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第三章 冒険者ギルドの宿命 編

4 “神の商人”――クラム・アテレーゼ

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―――クラム・アテレーゼ。
大陸三大商会の中でも一際大規模な取引網と独自の流通経路を持つ、アテレーゼ商会の商会長。その素晴らしい手腕と鮮やかな交渉術から、ついた二つ名は“神の交渉人”やら“命の商人”やら……とんでもない呼ばれ方をされている。そんなヤツとは、縁もゆかりも無かった。だが、いつの間にか俺たちのパーティについてきて……。そういえば、ヤツは何故俺たちと行動を共にしていたのだろうか。二十年前のことで、すっかり忘れてしまった。
通常“鑑定”系統のスキルを持っていなければ、その人の適性や正体などを見破ることなど到底できない。だが…………ヤツは、それらを一切持っていないのに、何故ヤツは物事の本質を見抜く……いや、その先まで見通すことができるのだろうか………。



「ま、取り敢えず立ち話も何だからサ……僕の店においでよ。」
「あ……はい!」

クラムさんが、僕の前をスタスタと歩いていく。中々足が速い。今の僕の足で、ようやく追いつける位だ。

「その……クラムさん、どうしてこんなに急いでいるんですか…?」
「ん………なんとなく……かな?」

少々曖昧な返答をする。それに疑問を抱きつつ、僕も共に歩みを進めていく。すると……

ガタッ………

後ろの方で、微かではあるが木材が石に擦れる音が。大方、積んであったものが落ちたのだろうが。後ろにチラッと目をやると、男の二人組が。片方は、重厚な装備に身を包んでいる。だが、帝国の騎士団とはまた雰囲気が違う。もう片方は、軽装ではあるが、身のこなしは一般人のそれではない。剣術を学んだ足取りだ。
もしかして彼らは…………。

「チッ………………クラムの野郎、面倒な野郎を護衛につけているか。ただでさえ、ヤツは強いからな……。骨が折れるぜ。」
「仕方がない、気づかれないように出直すぞ。」

そんな会話が、聞こえたような気がした。前を歩くカルムさんの顔から、笑みが溢れているのは何故だろうか…。



十分位裏通りを歩き、表に出ると…。

「うわぁ…………でかい……………!」

目の前に、巨大な建物がそびえ立つ広場に出た。建物の正面に飾られているのは、商いの栄光紋。皇帝直々の認可の証だ。それが刻まれているアテレーゼの商会紋も、また立派なモノだ。これがアテレーゼ商会の本部………。

「ま、冒険者ギルドの本部に比べたらちっちゃいと思うケド……さ、取り敢えず中に入ろうよ。」
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」

ズンズンと、中に入っていく。やっぱりこう……こういう建物を見ると、何だか………気後れする。そんなことを考えながら、僕も一歩を踏み入れた。

「うわぁ……………!」

中に入ると、僕たちを出迎えてくれたのは、とても大きなアーマープレート。それが携える剣でさえ、怪しげな光を放っている。そして、吹き抜けになっている二階の天井には、これまた豪華なシャンデリアが。まるで、何処かの宮廷のような………そんな心持ちがした。でも、何故か既視感があった。
…………ああ、ユンクレアか。

「僕の部屋はこっちだよ。」

そんな僕を後目しりめに、階段を上がっていく。二階の廊下は質素だが、それでも所々に豪華さが散りばめられていた。そんな廊下の突き当りに、クラムさんの部屋――商会長室はあった。



「……それじゃ、改めて話を聞こうか。」

これまで見てきた内装とは、まるで対極のような部屋。質素……というのが、僕の第一の感想だ。白を基調とした壁に、全て家具が、木製のごく一般的な家具が揃っている。――ただ、彼の座る椅子と机を除いては。
その席に着く彼は、その身長の二倍にも三倍にも届く位の威圧感……いや、オーラと言った方が良いのだろうか、を放っている。貫禄というやつかもしれない。
僕は、フーガさんから聞いた頼まれごとをカルムさんに伝える。カルムさんは頷きながら、僕の話を聞いてくれた。

「そうかそうか………。」

片手に持ったカップを、コトッと音を立てて置く。ロインさんの話では、クラムさんはフーガさんの昔の仲間。だから、快諾すると思っていたのに……。

「残念だけど、その話、断らせてもらうよ。」

僕に返ってきたのは、冷たいそれだった。



ヤツは気難しい……というか、理解するのができない。二十年……いや、それ以上のキャリアを持つクラムを相手に、どう立ち回れるか。この前も使った光の魔法、“遠隔観察キティプワール”を放った。

「お手並み拝見といこうか。」
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