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第一章 ゼイウェンの花 編
8 何かがおかしい
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………それは、いつものように農作業の準備をしていた時のこと。
コンコン、と扉を叩く音が。こんな朝早くに来客だろうか、そう不審に思いつつも、外に一言かけました。
「………どちら様でしょう。」
すると、扉の向こうから聞こえてきたのは…。
「…フーロン商会のエーナです。」
聞きなれた声だった。
◇
扉を開けると、エーナの他にも数人の男が立っていた。フーロン商会の関係者であることは間違いないだろうが、初めて見る顔だった。彼らの前に立って私と対峙する彼女の顔から察するに、上司………つまり、本部の人間なのだろうと思った。
しかし、彼女が直に来るとは思いもしなかった。元々彼女………エーナには、フーロン商会がレーヴの街に支店を出した頃から様々なことで面倒を見てもらっていた。彼女は商人にしては珍しく農業についての知識を良く持ち合わせていた。新しい道具を買うとなった時に相談したら、それぞれの良し悪しをよく説明してくれたり、作物の管理がうまくいかない時に、意外な視点からアドバイスをしてくれたりと、本当に親切な人でもあった。農業に関することが話の中心ではあったが、お互いに話をするうちに意気投合をした。
とても、信頼していた。
………しかし、今になって思う。
その信頼こそが、間違いだったのではないか………と。
◇
「………話を聞く感じ、そのエーナさんが悪い人には思えないけどなぁ。」
「ですが…。……その訪ねてきた日、彼女は私に………“魔力矯正剤”を勧めてきました。」
その単語を口にした瞬間、思わずなのだろうが彼女の手に力が入ったのが分かった。
「……実は前日に、彼女にこんな相談を持ち掛けていました。最近、思ったように穀物が育たない。一体どうすればよいのだろうか…と。だから、彼女はその問題を解決するためのものを持ってきたのだろう……そう思ったんです。」
「説明は………?」
「勿論、ちゃんと受けました。この“魔力矯正剤”を使えば、従来よりも多くの穀物を育てることができるだろう、と。」
「………これを使うことによって生じるデメリットは?」
少し間をおいて、彼女は言った。
「………もしかすると、他の野菜が育てにくくなるかもしれない………と。」
「なるほどね………。」
婦人が言っていた通り、元々彼らフーロン商会は、この穀物問題を解決するために“魔力矯正剤”を持ち込んだのだろう。レーヴの街にて商売をする彼らが、わざわざ自分たちの首を絞めるように、不利益をもたらすとは考えにくいから、悪意はなかったはずだ。ところが、肝心な“魔力矯正剤”はまったく反対の効果を示してしまった。
「それが分からないんだよなぁ………。」
うーんと、思わず声が出てしまう。
彼らが改造の基にしたのであろう“成長促進剤”は、沢山の検証を経た上で開発されたもの。その効果をガウル皇帝の前で実演して見せ、高評価を得た、いわば皇帝のお墨付きだ。いくら改造をしたとしても、とんでもなく下手な職人でない限りは失敗するはずがない。それに、エレッセ王国の商売を取り締まるフーロン商会が、まさか自分たちの名を貶めるような職人を雇うはずもないのだ。
だから………このような結果になるのが、分からない。
首を巡らせていると、コールは向こうの畑を指さしながら何かを言ってきた。
「クラムさん、あの………何も植わっていない畑、何か変じゃないですか?」
「………変? うーん………。」
よく目を凝らす。頭を少し動かした時に、土が微かに光ったように感じた。水を沢山やった後ならば光るだろうが、あれは何も植わっていない畑だ。それに、前日に雨が降った気配もないから……。
「セリさん、あの畑は?」
彼女に疑問を尋ねると、向こうを見ながらこう答えた。
「…あれは、本来ならば穀物がとれたはずの畑です。」
「……少し拝見しても?」
どうぞ、と頷くと、僕たちを畑の方へと案内してくれた。畑の土の独特な匂いが鼻をつく。そして、収穫時期を迎えた野菜たちの香りも迫ってきた。
近づいてみると、謎の光の主をはっきりと捉えることができた。土を一つつまむ。その土を指でこすると、なにやらじゃりじゃりした感触の粒が出てきた。土を捨て、残った粒に改めて触れると、何やらひんやりしていた。土の冷たさなどではない。これは…。
「………何故、魔導石が土に?」
僕が呟くと、セリが意外だな、という顔で僕に答えた。
「…魔導石? この辺りの畑では、普通に使われている土ですよ。」
「それって、他の野菜の畑にも?」
「はい。ただ、他の街ではあまり見られない土質だとは思います。」
「………どういうことですか?」
僕が尋ねると、彼女は畑を見ながら何かを考え、答える。
「先程も言った通り、この辺りの畑は数年前まで領主ゼイウェン様が直接治められていました。………正確に言えば、畑ではありませんけど。」
「畑じゃない?」
コールが、そう繰り返す。
「はい。………数年前まで、この辺りは荒れ地だったんです。」
「………へえ?」
その答えに、思わず変な声が出てしまう。
僕が知っているのは、このエレッセ王国が“大陸の畑”と呼ばれる程、豊かな土地で溢れているということだけ。だから、このレーヴの街もてっきり、豊かな土地に恵まれていたのだろうと思っていた。
「それを畑にして、穀物を育てようと仰られたのが………当時の領主、ゼイウェン様です。」
コンコン、と扉を叩く音が。こんな朝早くに来客だろうか、そう不審に思いつつも、外に一言かけました。
「………どちら様でしょう。」
すると、扉の向こうから聞こえてきたのは…。
「…フーロン商会のエーナです。」
聞きなれた声だった。
◇
扉を開けると、エーナの他にも数人の男が立っていた。フーロン商会の関係者であることは間違いないだろうが、初めて見る顔だった。彼らの前に立って私と対峙する彼女の顔から察するに、上司………つまり、本部の人間なのだろうと思った。
しかし、彼女が直に来るとは思いもしなかった。元々彼女………エーナには、フーロン商会がレーヴの街に支店を出した頃から様々なことで面倒を見てもらっていた。彼女は商人にしては珍しく農業についての知識を良く持ち合わせていた。新しい道具を買うとなった時に相談したら、それぞれの良し悪しをよく説明してくれたり、作物の管理がうまくいかない時に、意外な視点からアドバイスをしてくれたりと、本当に親切な人でもあった。農業に関することが話の中心ではあったが、お互いに話をするうちに意気投合をした。
とても、信頼していた。
………しかし、今になって思う。
その信頼こそが、間違いだったのではないか………と。
◇
「………話を聞く感じ、そのエーナさんが悪い人には思えないけどなぁ。」
「ですが…。……その訪ねてきた日、彼女は私に………“魔力矯正剤”を勧めてきました。」
その単語を口にした瞬間、思わずなのだろうが彼女の手に力が入ったのが分かった。
「……実は前日に、彼女にこんな相談を持ち掛けていました。最近、思ったように穀物が育たない。一体どうすればよいのだろうか…と。だから、彼女はその問題を解決するためのものを持ってきたのだろう……そう思ったんです。」
「説明は………?」
「勿論、ちゃんと受けました。この“魔力矯正剤”を使えば、従来よりも多くの穀物を育てることができるだろう、と。」
「………これを使うことによって生じるデメリットは?」
少し間をおいて、彼女は言った。
「………もしかすると、他の野菜が育てにくくなるかもしれない………と。」
「なるほどね………。」
婦人が言っていた通り、元々彼らフーロン商会は、この穀物問題を解決するために“魔力矯正剤”を持ち込んだのだろう。レーヴの街にて商売をする彼らが、わざわざ自分たちの首を絞めるように、不利益をもたらすとは考えにくいから、悪意はなかったはずだ。ところが、肝心な“魔力矯正剤”はまったく反対の効果を示してしまった。
「それが分からないんだよなぁ………。」
うーんと、思わず声が出てしまう。
彼らが改造の基にしたのであろう“成長促進剤”は、沢山の検証を経た上で開発されたもの。その効果をガウル皇帝の前で実演して見せ、高評価を得た、いわば皇帝のお墨付きだ。いくら改造をしたとしても、とんでもなく下手な職人でない限りは失敗するはずがない。それに、エレッセ王国の商売を取り締まるフーロン商会が、まさか自分たちの名を貶めるような職人を雇うはずもないのだ。
だから………このような結果になるのが、分からない。
首を巡らせていると、コールは向こうの畑を指さしながら何かを言ってきた。
「クラムさん、あの………何も植わっていない畑、何か変じゃないですか?」
「………変? うーん………。」
よく目を凝らす。頭を少し動かした時に、土が微かに光ったように感じた。水を沢山やった後ならば光るだろうが、あれは何も植わっていない畑だ。それに、前日に雨が降った気配もないから……。
「セリさん、あの畑は?」
彼女に疑問を尋ねると、向こうを見ながらこう答えた。
「…あれは、本来ならば穀物がとれたはずの畑です。」
「……少し拝見しても?」
どうぞ、と頷くと、僕たちを畑の方へと案内してくれた。畑の土の独特な匂いが鼻をつく。そして、収穫時期を迎えた野菜たちの香りも迫ってきた。
近づいてみると、謎の光の主をはっきりと捉えることができた。土を一つつまむ。その土を指でこすると、なにやらじゃりじゃりした感触の粒が出てきた。土を捨て、残った粒に改めて触れると、何やらひんやりしていた。土の冷たさなどではない。これは…。
「………何故、魔導石が土に?」
僕が呟くと、セリが意外だな、という顔で僕に答えた。
「…魔導石? この辺りの畑では、普通に使われている土ですよ。」
「それって、他の野菜の畑にも?」
「はい。ただ、他の街ではあまり見られない土質だとは思います。」
「………どういうことですか?」
僕が尋ねると、彼女は畑を見ながら何かを考え、答える。
「先程も言った通り、この辺りの畑は数年前まで領主ゼイウェン様が直接治められていました。………正確に言えば、畑ではありませんけど。」
「畑じゃない?」
コールが、そう繰り返す。
「はい。………数年前まで、この辺りは荒れ地だったんです。」
「………へえ?」
その答えに、思わず変な声が出てしまう。
僕が知っているのは、このエレッセ王国が“大陸の畑”と呼ばれる程、豊かな土地で溢れているということだけ。だから、このレーヴの街もてっきり、豊かな土地に恵まれていたのだろうと思っていた。
「それを畑にして、穀物を育てようと仰られたのが………当時の領主、ゼイウェン様です。」
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