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第三章 冒険者ギルドの宿命 編

28 真実との邂逅

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「フリューデ……っ!! 貴様!!」

そう叫ぶルーフェス。ヤツが監禁していたはずのコンキスが、フリューデの脇に立っている。それに、驚きが隠せないのだろう。

「どういうことだルーフェス! お前がコンキスを監禁したのではないのかっ!? ……なーんてな。」
「!!??」

ルーフェスに、悪い笑顔を見せる。俺の反応に、驚きが隠せないようだ。ミヨもまた、混乱していた。

「支部長……ごめんなさい、全く分からないんですけど…。」
「ん? …ああ、俺は全部知ってたんだよ。」
「それって……まさか!」

ミヨは、気づいたみたいだ。やはり察しがいいな。一方のルーフェスはというと、虚を突かれ、理解が及んでいないようだった。仕方ない、説明してやろうか。

「フリューデは、“双腕”のことを恨んでいる。それも、冒険者ギルド本部での一件で、閑職に追いやられて、尚更な。そして、ヤツの恨みは、“双腕”が本部の上司だった時から、ずっと続いている。そして、冒険者にも、大きな恨みを抱いている。……そういう噂を聞いたんじゃないか?」
「……!?」

その言葉で、ようやくヤツは理解が及んだようだった。ヤツの顔は、段々と真っ青になっていく。



何故だ……。何故、フリューデはコンキスとともにいる?
何故、“双腕”はあんなに余裕なんだ?
何故だ………私の作戦は完璧だった!

だが…………、ヤツは、全てを知っているかのように話し始めた。

「フリューデは、“双腕”のことを恨んでいる。それも、冒険者ギルド本部での一件で、閑職に追いやられて、尚更な。そして、ヤツの恨みは、“双腕”が本部の上司だった時から、ずっと続いている。そして、冒険者にも、大きな恨みを抱いている。……そういう噂を聞いたんじゃないか?」

極めつけは、あいつの笑顔。
何故、あいつは俺の考えをここまで読んでいる?
すると、押し黙っていたコンキスが、口を開く。

「……フリューデと“双腕”が不仲だという噂を聞いたお前は、しめしめと思った。なぜなら、冒険者に恨みを持った人間の存在は、作戦に好都合だったからだ。それに、その男が冒険者ギルド本部の人間だということも、な。“魔石”の保管されている倉庫のカギを開けさせるのに必要な職員階級、赤を取らせるのもまた簡単だった。なぜなら、裏金を使って、有力な州長ガメルを、既に買収していたからだ。“官職委任制度”も、簡単に活用できた。なぜなら、皇帝が崩御し、帝国議会が実権を握っていたからだ。そう、上手くいく要素しかなかった。………もし、。」

そういい、俺を睨む。

その瞬間、俺は気づいた。

“双腕”と冒険者に恨みをもつフリューデ。
それが、フーガの流した噓だったことを。

考えを読んだわけじゃない。
あいつはすべて知っていた。
俺は……ヤツに…………“双腕”踊らされていたというのか……?

惑う俺の顔を見て、ヤツは今までで一番の笑顔を見せた。
隣にいるミヨとかいう女が、“双腕”に話しかける。

「で、でも……支部長、本部に直訴をした際に、実際にフリューデさんとひと悶着あったじゃないですか。」
「ああ。確かに、俺はフリューデと本部で直接対決をしたさ。……でも、それがはじめから計画されたものだったとしたら?」
「ま、まさか…………出来レース?」

俺は顔をしかめて、そう言う。その一言に、ずっと不機嫌な顔をしていたフリューデの顔が、ほころぶ。

「確かに、私は冒険者上がりであったフーガのことを、良く思っていなかった。それは事実だ。だがそれ以上に、私は彼のことを尊敬している。フーガは帝国の民たちのために、様々な貢献をしてきた。お前たち、帝国騎士団よりよっぽど、な。私は帝国貴族だ。だがな、民を蔑ろにする騎士団よりも、低い身分でありながらも、民のために尽力する冒険者を選ぼう。」

俺を一瞥する。…クソが。
すると、懐から、小さな紙を取り出す。

「先程貴様は、“魔石”をどこから調達したのかという証拠がない、といったな。」
「ああ、そうだ! それだけは覆しようのない事実だ。どうしようもできまい!」

なぜなら、交渉の内容は記録していないからだ。
口頭だけの内容を、どうやって示す!?

すると、フリューデは、懐から小さなボロ切れを取り出す。
刻まれたあの紋章は……見たことがある。
古代の民が遺した、希少価値の高い魔道具。騎士団でも、特別な時以外使われない。
あれは……“記録”の魔道具だ。

……なぜ、ヤツが持っている? そして、それをフーガに渡す。

「これはな、魔法迷宮ダンジョン“熱死の砂漠”がドロップしたものだ。これが意味するものは、はてさてなんだろうな?」

“双腕”は、俺にそう訊く。

………………!!

フリューデを俺の下に送り込んだのは………!

………やめろ。

「議長、こちらが最後の証拠です。」

……やめろ、やめろ!

「各州長の方々も、お聞きください。」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!!」

無慈悲にも、音が流れ始める。
聞こえてくるは、フリューデとコンキス、そして………俺の声。
………やめ………ろ…………。



「お久しぶりですね、コンキスさん。あなたとお話がしたかったですよ。」
「お、お前は……!!」

「何故、お前がここにいる? お前は先日の件で、支部に異動になったはずだ。それに、お前が胸につけているそれは……!」
「ああ、これですか?」

「コンキスさん、あんた仮にも冒険者冒険者ギルドの副支部長なんですから、分かるでしょう?」
「……“官職委任制度”を使ったのだな?」

「貴様……冒険者ギルドの情報を、帝国騎士団に横流ししたなっ!」

「……やはり、聡明ですね。ツィレンバル側の副支部長に選ばれるだけのことはあります。」
「………………。」

「しかし、まさかあなたがツィレンバル帝国の人間だとは思いませんでしたよ。ガウル帝国に随分と貢献していたのでね、全く気づきませんでした。」

「……騎士団の狙いはなんだ、やはりアスタル王国かっ!?」

「頭が回ると思っていたのですが、まあしょうがないですね。あなたにも分からないでしょう、私たちの目的は。」
「……なんだと? んぐうっ!!」

「……ご命令通り、コンキスを捕縛しましたよ。」
「よくやりました、フリューデ。貴殿に任せて正解でした。」
「………。お褒めに預かり、光栄です……ルーフェス団長。」

「これで、“双腕”の頭脳も動けまい。我々の動きを知るものもいないというわけですね。アッハッハッハ!」
「…………………。」
「冒険者に恨みを持つ貴様のために、議会を動かして『官職委任制度』を適用したんです。よもや、失敗は許されません。“迷宮溢れ”の“魔石”の保管されている倉庫に入れるのは、貴殿だけですからね。それに、“召喚秘具”は既にこちらの手中。ヤツが倒した魔物たちに、ヤツらが蹂躙される光景が目に浮かぶわ……!」


「………冒険者なんて、邪魔なだけなのですよ。」



ルーフェスの悪事の証拠が、ヤツ自身の声で語られる。そして、全てが明らかになった。
ルーフェスは、何も喋れない。議場もまた、静寂に包まれていた。

「……お前は、俺たち冒険者を、騎士団の役目を奪った泥棒のように思っているようだな。だが、俺から言わせてもらえば、お前たち騎士団こそ、騎士道精神に反している。お前は最早、騎士などではない。……皇帝が、なぜ我々冒険者への支援を手厚くしたか、よく考えろ。」
「そんなもの………知るものかあっ!!」

抜剣し、俺に切りかかろうとしたその刹那……。

「“魔力干渉”っ!!」

ミヨがそう唱えると、突如力を失ったかのように、ルーフェスは地面に倒れた

「他人の魔力に干渉できる……だと? そんなスキル、聞いたことがない…!」

力を入れようとしても、立ち上がれない。それだけミヨの“干渉”の力は、強い。

「そうでしょうね。私のスキルは、“外れスキル”ですから。」

自虐的なことを、堂々と言う。ミヨの顔には、自身に満ち溢れていた。
…だが。

「…ミヨ、止めよ。」

腕を組んで聞いていたサクマ本部長は立ち上がり、おもむろにそう言う。ミヨが干渉をやめると、ルーフェスのところへと歩いて行く。

「……まだ分からぬか、何故先帝が冒険者への支援を決めたか。」
「…何……だと?」

ルーフェスが、顔を上げる。するとサクマ本部長は、寂しそうな顔で言った。

「そうか……あれから二十年も経っているからな。致し方なしか。だが、一人称と話し方を変えただけなのに気づいてくれないのは、ちょっと辛いな…、ルーフェス騎士団長。昔だったら、どんな変装をしようとも、すぐにに気づいてくれたのにな…。」

ルーフェスの瞳に、サクマの優しい笑顔が映る。わなわなと、震えはじめた。
…ようやく気付いたのか。

「まさか……そんな……貴方様は………。」
「フリューデを本部のデータベースで調べたときに、気づかなかったのか。一人だけ、冒険者時代のデータが全く存在しなかった男を。」

手に魔力を込め、サクマの顔へとかける。俺の“偽装フェイク”の時と同じように、はがれていく。そして、素顔が現れる。
あの時と、皺と白髪の量以外ほぼ変わらない、あのひげ面。
誰もがいないと思っていた、あの顔が。

「ノブルム……陛下……!?」

サクマ……改め、ノブルム・フォン・サブラスは、再び神妙な面持ちになって佇んでいた。
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