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第一章 ゼイウェンの花 編
3 レーヴの街と自由市場
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馬車から降り立った僕たちを包み込んだのは、さっきの談笑よりも明るい声。レーヴの入り口ではあるが、活気に溢れていたのは言うまでもなかった。僕たちに続いて降りた婦人は、談笑していた人々に挨拶すると、僕たちの方へとつかつかと歩いてきた。最後に降りたコールは、その賑やかさに驚いていた。
「………驚いたかしら?」
「はい。まさか、ここまでとは…。」
婦人の問いかけに、コールは正直に答える。帝都で見た情報に反して、街道を中心に一番が連なるこの光景は、まさか不景気に喘いでいるようには見えない。この様子を見ただけならば、フーロン商会が譲渡した店舗が不採算になる理由は見つからない。
………もう少し探りを入れないとね。
「私たちが今立っているこの街道が、レーヴを南北に繋ぐ“英雄街道”。その両脇を固めるのが、自由市場ね。」
街道を歩きながら、婦人が手振りとともに説明する。
“英雄街道”などと大層な名前がつけられているこの道は、ガウル帝国帝都ラクロポリスと聖クレイ国の皇都を結ぶ。名前は、かつてこの大陸を席巻した魔王を討伐するために、勇者が通ったとされる言い伝えに由来する。言い伝えと言っても、作り話などではない。かつて勇者が手にしたとされている道具の数々が、実際街道の途中にある主要な街で見つかっている。そのうちの一つ、“光の指輪”が、レーヴ中心の広場に佇む“英雄像”に飾られている。その像は広場から離れた位置にいる僕たちにもその姿をはっきりと捉えることができた。
「自由市場は、毎年実りの季節に行われる恒例行事でね。この日に限っては、一般市民も許可さえ下りれば商業税免除で商売をすることができるの。」
「なるほど………道理でこんなに店が多いわけだ。商業税が免除されるならば、商品を安く売ることができる。それに、集う品々も特定のジャンルに捉われないから、自分の欲しいものが見つけやすい…と。」
「商人にとっては良い気分にならないかもしれないけど、街の経済を回すことができるこの市場はとても大切なものなの。」
「分かっていますよ。僕はね………こういう市場、大好きなんです!」
香ばしい匂いがする屋台に近寄る。いやぁ~、これはまた美味しそうなオーク肉だ。それにこの野菜も新鮮だし………仲介の商人を通さないから、こんなに良い物が買えるんだなあ。
「………あなたの雇い主さんは、随分と変わっているのね。普通、嫌がるのに…。」
「………よく言われます。」
後ろから何か聞こえてくるが、気にしない。…お、この芋も随分と大きいなあ。
「おっ、ボウズ。うちの品が気に入ったかい?」
「ボウズではないケド………、うん。確かに良い物だね。五つちょうだい。」
「ありがとよ。五つで………銅貨三枚だぜ。」
安いな…。銅貨三枚は三百マニーだけど…。帝都でこの品質のものを求めようものなら、二倍以上取られても文句は言えないな。それだけ商業税免除が大きいものなのか、あるいは………。
「ねえ、おじさん。芋って、店で買うともっと高いと思うけどさ………どうしてこんなに安くできるの?」
「…子供なのに、随分と変なところに興味があるんだな。」
前掛けで手を軽く拭き、商品を並べている棚に貼ってあった紙を手渡す。
そこに書かれていたのは………。
「『農家の味方、“魔力矯正剤”。これ一粒で、収穫量は三倍に』………ね。」
魔力矯正剤………聞いたことがないな。大陸南西部で流行っている新手の肥料なのだろうか。
「ありがとう。おじさん、この紙、ちょっと借りても良いかい?」
「それは構わないが……小さな子供が欲しがる紙には思えないがなぁ………。」
ムッ………まだ勘違いしているか。商いをするなら、年齢を見る力ぐらいは身につけてほしいな。
「子供って言うけどさ………僕、こう見えて三十六だからね。じゃ、また後で!」
駆け足で、コールと婦人のところへと戻った。
「………さ、さんじゅう………ろく??」
「………驚いたかしら?」
「はい。まさか、ここまでとは…。」
婦人の問いかけに、コールは正直に答える。帝都で見た情報に反して、街道を中心に一番が連なるこの光景は、まさか不景気に喘いでいるようには見えない。この様子を見ただけならば、フーロン商会が譲渡した店舗が不採算になる理由は見つからない。
………もう少し探りを入れないとね。
「私たちが今立っているこの街道が、レーヴを南北に繋ぐ“英雄街道”。その両脇を固めるのが、自由市場ね。」
街道を歩きながら、婦人が手振りとともに説明する。
“英雄街道”などと大層な名前がつけられているこの道は、ガウル帝国帝都ラクロポリスと聖クレイ国の皇都を結ぶ。名前は、かつてこの大陸を席巻した魔王を討伐するために、勇者が通ったとされる言い伝えに由来する。言い伝えと言っても、作り話などではない。かつて勇者が手にしたとされている道具の数々が、実際街道の途中にある主要な街で見つかっている。そのうちの一つ、“光の指輪”が、レーヴ中心の広場に佇む“英雄像”に飾られている。その像は広場から離れた位置にいる僕たちにもその姿をはっきりと捉えることができた。
「自由市場は、毎年実りの季節に行われる恒例行事でね。この日に限っては、一般市民も許可さえ下りれば商業税免除で商売をすることができるの。」
「なるほど………道理でこんなに店が多いわけだ。商業税が免除されるならば、商品を安く売ることができる。それに、集う品々も特定のジャンルに捉われないから、自分の欲しいものが見つけやすい…と。」
「商人にとっては良い気分にならないかもしれないけど、街の経済を回すことができるこの市場はとても大切なものなの。」
「分かっていますよ。僕はね………こういう市場、大好きなんです!」
香ばしい匂いがする屋台に近寄る。いやぁ~、これはまた美味しそうなオーク肉だ。それにこの野菜も新鮮だし………仲介の商人を通さないから、こんなに良い物が買えるんだなあ。
「………あなたの雇い主さんは、随分と変わっているのね。普通、嫌がるのに…。」
「………よく言われます。」
後ろから何か聞こえてくるが、気にしない。…お、この芋も随分と大きいなあ。
「おっ、ボウズ。うちの品が気に入ったかい?」
「ボウズではないケド………、うん。確かに良い物だね。五つちょうだい。」
「ありがとよ。五つで………銅貨三枚だぜ。」
安いな…。銅貨三枚は三百マニーだけど…。帝都でこの品質のものを求めようものなら、二倍以上取られても文句は言えないな。それだけ商業税免除が大きいものなのか、あるいは………。
「ねえ、おじさん。芋って、店で買うともっと高いと思うけどさ………どうしてこんなに安くできるの?」
「…子供なのに、随分と変なところに興味があるんだな。」
前掛けで手を軽く拭き、商品を並べている棚に貼ってあった紙を手渡す。
そこに書かれていたのは………。
「『農家の味方、“魔力矯正剤”。これ一粒で、収穫量は三倍に』………ね。」
魔力矯正剤………聞いたことがないな。大陸南西部で流行っている新手の肥料なのだろうか。
「ありがとう。おじさん、この紙、ちょっと借りても良いかい?」
「それは構わないが……小さな子供が欲しがる紙には思えないがなぁ………。」
ムッ………まだ勘違いしているか。商いをするなら、年齢を見る力ぐらいは身につけてほしいな。
「子供って言うけどさ………僕、こう見えて三十六だからね。じゃ、また後で!」
駆け足で、コールと婦人のところへと戻った。
「………さ、さんじゅう………ろく??」
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