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第三章 冒険者ギルドの宿命 編

5 人を語る資格

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僕は、フーガさんから聞いた頼まれごとをクラムさんに伝える。クラムさんは頷きながら、僕の話を聞いてくれた。

「そうかそうか………。」

片手に持ったカップを、コトッと音を立てて置く。ロインさんの話では、クラムさんはフーガさんの昔の仲間。だから、快諾すると思っていたのに……。

「残念だけど、その話、断らせてもらうよ。」

僕に返ってきたのは、冷たいそれだった。

「え………どうしてですかっ!?」

僕はあまりの素っ気なさに、思わずそう叫んでしまった。

「……どうして? ………はぁー、そんなことも分からないかなぁ……。」

勢いよく立ち上がり、僕の方をビシッと差す。

「まず第一に、僕……というか、僕らに何の利益がある?」
「それは………。」
「“新しい取引先ができる”………とでも言いたいのかい? この際はっきり言わせてもらうけど、僕は今のユンクレアにそれだけの価値はないと思うよ。いくらかつての友人の頼みだからといって、できるわけがない。」
「……………。」

確かに、今のユンクレア………ユーグ村を含む周辺の集落には、然程多くの人たちが住んでいるわけではない。まして、買い物をするという習慣が根付いておらず、特にユーグ村の人たちは、最近まで別の地域にいた。そこから帰ってきた後も、皆自給自足の生活を送っている。………痛いところだ。

「ユンクレアまで出張するのにも、人手を使って店を開くにも、何をするにもお金がかかる。僕たちはボランティアで店をやってるわけじゃないからね。」
「……………。」
「そして……第二に、失礼にも程がある。」
「失礼………ですか?」
「考えてもみてくれ。僕は、こんなんでも大陸三大商会の一つ、アテレーゼ商会の看板を背負っている人間……というか、エルフだよ。それなのに、取引先が差し出して来たのはただの下っ端。普通、トップと話をするならば、せめて相応の立場の人間が交渉のテーブルにつくべきだ。………これは、別に君が悪いわけじゃない。判断ミスした君の上司の責任だ。」
「…………!」

僕の中で、何かに火がついた。

「全く………何なんだろうね。君の上司は常識が欠如している。非常識にも程がある。交渉が何なのかを分かっていないんじゃないかな。ひどいものだ………。」

ペラペラと何かを喋る。だけど………僕の頭には全く入って来ない。何だ………この気持ちは………悲しい?いや………悔しい?………違う。……………ただ、次の瞬間、僕は抑えきれなくなった。

「君の上司、支部長はダメダメだね。」

ズダンッ!
僕は、無意識に机を拳で叩き割っていた。

「あなたに…………支部長を………フーガさんを悪く言われる筋合いはありませんっ!!! フーガさんがどれだけ……どれだけ僕たち思いで、それでいてみんな平等に優しく接してくれて、常に冒険者のことを考えているか……あなたには分からないでしょうね!」
「……………。」
「フーガさんは………いつも自分を犠牲にして、身を粉にして働いている。僕が働く前だってそうです………。ユンクレア支部がいざ取り潰しの危機になったとき、寝る間も惜しんで考えて、相談して、実践して……!そこまでして試行したことがうまくいかなくても、絶対に僕らのことを責めない人です!確かに、あなたと言うとおり、フーガさんには礼を失する部分があったかもしれません。それでも、それに漬け込んでフーガさんのことを悪く言うのは絶対に違う!あなたは言いましたね、フーガさんは常識が欠如していると。僕に言わせてみれば、あなたの方がよっぽど非常識な人間だ。人の内面を少ししか知らない人に、その人のことを語る資格なんて絶対にありませんっ!!」

バンッ!!と、もう一度机を叩きつけた。

「………………。」

辺りに、静けさが漂う。
…………やってしまった。怒りに身を任せ、内側を全て曝け出してしまった。ここは冷静に交渉を進めるべきだったのだろう。
古くからの言い習わしがある。

“耐えれば道は開かれり”

僕は、自らその道を潰してしまった。

「…………そう、非常識……ね。」

思わず外れてしまった帽子の埃を払い、被り直す。

「僕も悪かった。確かに常識に欠如しているのは僕も同じ。だから、君の言うとおり、人に語る資格なんてないかもね。」
「ああ、いえ……そんな………!」
「………君のことをよく知らないで、そういうことを言ったのも悪かった。ただ、僕の言ったことは当たり前なんだということだけは、分かってくれ。……………君の上司、フーガが僕のところに君を送ったのには、もう一つの意味が込められてると読み取ることができるのにね。」

そう言うと、奥の棚から二本の剣を取り出す。

「………それを確かめたい。フラ君……いや、フラット君。」
「……はいっ!」

その剣を一本、僕の前に差し出す。

「僕と戦ってくれ。」
「……………え?」

クラムさんは、ほのかに微笑んでいた。
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