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第二章 ギルド業務、再開 編

15 “無才の魔術師”

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私は、“無才”。
なんの取り柄もない。
エルフなのに、魔法をロクに扱えない。

『自分の能力だけは、自分自身のことだけは、絶対に疑うな。自分を信じて何が悪いんだ。』

そんな私の力を、フーガさんは見出してくれた。
作戦のミーティング後、フーガさんは、私にこう言った。

『俺たちが隙を作る。合図を送ったら、瞬間に飛び込め。』
『で、でも……。魔法迷宮ダンジョンに魔力が溢れていたとしても、私には自信が…………。』

ふぅー…、とため息をつくと、フーガさんは人差し指を立て、話し始めた。

『いいか、お前の力を最大限活かすには、隙が一番重要だ。ヤツがその気配を理解する手前で、一気に叩き込まなければならない………が、簡単にできると思うぞ。』
『で、でも、隙をつけと言われても、もしかしたらチャンスを逃すかも…………。』
『大丈夫だ。俺を信じろ。』

その言葉通り、捕まっている間に、フーガさんはウインクをした。まさに、“幻影の霊ファントムゴースト”が油断した瞬間だった。
意識を高め、周りの魔力を取り込む。………暖かい。

“自分を信じて何が悪い”

信じろ、私。私自身を。
身を足に預け、飛び込む。そしてヤツの目の前でこう呟いた。

「………くたばれ。」

自分に自信を持て。その意味を、なんとなく理解できた……。そんな気がした。



地面に突き刺さった剣を拾い、鞘に仕舞う。周りを見渡してみると、“幻影の霊ファントムゴースト”討伐後、魔法迷宮ダンジョンは小さな部屋へと変わっていた。

「フーガさん、あれって………。」

フラットが、小部屋の奥に、何かを見つける。

「ああ、あれは宝箱だな。」
「! 宝箱って………ということは、私達は“迷宮主級”を討伐したってことですかっ!?」
「そういうことだな。」

ルリが、目を輝かせる。
魔法迷宮ダンジョンの最深部、そこは昔から大きな魔物が守っている宝があるという伝承がある。調査の結果、魔法迷宮ダンジョンは例外なしで、その部屋と巨大且つ強力な魔物が、その部屋を守るように存在することが分かった。そして、伝承から、その魔物のことを部屋主と呼ぶようになった、というわけだ。通常、魔法迷宮ダンジョン最深部に到達することは、どんなに腕が立つ冒険者であろうと、滅多にない。わずかな冒険者のみが味わうことのできる、まさに至極だ。

「さてと……それじゃ、箱の中身を拝むとするか。フラット、開けてみてくれ。」
「あ、はい!」

開けようとする手が震えている。余程緊張しているのだろうか。周りから、ルリとハイシュがそれぞれ中を覗く。
中身はというと………………

「…………………………。」
「…………………………。」
「…………………………。」
「………ま、こんなものだろう。」

一枚の布切れ。
重厚な造りの割には、随分と小さな物が中に収まっていた。
三人の顔は…………色々な感情が渦巻き、打ち消し合って………

「「「布…………切れ……………?」」」

“無”だった。
魔法迷宮ダンジョン自体がドロップするものは、殆どがくだらないものばかり。それを知らない者からしたら………
まあ、ショックだろうな。



外に出ると、辺りは真っ暗だった。いつの間にか夜を回っていたようだ。ユンクレアへと帰路を歩む。
その帰り道、フラットは突然聞いてきた。

「支部長、僕…………倒れているとき、意識がとぎれとぎれで全部を聞いたわけではないんですけど気になったことがあって………“幻影の霊ファントムゴースト”は、何故ハイシュを視認できなかったのでしょうか?」
「ああ、それなら……よく考えてみろ。………子供の頃に童話や寓話を聞かされなかったのか?」
「………寓話……ですか?」

フラットは、未だ頭に疑問符が浮かんでいるようだ。
……なかなかすぐには思い出せないか、そう思って答えようと思ったら、ルリが得意げな顔で答えた。

「もしかして、『悪夢退治』ですかっ!?私その話大好きなんです!」
「そのとおりだ。」
「………『悪夢退治』……ああ思い出した!それなら僕も小さな頃に母によく聞かされました。確か……。」

昔々、とある国に小さな村がありました。
その村は、小さいながらも、皆が助け合って仲良く暮らしていました。
ところが突然。その日常は、急に変わってしまいました。
村人の中に、突如悪夢にうなされて、起きられなくなってしまう人が出てきたのです。

ルリが、ちょいと演技を交えて、ストーリーの前半を話す。

「さて、ここまでくれば分かると思うが、この話は実話をもとに作られたものだ。」
「……だとすると、この話に出てくる悪夢って………」
「そう、“幻影の霊ファントムゴースト”のことだ。さて、それを踏まえた上で問おう。この話の中で、村人はうなされたようだが……一体何にだ?」
「勿論、“悪夢”です。」

ルリが答える。

「そうだな。補足すると、ヤツら“幻影の霊ファントムゴースト”は、人の夢を食って生きていたと残されているが、実際はちょっと違う。ヤツらが食っていたのは………“魔力”だ。」
「「魔力?」」

フラットとルリが声を揃える。

「勿論、この空気中に浮いている魔力のことじゃない。ヤツらが食い物にしていたのはとても限定的で、尚且凝縮され、圧倒的に合理的な魔力。それが…………人の持つ、。人は無意識の内に、大気中に存在している自然魔力を吸収している。これが、人が動くための動力源…つまり、エネルギーになる。だが、ただ自然魔力を集めているだけでは、そんなに多くは集まらない。だから、人は自然魔力をして体内により密度が大きい魔力を作り出す。それが、“内在魔力”だ。」

こうして集められた内在魔力は、魔法式や魔法陣を通して変換され、杖などを媒体として体外に放出することができる。それが、人の使う“魔法”や“魔術”だ。

「つまり何が言いたいのかというと、ヤツら“幻影の霊ファントムゴースト”は、人の持つ内在魔力を食らうことで生き延びている。それによって寝ている人のエネルギーの源が無くなり、うなされることになった。それが、まるで悪夢を見ているようなので、『悪夢退治』と例えられたのだろう。だから、生存本能いきのこることに特化したものになっていると予想した。」
「だから僕達の動きがすぐに読まれたのか………。」

分かりづらそうにしていたフラットも、理解できたようだ。

「そう、だから俺たちの思考も読まれた。生きるための源、魔力を無意識に使用した行為だからな。だからこそ、そのをかく必要があった。」

内在魔力を有さない魔術師、そんな前例もない、よもやありえない存在を。

「それがハイシュ、お前だったというわけだ。」

下を見ていたハイシュが、顔をあげる。
自然魔力を媒体として魔法を使うハイシュを、“幻影の霊ファントムゴースト”はその姿を実際に見るまで気づけなかったのだ。

「“無才の魔術師”……、カッコいいじゃねぇか。俺すら手を出しにくい相手を、倒してくれた。今回はお前に助けられた。…………よくやった。」

勿論、フラットとルリもな、と、ニコッと、笑顔を向ける。フラットとルリもポーズを取る。
………俯いたハイシュの顔から、ポロポロと雫が零れ落ちる。

「…………………さて、ユンクレアへと急ごう。帰るまでが試験だからな。……気を抜くなよ?」
「「「はいっ!!!」」」

夜空には、満点の星達がこれでもかと輝いていた。
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