商人(あきんど)エルフは何処へ征く

拙糸

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第一章 ゼイウェンの花 編

28 支店長

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「……これが、“育成剤”か。」

ラーズの街にある、フーロン商会の支店。そこに、それはあった。
参考のため、一つ買おうとする。

「すいませーん、これ一つ、いただきたいんですけど…。」

そう声を掛ける。受け付けの人にはものすごく親切に応対してもらったのだが…。
気になるのが、奥にいる人物の反応。
業務をこなしながら、こちらをチラチラと伺っているようだった。
…あれ、絶対に僕の正体に気づいているね。



中にいる人物の反応が少し気になったものの、無視して“育成剤”を購入し、店を出た。
街道沿いにある休憩用のテーブルに“矯正剤”をまじまじと観察する。
“魔力矯正剤”とはデザインが異なるものの、裏面に書かれた成分表を見ると……。

「こりゃ真っ黒だなぁ……。」

“魔力矯正剤”の成分とほぼ同じ。違うのは、一カ所のみ。

「これではっきりしたね。ジャールが、どうしてレーヴの街に“魔力矯正剤”を売りつけたか。」

ジャールの仕掛けた、“魔力矯正剤”による混乱の真実。その意図は、もう読めた。この“育成剤”はその証拠になるだろう。
問題は………。

「なぜ、レーヴの支店が“赤字”だったのか。その証拠を掴まない限り、ジャールを問い詰めることはできないだろうねぇ…。」

そう言った矢先。

「……アテレーゼ商会長とお見受けします。」

後ろから、突然そう声をかけられる。
振り向くと…そこに立っていたのは、緑色を基調とし、赤のワンポイントが胸に入った制服に身を包んだ男が一人。

「君は…………。」

さっき、僕のことを奥でチラチラと見ていた初老の男。僕の目の前に、そいつは現れた。

「お初にお目にかかります。私は、フーロン商会のラーズ支店で支店長を務めている、サブロと申します。」

そう言うと、頭に着けた帽子を取り、彼は深く頭を下げた。

「……お願いしたいことがあります。少々お時間を頂戴致したく……。」



ラーズ支店の裏側。木々に囲まれ、表通りからは見えないそこには、小さな出入り口があった。
サブロに手招きされ、その中へと入ると…そこは、従業員用の控室だった。

「この先に、私の執務室があります。」

そう言い、鍵のかかった扉を開けた先に広がっていたのは……整然とした部屋だった。
整理整頓され、清掃も隅から隅まで行き届いたその部屋は、まるでどこかの貴族の屋敷のような美しさだった。……僕とはえらい違いだね。

「こちらにおかけください。」

彼は執務室の真ん中に置かれた、立派なソファへと案内してくれた。お言葉に甘えて座らせてもらおう。

「………随分、綺麗にされているんですね。」

思わず、そう口にする。
商会の支店長の仕事は多忙だ。日々の経理の確認、本部からの仕入れと在庫の確認、売り上げのチェック、シフトの管理など……その業務を挙げだしたら、枚挙にいとまがない。そんな中でも、これだけ清掃が行き届いている。それは、このサブロ支店長の勤勉実直さが表れている、そう思った。何故そんなことが分かるのか?僕とは対照的だからだ。
そう声をかけると、彼は穏やかな笑顔を浮かべた。

「…恐れ入ります。私が以前お世話になっていた方が、ものすごいきれい好きでしてね。その影響ですよ。」
「なるほど……。」
「そうだ、お茶をお出ししないと。私としたことが、失念していた…。」

思い出しかのように手をポンと叩き、窓際に置かれたティーポットを手に取った。
お茶は、湯気を立たせながらカップへと注がれてゆく。

「そういえば、よく僕の顔をご存じでしたね。」

その言葉に、一瞬黙ったサブロ。お茶を注ぐ彼は、少し間を置いて、口を開いた。

「……以前、あなたの写顔紙を拝見したことがありましてね。それで、気づいたんです。あなたが“育成剤”を購入されてる時に、何処かで見た顔だな……と。」

二つ目のカップに、お茶を注ぎ始める。

「なるほど。」
「あと、私共の商会長を脅したという噂が、当方で流れておりましてね。顔つきで。」
「アハハ、脅したって……。」

思わず、苦笑する。隣に座ったコールもまた、苦笑いしていた。

「……人聞きが悪いなぁ。」
「いや、真実ですけどね……。」

コールがそう突っ込むが、気にしない。
三つカップに注いだお茶を、サブロは一つ一つ丁寧に置いた。
カップを手に取り、一口飲む。お茶にはさも似合わない爽やかな香りが、鼻を抜けていった。
……この香り。

「随分と、珍しい茶葉を使っているんですね。」

その一言に一瞬、サブロは反応する。
先ほどまでの穏やかな笑顔が、一瞬だけ固まったのだ。しかし、すぐに元に戻った。

「さすがですな。これは、大陸南部の山地でしか採れない、貴重な茶葉でしてね。それが…。」
「お気に入り、というわけですね。」

カップを机に置く。

「偶然ですかね。僕は……珍しく貴重で滅多にお目にかかれないはずのお茶。これと全く同じものを、。」

その言葉に、サブロはあからさまな動揺を示す。コールは僕のその言葉で、お茶の香りの違和感に気づいたようだった。

「……単刀直入に伺いましょう。あなたの目的は……何ですか?」

僕は……そう笑顔で、彼に問いを投げた。
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