商人(あきんど)エルフは何処へ征く

拙糸

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第一章 ゼイウェンの花 編

7 フーロン商会の裏切り

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街道の外れ、裏道を歩くこと少し。目的の畑は、意外にも住宅街のすぐ裏にあった。
その眺めは………まさに、壮観と言ったところだろうか。

「なるほど………“大陸の畑”と言われるわけですね。見渡す限り、ここにあるのは畑…ですか。絶景ですね。」

コールは圧巻され、思わずそう漏らしていた。

「そうだね。いやぁ―、アテレーゼ商会が持っている畑全てを合わせても、ここには及ばないなァ。」
「何を言ってるんですか………。それよりも………やっぱり変ですね。」
「………そうだね。“大陸の畑”という二つ名は、その壮大な穀物畑から来ているはずなんだけど…。」

辺り一面を埋め尽くす畑。そこに植わっている作物は、殆どが穀物ではなかった。収穫期を迎えているとは言え、流石にこれは………少なすぎる。“魔力矯正剤”のマイナス効果は、ここまで大きいか…。
………すると、向こうの方から誰かが歩いてくるのが見えた。

「あれは………農家の方でしょうか。」
「………話を聞いてみるか。」

歩いてきたのは………わら編みの帽子を被った、女性。体力が必要となる仕事に就くとは、中々強い人らしいね。

「いやァ、立派な畑ですねェ。」

あっはは、と笑いかける。しかし、彼女はそれに微笑んで返したが、なんとも…。

「初めてですか。拝見するに………商人の方、ですよね。」

思わず、眉が動いてしまう。彼女の視線は、僕の帽子に向いていた。

「………何故お分かりに?」
「あなたの………その帽子についたバッジ。それって………公商紋章トレーダークレストですよね。」
「なるほど、これをご存じでしたか。」

帽子を外し、バッジを改めて掲げて見せる。

「ええ。………嫌になるほど、ね。」

それを見て、彼女の顔はより一層険しくなった。

「それって………まさか、ジャールのことでしょうかね?」
「何故その名をっ………? やはり、フーロン商会の人間ですかっ!!」

彼女は近くに置いてあった鍬を手に取り、構える。

「ちょ、ちょっと待ってください! 違いますよ、ぼ、僕はっ!」
「悪人に見えるかもしれませんが、フーロン商会とは何の関係もありませんっ! ほら、こちらをっ!」

コールが良いところで、手帳に挟んであった商業登録証を示す。

「………アテレーゼ商会、クラム・アテレーゼ…。」

手帳と僕の顔を、何度も見比べる。二ヒッと、笑ってみせた。

「この通り、この手帳に貼ってある写顔紙しゃがんしは僕のものです。これでどうでしょう?」

僕がフーロン商会の人間でないと分かると、ほっと胸をなでおろすとともに、慌てて頭を下げた。

「もっ、申し訳ありませんでしたっ! 見ず知らずの方に無礼なことを………。」
「気にしないでくださいよ、ほら………頭を上げて。」

さり気なく僕を悪人面だと言ったコーちゃんの方が、ヒドイからね…。そういった視線を送るも、コールは我関せずの表情だった。
女性は帽子を取って、再び頭を下げた。

「私は、この辺りの畑を管理している…セリと申します。」
「申し遅れました。私は、商会長の秘書をしている、コールです。」

コールも、同じようにペコリと頭を下げた。

「ご丁寧にどうも………。それで、この畑は………。」

視線を移す。セリと同じように、わら編みの帽子を被った人々が作業していた。しかし、彼らの大多数が刈っていたのは………穀物ではなかった。

「………数年前まで、この辺りの畑は…領主であるゼイウェン様直々に治められていました。」
「ゼイウェン………。」

その名を聞いて、コールが微かにそう反芻した。

「ゼイウェン様が治められていた時には、それはもう美しき黄金の絨毯と呼ばれる程の、沢山の穀物が収穫できました。」

セリは畑に一歩、歩みを進める。

「ある日………ジャールと名乗る男が現れ、こう言いました。『私は、ゼイウェン様から打診され、この土地の管理を引き継ぐことになった。』と。フーロン商会自体が畑に直接手を入れるようなことはしない。そうも言いました。」

畑から、人々が一生懸命に働く音が、こちらにまで聞こえてくる。

「彼が宣言した通り、畑で働く私たちに口を出したり、その畑に手を入れることはありませんでした。私たちも、ゼイウェン様が仰られたことだからと、受け入れた。元々フーロン商会は、レーヴの街で商いをしていて、私たちも店から農業用の道具を買っていたために、信頼関係が築かれていましたから。………ところが。」

ギッと、音が聞こえてくるほどに、力強く歯を食いしばる。

「彼らは………私を………私たちを裏切ったっ…!!」
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