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第二章 ギルド業務、再開 編

5 説得しよう

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「“特別依頼制度”ってのは、最近出来たばかりの新しいシステムだ。これは、緊急性が高く、それでいて放っておくと危険な依頼に適用される。例えば、突然強力な魔物が現れたとする。まずは、その魔物の側にある支部で、通常の討伐依頼として出される。極端な話だが、Aランクの冒険者のパーティでも倒せない位強力だった。そんな時に、この特別依頼制度システムを使う。そうすると、Aランク指定だった依頼が、“特別枠”として全てのランクに開放され、低ランクでも挑めるようになるんだ。勿論もちろん、ただ開放すれば、無駄に負傷者を出すだけだ。だから、“ギルド支部長かそれに並ぶ権力ちからを有する者だけが、特別依頼を推薦できる”という制約つきだ。」
「成る程……つまり、支部長が実力さえ認めれば、どんな冒険者でもその依頼に斡旋あっせんできるというわけですね。」
「ああ、その通りだ。」
「確かに、この制度を使えば、私たちの支部からも人は出せますね……。」

ミヨとスバルがふむふむとうなずく。だが、これはおいそれとできることではない。例え支部長が認めたとして、その斡旋あっせんした冒険者が依頼先で重症を負えば、完全に俺たちの責任問題となる。それに、“特別依頼”と認められるのに、まずは本部の許可をもらわなければならない。そういう色々と面倒臭いことが付きまとってくる。
……まあ、本部での交渉はどうにかなると思うが。

「ですが、支部長。仮に“特別依頼”になったところで、受けられるレベルの冒険者は、ユンクレアうちにはあまりいないかと…。それに、首を縦に振る冒険者だって……。」
「……そうだな。」

これが一番厄介な問題だ。ランク制限は無くなるものの、ユンクレアにいるほとんどの冒険者は、E~Fランク。それも、冒険者になりたての、だ。ユンクレアの周囲に低ランク魔物が多く居るからこそ、他の支部で冒険者になったばかりのヤツらの、修行の場になっている。たぐい稀なる力を持っていたとしても、その力を十分に発揮することは難しいだろう。

「だから、作戦を立てるんだ。」
「? 支部長は既に思い付いていらっしゃるのですか?」

スバルは首をかしげる。ああ、簡単だ。そういうなりたての冒険者の心理をつき、尚且なおかつ戦闘力を向上させることができるのは、これしかない。

「ああ。…………“戦闘講習”を開くんだ。」
「“講習”……ですか。」
「そうだ。とは言っても、普通の講習会などではない。、修行をつけるんだ。」
「「えっ、僕(私)たちがですか!?」」

二人の声がシンクロする。そう、力が足りなければ、俺たちでその力をつけてやればいい。

「なりたての冒険者ってのは、向上心が大きく、若くて血が燃えたぎっているヤツが多い。だが、冒険者になったばかりで、強い魔物を討伐する依頼を受けることができない。そういうヤツらの受け皿を、作ってやるんだ。『ユンクレアの支部で講習をし、卒業試験として強い魔物に挑む』と。そういう風に流せば、大多数の新人冒険者たちは、食いついてくるだろう。それに、ただ闇雲に教えるわけじゃない。冒険者達のレベルを見極めつつ、様々な戦い方を教え、技術を伝え、力を磨く。……お前らだって、俺と修行をするうちに、あのハイランク・オーガを手玉にとることが出来ただろう?」
「それは…………。支部長の力があってこそ、私たちは戦えたんです。」
「そんなに謙遜するな。贔屓目ひいきめで見なくても、お前達はBランクレベルの強さにはなっている。それに、お前らは俺から講習を受けたばかりだ。受ける目線に立って指導できるのも、お前達しかいない。ちなみに、冒険者講習をするときは、窓口業務を休んでも大丈夫なシステムになっている。……これもマニュアルに載っているぞ?」

俺はウィンクする。それを見て、スバルとミヨは笑顔になる。

「そうですね。僕たちは、あのためになるくるしい修行を乗り越えてきたんです。教えられることも、あるはずです!」
「それに、スバル。お前のその“観察眼”を使うチャンスでもあるんだぞ?」

スバルは、自分のまぶたに手を当てる。そして、決意した表情になる。

「………確かに、僕らは、挑戦してなんぼですもんね。」
「ああ。そして、ミヨの“その力”を最高に発揮することができる場所だと、俺は思うぞ?」

ミヨも、自分の左手を見つめる。そして拳を握りしめ、目を見開き、決意の表情になる。

「ええ。挑戦しなければ、何も始まりませんしね!」
「そうだな。スバルの“観察眼”で育成する者を見極め、ミヨの“干渉”で、他人の魔力を操作し、人それぞれにあった最適の育成をする。これだけ十分な能力ちからを持った教官のいる、最高の講習会は早々ないだろう。……今回のこの作戦は、俺たちの強みを生かす最高の場だ。………………あの時と同じように、お前達に覚悟はあるか?」
「「はいっ!!」」

二人は、パッと立つ。そして、大声で返事する。
よし。あとは、に交渉するだけだ。



「………それで、発生原因不明の“強大な魔物”が現れたから、初心者冒険者をギルドで育成して、討伐させるために“特別依頼”に設定してくれ、と。そう言いたいわけだな?」
「ああ、おおむねその通りだ。」

すると、はぁー…とため息をつき、コンキスは頭を抱え出す。

「……あのな、フーガ。物事には限度ってものがある。いくらお前の頼みでも、大きな注目を浴びる“特別依頼”に設定するのは、流石に困難だ。 お前が私にクビになれと言っているのと同じことだぞ?」

むぅ、流石にすぐには首を縦に振らないか。なら………………………説得するまでのことだ。

「コンキス、今回俺たちが挑むのは、二十年前の、“幻影の霊ファントムゴースト”だ。」
「!? なんだって……? あいつらが、生き残っていたのか?」
「それはまだ分からない。だが、あいつが魔法迷宮ダンジョンの壁を越え、地上へと出てきたら多大な被害が出る。それはお前も経験した通りだ、分かるだろ?」
「なら、尚更“特別依頼”に設定するわけにはいかない。危険すぎる。安定した戦力のAランク冒険者に依頼をするのが一番良いじゃないか。」

これだから、コンキスは合理的頭が固いと言われるんだ。

「ユンクレア支部には、これ以上資金の猶予がない。だがな、“特別依頼”に指定してくれれば、俺には勝てる自信がある。現に、あの時倒し方を閃いたのも俺たちだ。実績がそれを証明してくれるだろ?」
「むぅ……確かにそうではあるが……。」
「それに、うちには優秀な職員がいるんでね。二人とも……俺の自慢の仲間だ。育成に役立つスキルや能力も持っている。……俺が、ミヨとスバルを訓練して、あいつらが虚をついてあのハイランク・オーガを拘束したんだ。これで、俺の指導力の証明にはなるかな?」

俺はドヤ顔でコンキスを見る。むむむ、とコンキスは悩む顔をする。もう一押しだ。

「“特別依頼制度”は、最近出来たばかり。だから、ギルド内でもその信用が議論されている。やり方は完璧だと、世間に見せつける機会チャンスでもある。」
「………………………………ふっ、本当に君は相変わらずなヤツだ。」

やれやれ、と手を振る。

「……でも、やるからには失敗は許されない。成果が全てだ。分かっているな?」
「ああ、俺を誰だと思ってるんだ。」
「…………………まあ、お前を説得したところで、める気は更々ないだろうがな。仕方ない。ギルド副本部長コンキス・フランディードの名の下に、『【対象:Aランクパーティ】“幻影の霊ファントムゴースト”の討伐依頼』を、“特別依頼”に認定する!!」

ポンと、書類に判を押す。

「しかし、すぐにこんな書類を用意するとはな…。」
「いや、元々講習会は、ヤツが現れなくてもするつもりだった。定期的に開けば、冒険者が安定して足を運ぶのにも繋がるからな。まあ……許可はなんとか取れるだろうと思って、形だけ作っといたのが役に立った。」
「ハハハ、そうかい………。」

コンキスは苦笑いする。

「とにかく、良い報告を待っている。」
「おうともよ!!」

こうして俺たちの二度目の無謀な作戦が、始まった。
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