 困ったことって?」

ミヨは、魔物素材の買取をしないからよく分かっていないが、これは俺たちのような予算額が少ないところには、大きな痛手となる。

「これらの魔物は、他地域で取れない―――すなわち、“限定プレミア素材”になる。そうなると、俺たちが買い取る場合は、どれだけ報酬を払うことになると思う?」
「えっと……………と、とんでもないことに…なりそうですね。」

地域限定の魔物は、その地域にしか現れないという大きな強みになり、冒険者が集まってくると同時に、民間依頼以外での依頼の報酬や、魔物の査定などで、大きくその資金を削られるという、大きな弱みにもなる。大都市のギルドならまだしも、ここは“陸の孤島”、ユンクレア。月額100000マニーなどでは、到底買い取ることができない。

「まあ、この状況を打破出来ないわけではないが……な。」
「?」

こうなったら、ローワン製のカウンターにすり替えてくれちゃった馬鹿貴族アホに頼むしかないな。

「スバル、冒険者達には多少申し訳ないことをすることになると思うが、報酬を支払うのは待ってくれ。その代わり、待ってくれた分、報酬は上乗せで払ってやると伝えておいてくれないか?」
「分かりました。………でも、そんな多額の報酬、誰を宛にする気ですか?」

ニヤニヤしながら、俺の方を見てくる。分かっているくせに。

「そうだな……。こういう希少なアイテムを欲しがる、お貴族様にでもお頼み申し上げあそばすか。」

とびきりの笑顔で、そう答えた。 



「……あのですね、フーガ君。私は一応貴族ですが、宝飾品をもてあそぶ趣味はありませんよ?」

開口早々、ロインに怒られてしまった。全く、相変わらず早とちりなヤツだ。

「違う違う。俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて、お前の知り合いに、そういうお宝を取り扱う、限定プレミアという言葉に目がない、お前のような馬鹿貴z……心がキレイな貴族はいないかってことだ。どうだ、居そうか?」
「最後の言葉、聞こえましたからね……。」

一体なんのことだろうか。俺ワカリマセン。

「そうですね……。王都マーゼに、そういった魔法迷宮ダンジョン産の品物を取り扱う、商人になら知り合いがいますけど……。」
「そうか。その人に、『魔法迷宮ダンジョン“熱死の砂漠”に新種の魔物が現れ、他のどの地域でも取れない限定プレミア素材をドロップした。』……そう流してくれないか?」
「……成功するとは限りませんよ?」
「すまん、恩に着る。」

悪態はつくが、ロインはやっぱり良いヤツだ。こうやって俺たちのために動いてくれるしな。…パーティを組んでた頃も、よく助けてもらったものだ。

「………どうでした?」

ミヨとスバルは、心配そうにこちらを見る。だから俺は、笑顔でグーサインを出した。

「おお!! これで問題は解決ですね!!」
「だが、まだ払ってもらえると決まった訳じゃない。スバル、とりあえず、さっき言った通りにしてくれ。それと……………。」

ミヨが聞き取った記録などを、相談スペースに持ってくる。

「あの“食い違った証言”なんだがな………。」
「もしかして、分かったんですか?」
「ああ。“熱死の砂漠”にある地下へと至る階段。そこを下ると霧のようなものに包まれ、見る人によって違う景色が広がる。その正体は…………………“幻影の霊ファントムゴースト”と呼ばれる魔物だ。」
「「“幻影の霊ファントムゴースト”?」」

この魔物で間違いないだろう。だが、あり得ない。のだ。
こいつは、俺が二十年前に倒したからだ。
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