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第二章 ギルド業務、再開 編

16 切り開く未来と

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俺たちがユーグ村につく頃には、もう朝日が昇ろうとしていた。木で作られた門をくぐると、遠くで手を振る人物が二人。
………………あの様子だと………。

「おーい、フーガさ~ん!!」
「支部長~!!遅いですよぉ~!!」
「おーう、ミヨ、スバル!!」

それに応え、拳を突き上げる。あいつらが連れていた冒険者たちも皆、疲れてはいるようだが、全員無事に戻ってこれたようだ。
二人に近づき、ハイタッチする。

「よくやってくれた………今回の作戦、大成功だ!!」
「「……っしゃあああ!!!」」

フラットたちに負けないくらい、大きな声で叫んだ。



到着時、既に朝だったが、講習会に参加してくれた冒険者たちには全員ギルドで休んでいってもらい、改めてミーティングを開くことにした。俺は講習会の報告書と概要レポート、冒険者たちのデータをまとめるなど、やることが沢山あったために、眠ることは出来なかったが……。
書類を机にまとめ、支部長室の戸を開ける。冒険者たちは、ミーティングルームに集まっていた。ルリやフラット、ハイシュたちの姿も見える。
全員を見渡すために、カウンターの上に登る。すると、話していた冒険者たちは全員黙り、俺の方を見つめた。
……三日、彼らはたった三日間という短期間で、顔つきが冒険者のそれに変わっていた。顔つきだけじゃない、意識も、態度も。三日前の見る影もない。これだけでも、講習会を開いて正解だったと言える。……これなら、問題ない。
咳払いをし、話し始める。

「諸君、三日間に渡る戦闘講習会、ご苦労だった。短い期間ではあるが、この三日で、様々な技術を学び、経験を積み、実践をすることができたと思う。お前たちの力は低ランクのものではない。Cランク、いや、Bランク相当に匹敵するだろう。」

皆が、意志を帯びた目をする。俺も経験したことのある、強い意志。彼らもまた、あの頃の俺と同じような心持ちなのだろうと思いを馳せる。

「だが、油断は禁物だ。お前たちはまだまだ若い。俺は厳しい事ばかり口では言うが、本音を言えば…………誰も犠牲を出したくないんだ。」

俺も、それに応えねばならない。

「お前たちには、まだまだ未来が広がっている。未だに冒険者は、無謀な野郎が就く職業などと言われているが、そんなことはない。夢を追うバカ野郎が就くんだ。そのバカを指導するのもまたバカだ。……この先沢山の困難が待っているだろう。だが、三日間の苦しさなんかと比べてみろ、まさに“天と地”だ。お前たちの底力を、世の中に見せつけてやれ! これにて、戦闘講習会を解散するっ!!」
「「「応っ!!!!!!!」」」

熱くて若い声が、こだました。



「………やれやれ、やはりフーガは鼓舞が上手いですね。」
「………見てるならはじめに言え、ロイン。」

腕を組んでカッコつけてカウンターによりかかる、馬鹿貴族ロイン。…あ、こいつも冒険者を選んだバカだっけか。

「……変な想像をして感動シーンをぶち壊さないでください。……そうだ、あなたに渡さなきゃならないものが。」

コンキスが懐から手紙を取り出す。

「………差出人は?」
「匿名です。消印はアスタル王都マーゼのものですね。……ここまで言えば、あなたにも分かるでしょうがね。」
「……………。」



「……今回の報告は、これで以上だ。」
「分かった。よくやってくれた、お疲れさま。」

ユンクレア支部との通信を切る。今回の支部長報告は、通信機による簡単なもので終わった。フーガから送られて来た書類を参照し、事実確認も済んだ。目の上のたんこぶである“幻影の霊ファントムゴースト”の討伐、冒険者の育成、支部の統制と採算性の向上までやって退けた。おまけに私が提唱した“特別依頼制度”の安定化まで証明してみせたのだ。長年一緒に居たつもりではあったのだが、フーガの凄さを改めて知れた。引退後も、その腕は健在のようで安心したが……少し嫉妬感も覚える。……まあそれはさて置き。
今回の件は不審点ばかりが出てきた。本来魔力が少ない場所に出現するはずの“迷宮溢れ”が、魔法迷宮ダンジョンに発生したこと。二十年も前に全て討伐しきった“幻影の霊ファントムゴースト”が、再び現れたこと。それから、その魔物もまた、ハイランクオーガのように“特殊能力”を発現していたこと。

そして何より…………“

“迷宮溢れ”で記憶持ち、おまけに“双腕”を覚えているとなると、最早偶然では済まされない。誰かが裏で糸を引いているのだ、そう考える以外何も浮かばない。
窓の外を見つめ、グッと拳を握りしめる。外は雨がポツポツと降り始めていた。



支部長室に入り、封を開け、中身を読む。

『お久しぶりです。木々に緑が付き始め、自然豊かな季節になりました。いかがお過ごしでしょうか……。』

至ってシンプルな挨拶文から始まる文章。それ自体は、何の変哲もないただの手紙。だがこれは…………。これを読み解くヒントは、追伸に書かれた“古代の英知”。各文の先頭と末尾に装飾のように散りばめられた古代文字を読んでいくと……。

『オウコク ハンラン ノ キザシアリ』

「…………なんだと?」

差出人は、アスタル国王レーグリッヒ。
不吉な予感が、体を駆け巡った。
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