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第三章 冒険者ギルドの宿命 編
32 理想とは、程遠いけど
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「…フーガ・ラドカルト。冒険者ギルド規則に於ける報告義務違反で、一階級降格処分に決定した。それが意味するものがなにか。…分かっているな?」
「…甘んじて受け入れよう。」
俺は、承諾する旨のサインをしようとした。
その時だった。
「…待ってくださいっ!!」
ミヨとスバルの二人が、扉を蹴り飛ばし入ってきた。…帰れと言ったのに。
「コンキス副本部長、それはあんまりです! 支部長は、冒険者を守り、そしてガウル帝国を守るために、その身を捧げたんです。二十年もの間、ずっと自分の胸の内だけに、しまい込んで。そのつらさが、あなたには分からないんですかっ!?」
なりふり構わず、そう叫ぶ。
「コンキスさんだって分かっていますよね。支部長が、ずっと秘密にしていた理由。なのに……この仕打ちは、あんまりです。」
はあ……。全く。
「…良いか、ミヨ、スバル。俺は、この冒険者ギルドという組織の一員だ。組織の一員であれば、その規則に従うのは絶対だ。そして、俺は実際に法令違反をした。これは、覆せない。」
「それでも……。それでも、降格処分なんて、あんまりですっ! ずっと、このギルドのために尽くしてきてくれた方を、ただ一回のミスだけで…!」
俺は、二人の肩を叩く。そして、二人に微笑みかける。
「……いいんだ。俺の本当の役目は、終わったんだ。」
「そんな…。どうして……。」
「俺の役目はな、冒険者という職業を、皆が認めてくれるようにするための、ツナギだ。だが、不当な扱いを受けていたかつてに比べて、その待遇は劇的に改善した。本職を引退した今、俺にできることはない。それに……。」
二人の方を向く。……らしくない顔をしやがって。
「お前たちは、俺がいなくとも大丈夫だ。この数か月もの間、お前たちは沢山のことを吸収し、そして学んだ。お前たちの力は、大都市の支部にも劣らないだろう。そして、“落ちこぼれ”のユンクレア支部という汚名も、既に無くなりつつある。……違うか?」
「それでも……僕たちは、支部長に何も恩を返せていません。それに、まだまだやることが……。」
スバルが、顔を背ける。
「…いいや、恩は十分に返してもらったさ。」
今回の作戦、ミヨ、スバル、フラット、一人でも欠けていたら、成功しなかっただろう。作戦は、たてるだけでは無意味だ。実際に成功して、はじめて成り立つと言えよう。そんな作戦に、首を突っ込んでくれた。
……そして、こいつらの成長を見ることができた。
それだけで十分なんだ。
「支部長……。」
二人のことを、ギュッと抱きしめる。
…頼りない支部長で、ごめんな。
「……フーガ。」
そうか、こいつら、こんなにでかかったのか。
「……おい、フーガ。」
全く、それにすら気づけないなんてな。
「…フーガっ!!!」
コンキスが、後ろから叫ぶ。
「なんだ。最後のひと時を邪魔しやがって。こいつらも驚いてるじゃないか。」
「いいムードのところを邪魔してすまんがな……お前はさっきから何を言っているんだ?」
「……………………は?」
コンキスは、黙って俺に辞令を突きつける。…お前こそ、何を言っているんだ…と、言い返そう。
そう、思っていた。
「もう一度、この辞令をよく見ろ。」
「……?」
二人と同じように、疑問符を浮かべながら、辞令を見る。
辞令
フーガ・ラドカルト
本日付で、冒険者ギルド本部 経理部長 兼 地方統括部 ユンクレア支部 臨時支部長の任から解き、
地方統括部 ユンクレア支部 支部長に任命する。
………ん?
「……ちょーっと待って下さい? 全く分からないんですけど…。支部長は、降格処分になったのでは?」
ミヨが、俺の思ってることを代弁する。それにコンキスは、やれやれといった顔で答える。
「……実はな、フーガの籍は、一応本部にあったんだ。私が命じたのは、あくまでユンクレア支部の整理。そのため、身分は臨時支部長という扱い。階級は、元の赤色のままだったんだ。そこから一階級降格となったら、どうなる?」
「それは……“黄色”……ってまさか!」
スバルが、腑に落ちた顔をする。
…そういうことだったのか。
「元の階級“赤色”から、“黄色”階級への降格。本部での任を解くのも、当然だ。そこから考えられる、次の任命先は………決まっているだろう?」
コンキスが、俺に悪い顔でウィンクする。……こいつ。
「それじゃあ……支部長は……!」
「任務続行だ。フーガには、まだまだやってもらうことがあるからな。」
「「……よっしゃああああ!!!」」
二人が、歓声を上げる。
「お前たちは何を喜んでいるんだ? お前たちの上司に、階級降格という重い処分が下されたのに。」
ニタニタしながら、こちらを見る。野郎……悪い趣味を持っていやがる。
「…まあ兎に角。」
コンキスが、姿勢を正す。
「ユンクレア支部の諸君。君たちには引き続き、ユンクレア地域に於いて、冒険者支援の活動をしてもらう。………お前たちの仕事は何だっ!?」
俺たちも姿勢を正し、後ろに手を組み、大声で答える。
「「「冒険者を助け、手伝い、そして導く、常に良きパートナーとして支えることであるっ!!」」」
「…引き続き、期待している。フーガ支部長。」
「応っ、応えてやるとも!」
こうして、この事件は、俺の階級降格で、幕を閉じた。
◇
「……それにしても、コンキス副本部長、優しい方でしたね。」
「…そうか? 俺にはそうは思えんが……。」
中央街道を、馬車に揺られながら、戻っていく。
「……あ、見えてきましたよ!!」
スバルが、向こう側を指差す。ユンクレアの入り口、ユーグ村のゲートが見えた。
「…私たち、帰ってきたんですね。」
「…ああ、そうだな。」
これまでのことを、思い出す。
…本当に、長い戦いだった。だが…。
「良いか。帰ったらやることが、俺たちの本来の役割だ。気を引き締めて、取り掛かるぞ。」
「「はいっ!!!」」
声は、空へとこだました。
◇
「…し、し、しぶちょーーーっ!!!」
「…な、なんだ。一体どうした?」
帰ってきて早々、先にユンクレアに戻っていたフラットが、扉を開けた瞬間、俺に泣きついてきた。その両手には、大量の紙が握りしめられていた。
「…そういえば、ロインやクラムたちはどうした。 一緒にいたんじゃないのか?」
「そ、それが……この紙を置いて……帰ってしまって。」
両手の紙を、俺に差し出す。…まったく。照れ隠しで、手紙かなんかを書いたのか。やれやれ…読んでやらないとな……あいつらのラブレターを。
請求書
フーガ支部長 殿
遠征費、武器・食料費、迷惑料
その他込みで、以下の金額を請求する。
1000000マニー
それは、あんまりなラブレターだった。
あ、あいつらっ……!!
「そういえば、クラムさんから、伝言を預かっています。『緊急遠征費用として、本部から借り受ければ?』…と。」
あの野郎…簡単に言ってくれる。ただでさえ、ど貧なこの支部から、更に金を巻きあげようというわけか……! それに、俺はまだ降格処分を受けたばかりだ。申請が、簡単に通るわけがない。辛うじて、冒険者だった時の貯金は残っているが…。
そりゃあ、世話にはなったさ。でも、この仕打ちはないだろう。まったく……。
「……支部長。何、笑ってるんですか?」
「いや……何でもないさ。あいつららしいな、と思ってな。」
こうなったら、意地でもやってやろう。
ユンクレア支部の立て直しと、更なる資金の確保。
やることは増えたが、俺たちの目標に変わりはない。
「……さてと。それじゃあ、仕事を始めるとするか。」
「「「はいっ!!!」」」
ここは、冒険者ギルド。アスタル王国、ユンクレア支部。
俺たちは今日、再び世界に挑戦状を叩きつけた。
「…甘んじて受け入れよう。」
俺は、承諾する旨のサインをしようとした。
その時だった。
「…待ってくださいっ!!」
ミヨとスバルの二人が、扉を蹴り飛ばし入ってきた。…帰れと言ったのに。
「コンキス副本部長、それはあんまりです! 支部長は、冒険者を守り、そしてガウル帝国を守るために、その身を捧げたんです。二十年もの間、ずっと自分の胸の内だけに、しまい込んで。そのつらさが、あなたには分からないんですかっ!?」
なりふり構わず、そう叫ぶ。
「コンキスさんだって分かっていますよね。支部長が、ずっと秘密にしていた理由。なのに……この仕打ちは、あんまりです。」
はあ……。全く。
「…良いか、ミヨ、スバル。俺は、この冒険者ギルドという組織の一員だ。組織の一員であれば、その規則に従うのは絶対だ。そして、俺は実際に法令違反をした。これは、覆せない。」
「それでも……。それでも、降格処分なんて、あんまりですっ! ずっと、このギルドのために尽くしてきてくれた方を、ただ一回のミスだけで…!」
俺は、二人の肩を叩く。そして、二人に微笑みかける。
「……いいんだ。俺の本当の役目は、終わったんだ。」
「そんな…。どうして……。」
「俺の役目はな、冒険者という職業を、皆が認めてくれるようにするための、ツナギだ。だが、不当な扱いを受けていたかつてに比べて、その待遇は劇的に改善した。本職を引退した今、俺にできることはない。それに……。」
二人の方を向く。……らしくない顔をしやがって。
「お前たちは、俺がいなくとも大丈夫だ。この数か月もの間、お前たちは沢山のことを吸収し、そして学んだ。お前たちの力は、大都市の支部にも劣らないだろう。そして、“落ちこぼれ”のユンクレア支部という汚名も、既に無くなりつつある。……違うか?」
「それでも……僕たちは、支部長に何も恩を返せていません。それに、まだまだやることが……。」
スバルが、顔を背ける。
「…いいや、恩は十分に返してもらったさ。」
今回の作戦、ミヨ、スバル、フラット、一人でも欠けていたら、成功しなかっただろう。作戦は、たてるだけでは無意味だ。実際に成功して、はじめて成り立つと言えよう。そんな作戦に、首を突っ込んでくれた。
……そして、こいつらの成長を見ることができた。
それだけで十分なんだ。
「支部長……。」
二人のことを、ギュッと抱きしめる。
…頼りない支部長で、ごめんな。
「……フーガ。」
そうか、こいつら、こんなにでかかったのか。
「……おい、フーガ。」
全く、それにすら気づけないなんてな。
「…フーガっ!!!」
コンキスが、後ろから叫ぶ。
「なんだ。最後のひと時を邪魔しやがって。こいつらも驚いてるじゃないか。」
「いいムードのところを邪魔してすまんがな……お前はさっきから何を言っているんだ?」
「……………………は?」
コンキスは、黙って俺に辞令を突きつける。…お前こそ、何を言っているんだ…と、言い返そう。
そう、思っていた。
「もう一度、この辞令をよく見ろ。」
「……?」
二人と同じように、疑問符を浮かべながら、辞令を見る。
辞令
フーガ・ラドカルト
本日付で、冒険者ギルド本部 経理部長 兼 地方統括部 ユンクレア支部 臨時支部長の任から解き、
地方統括部 ユンクレア支部 支部長に任命する。
………ん?
「……ちょーっと待って下さい? 全く分からないんですけど…。支部長は、降格処分になったのでは?」
ミヨが、俺の思ってることを代弁する。それにコンキスは、やれやれといった顔で答える。
「……実はな、フーガの籍は、一応本部にあったんだ。私が命じたのは、あくまでユンクレア支部の整理。そのため、身分は臨時支部長という扱い。階級は、元の赤色のままだったんだ。そこから一階級降格となったら、どうなる?」
「それは……“黄色”……ってまさか!」
スバルが、腑に落ちた顔をする。
…そういうことだったのか。
「元の階級“赤色”から、“黄色”階級への降格。本部での任を解くのも、当然だ。そこから考えられる、次の任命先は………決まっているだろう?」
コンキスが、俺に悪い顔でウィンクする。……こいつ。
「それじゃあ……支部長は……!」
「任務続行だ。フーガには、まだまだやってもらうことがあるからな。」
「「……よっしゃああああ!!!」」
二人が、歓声を上げる。
「お前たちは何を喜んでいるんだ? お前たちの上司に、階級降格という重い処分が下されたのに。」
ニタニタしながら、こちらを見る。野郎……悪い趣味を持っていやがる。
「…まあ兎に角。」
コンキスが、姿勢を正す。
「ユンクレア支部の諸君。君たちには引き続き、ユンクレア地域に於いて、冒険者支援の活動をしてもらう。………お前たちの仕事は何だっ!?」
俺たちも姿勢を正し、後ろに手を組み、大声で答える。
「「「冒険者を助け、手伝い、そして導く、常に良きパートナーとして支えることであるっ!!」」」
「…引き続き、期待している。フーガ支部長。」
「応っ、応えてやるとも!」
こうして、この事件は、俺の階級降格で、幕を閉じた。
◇
「……それにしても、コンキス副本部長、優しい方でしたね。」
「…そうか? 俺にはそうは思えんが……。」
中央街道を、馬車に揺られながら、戻っていく。
「……あ、見えてきましたよ!!」
スバルが、向こう側を指差す。ユンクレアの入り口、ユーグ村のゲートが見えた。
「…私たち、帰ってきたんですね。」
「…ああ、そうだな。」
これまでのことを、思い出す。
…本当に、長い戦いだった。だが…。
「良いか。帰ったらやることが、俺たちの本来の役割だ。気を引き締めて、取り掛かるぞ。」
「「はいっ!!!」」
声は、空へとこだました。
◇
「…し、し、しぶちょーーーっ!!!」
「…な、なんだ。一体どうした?」
帰ってきて早々、先にユンクレアに戻っていたフラットが、扉を開けた瞬間、俺に泣きついてきた。その両手には、大量の紙が握りしめられていた。
「…そういえば、ロインやクラムたちはどうした。 一緒にいたんじゃないのか?」
「そ、それが……この紙を置いて……帰ってしまって。」
両手の紙を、俺に差し出す。…まったく。照れ隠しで、手紙かなんかを書いたのか。やれやれ…読んでやらないとな……あいつらのラブレターを。
請求書
フーガ支部長 殿
遠征費、武器・食料費、迷惑料
その他込みで、以下の金額を請求する。
1000000マニー
それは、あんまりなラブレターだった。
あ、あいつらっ……!!
「そういえば、クラムさんから、伝言を預かっています。『緊急遠征費用として、本部から借り受ければ?』…と。」
あの野郎…簡単に言ってくれる。ただでさえ、ど貧なこの支部から、更に金を巻きあげようというわけか……! それに、俺はまだ降格処分を受けたばかりだ。申請が、簡単に通るわけがない。辛うじて、冒険者だった時の貯金は残っているが…。
そりゃあ、世話にはなったさ。でも、この仕打ちはないだろう。まったく……。
「……支部長。何、笑ってるんですか?」
「いや……何でもないさ。あいつららしいな、と思ってな。」
こうなったら、意地でもやってやろう。
ユンクレア支部の立て直しと、更なる資金の確保。
やることは増えたが、俺たちの目標に変わりはない。
「……さてと。それじゃあ、仕事を始めるとするか。」
「「「はいっ!!!」」」
ここは、冒険者ギルド。アスタル王国、ユンクレア支部。
俺たちは今日、再び世界に挑戦状を叩きつけた。
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フーガさん、いいですね〜
最強の冒険者なのに、人間臭いですね〜
そうですね……自分の好きな要素を詰め込んじゃってると思います。ありがとうございます!
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お気に入り登録、ありがとうございます!!
フーガがもっと若いイメージだったんですが、キャラ紹介を読んで意外におっさんだったなと。だから当時の仲間もみんなそれなりの年齢だったかと驚きつつも、この経歴で若い方がおかしいかと思い直して納得。
お気に入りに追加しましたのでこれからも頑張ってください!
ありがとうございます!!
これからも楽しい作品を届けられるように、頑張ります!!