28 / 36
第一章 ゼイウェンの花 編
27 ラーズの街と国営鉱山
しおりを挟む
太陽が南に昇り、だいぶ経った頃。僕たちは、英雄街道の宿場町、ラーズに到着した。
ここまでくれば、王都マーゼまであと一日ばかりあれば着くというところ。というわけで、少し腹ごしらえをしたくてこの街に立ち寄ったのだ。
「やっぱり、ここは活気がありますね。」
「ラーズは、英雄街道の宿場町のなかではかなり大きめな分類に入るからねぇ。」
コールの感嘆に対して、そう返す。
英雄街道が整備されてすぐの頃に、ここラーズは成立した。最初は、馬車の馬を休めることのできる休憩所しかなかったここも、今では様々な店が軒を連ね、まさに盛況といった様相だ。
「それに、ここには………アレがある。」
ふっふっふっ、何を隠そう、僕はこのためだけにラーズに立ち寄っている。
それが………。
「美味しいぃ!!」
熱々に熱せられた、油の光る黒黒とした鉄板。その上でジューッと景気の良い音とともに炒められるは、この地の特産、オーク肉。そして、それが豊富な種類の香味野菜とともに炒められる。なんとも異風な香りが、鼻をくすぐる。“山賊の炒め物”と呼ばれるそれは、かつて大陸東方から渡り、このあたりを根城にしていた山賊たちが伝えたと言われている。まあ、真偽の程は定かではないが…味は確かだ。
ここでしか食べられないこの味が僕は好きで、エレッセ王国遠征の際は必ず一度は食べる。
相変わらず美味しいな……。だけど……。
「コーちゃんさ、やっぱり変だよね。」
「………何がですか?」
野外に設置された休憩用の椅子に腰掛け、コールに尋ねる。うーん、気付かないか。
「挟んである野菜だよ。」
「…変ですか?いつも食べてるやつと変わらないように思いますけど。」
そう言い、コールは皿の上に載った“山賊の炒め物”をまじまじと見る。…店主に聞くほうが早いか。
「おじさーん、炒め物に入ってる野菜、新しくなったー?」
テントの下で、タオルで汗を拭いながら炒める店主は、こちらの呼びかけに気づき顔を上げる。
「ああ、気づいたかぁ。本当は、アクセントにメジュルの新芽を入れるんだが、今年はメジュルが不作らしくてな。高くて高くて……。手が出せねえんだ。」
首を横に振り、そう答える。
ああ、あの緑の葉っぱ、メジュルの新芽だったんだ。メジュルは順調に育つと、秋ごろに立派な穂を垂らす。その実は加工されて、パンなどに使われるのだが…。実はその新芽はかなりスパイシーで、料理でちょっとした味を立たせたい時に、刻んで入れるととても美味しくいただけるのだ。だけど……そっか、だから何かパンチが足りないと思ったんだ。
……うん?
メジュル……メジュル。あれ、つい最近何処かで聞いたな。
「クラムさん、メジュルって……。レーヴで不作になってる、穀物ですよね。このあたりでも採れないんですね…。」
そう言い頷きながら、炒め物を頬張るコール。
……不作。
エレッセ王国、“大陸の畑”は何もレーヴに限って付けられた呼称ではない。王国の北部、穀物が育つ豊かな土地全体を指す。このあたり……ラーズもまた然りだ。
…嫌な予感が、頭を駆け巡る。
「……コーちゃんさ、エレッセ王国の国営鉱山って、何処だったっけ?」
◇
「これは…………。」
ラーズから歩くこと数十分。
そこには、木々が切られ、切り開かれた山肌が広がっていた。
山体には大きな穴がいくつも掘られ、たくさんの人々が作業にあたっている。建設用の材木がひっきりなしに搬入され、喧騒に包まれていた。
「…クラムさん。これって…。」
「国営鉱山、開発はまだ始まっていないと思ってたけど……。」
目の前に広がる景色て確信できる。国営鉱山の開発は、かなり前の段階から計画され、実行に移されていたことが。
すると、鉱山を掘る大型の機械が、何台も搬入されてきた。それを見て、ピンときた。
あの機械は……。
「……オルモタイトだ。この国営鉱山で掘ろうとしているのは、オルモタイトだよ、コーちゃん。」
僕は、ある種の確信をもってそう答える。
すると、コールは疑問符を浮かべた表情をする。
「でも……ここで掘るなら、なおさらレーヴを手放した意味が分かりませんよ。」
「どうしてそう思うの?」
「…国営鉱山という名を背負う以上、失敗は許されない。プレッシャーも相当なはずです。国営鉱山の開発がこれだけ進んでいるということは、計画はかなり前からあったはず。同じような条件立地のレーヴで鉱山開発のプレテストをしてから挑めばいいと思うんですけどね…。ジャールの商売についての評判を考えれば、余計におかしく思えます。」
確かに、コールの言う通り。ヤツの商売の巧さからして、動きがあまりにもおかしい。
ただ、このおかしさも……もうすぐで、明らかになる。
“確信”が、“確実”に変わった。
◇
しばらくして。
ラーズの街に戻ってくると、店主が休憩のためか、鉄板に大きな蓋を被せ、背伸びをしていた。
「おじさん、“山賊の炒め物”、美味しかったよ。」
「そうかい。いつも、ありがとうな。」
時たましか来てないのに、覚えてくれてるんだ。うれしいな。
「もうしばらくすりゃ、メジュルも入ってくるんだがなぁ…。」
「あれ、不作で採れないんじゃなかったの?」
そう尋ねると、店主はタオルで頭を拭い、鉄板の脇に置いてあるチラシを持ってきてくれた。
「この間、懇意にしてる農家からほら、この……“新型育成剤”ってやつの話を聞いてな。鉱山開発が始まった頃から、穀物が取れにくくなったらしいんだが…。この育成剤、かなり効くみたいだぞ。穀物の新芽が順調に育ってるって……。」
「おじさん!!その“育成剤”、どこにある!?」
店主に思わず詰め寄る。
「…み、店だ。普通にそこら辺の店に売ってるぞ。」
ここまでくれば、王都マーゼまであと一日ばかりあれば着くというところ。というわけで、少し腹ごしらえをしたくてこの街に立ち寄ったのだ。
「やっぱり、ここは活気がありますね。」
「ラーズは、英雄街道の宿場町のなかではかなり大きめな分類に入るからねぇ。」
コールの感嘆に対して、そう返す。
英雄街道が整備されてすぐの頃に、ここラーズは成立した。最初は、馬車の馬を休めることのできる休憩所しかなかったここも、今では様々な店が軒を連ね、まさに盛況といった様相だ。
「それに、ここには………アレがある。」
ふっふっふっ、何を隠そう、僕はこのためだけにラーズに立ち寄っている。
それが………。
「美味しいぃ!!」
熱々に熱せられた、油の光る黒黒とした鉄板。その上でジューッと景気の良い音とともに炒められるは、この地の特産、オーク肉。そして、それが豊富な種類の香味野菜とともに炒められる。なんとも異風な香りが、鼻をくすぐる。“山賊の炒め物”と呼ばれるそれは、かつて大陸東方から渡り、このあたりを根城にしていた山賊たちが伝えたと言われている。まあ、真偽の程は定かではないが…味は確かだ。
ここでしか食べられないこの味が僕は好きで、エレッセ王国遠征の際は必ず一度は食べる。
相変わらず美味しいな……。だけど……。
「コーちゃんさ、やっぱり変だよね。」
「………何がですか?」
野外に設置された休憩用の椅子に腰掛け、コールに尋ねる。うーん、気付かないか。
「挟んである野菜だよ。」
「…変ですか?いつも食べてるやつと変わらないように思いますけど。」
そう言い、コールは皿の上に載った“山賊の炒め物”をまじまじと見る。…店主に聞くほうが早いか。
「おじさーん、炒め物に入ってる野菜、新しくなったー?」
テントの下で、タオルで汗を拭いながら炒める店主は、こちらの呼びかけに気づき顔を上げる。
「ああ、気づいたかぁ。本当は、アクセントにメジュルの新芽を入れるんだが、今年はメジュルが不作らしくてな。高くて高くて……。手が出せねえんだ。」
首を横に振り、そう答える。
ああ、あの緑の葉っぱ、メジュルの新芽だったんだ。メジュルは順調に育つと、秋ごろに立派な穂を垂らす。その実は加工されて、パンなどに使われるのだが…。実はその新芽はかなりスパイシーで、料理でちょっとした味を立たせたい時に、刻んで入れるととても美味しくいただけるのだ。だけど……そっか、だから何かパンチが足りないと思ったんだ。
……うん?
メジュル……メジュル。あれ、つい最近何処かで聞いたな。
「クラムさん、メジュルって……。レーヴで不作になってる、穀物ですよね。このあたりでも採れないんですね…。」
そう言い頷きながら、炒め物を頬張るコール。
……不作。
エレッセ王国、“大陸の畑”は何もレーヴに限って付けられた呼称ではない。王国の北部、穀物が育つ豊かな土地全体を指す。このあたり……ラーズもまた然りだ。
…嫌な予感が、頭を駆け巡る。
「……コーちゃんさ、エレッセ王国の国営鉱山って、何処だったっけ?」
◇
「これは…………。」
ラーズから歩くこと数十分。
そこには、木々が切られ、切り開かれた山肌が広がっていた。
山体には大きな穴がいくつも掘られ、たくさんの人々が作業にあたっている。建設用の材木がひっきりなしに搬入され、喧騒に包まれていた。
「…クラムさん。これって…。」
「国営鉱山、開発はまだ始まっていないと思ってたけど……。」
目の前に広がる景色て確信できる。国営鉱山の開発は、かなり前の段階から計画され、実行に移されていたことが。
すると、鉱山を掘る大型の機械が、何台も搬入されてきた。それを見て、ピンときた。
あの機械は……。
「……オルモタイトだ。この国営鉱山で掘ろうとしているのは、オルモタイトだよ、コーちゃん。」
僕は、ある種の確信をもってそう答える。
すると、コールは疑問符を浮かべた表情をする。
「でも……ここで掘るなら、なおさらレーヴを手放した意味が分かりませんよ。」
「どうしてそう思うの?」
「…国営鉱山という名を背負う以上、失敗は許されない。プレッシャーも相当なはずです。国営鉱山の開発がこれだけ進んでいるということは、計画はかなり前からあったはず。同じような条件立地のレーヴで鉱山開発のプレテストをしてから挑めばいいと思うんですけどね…。ジャールの商売についての評判を考えれば、余計におかしく思えます。」
確かに、コールの言う通り。ヤツの商売の巧さからして、動きがあまりにもおかしい。
ただ、このおかしさも……もうすぐで、明らかになる。
“確信”が、“確実”に変わった。
◇
しばらくして。
ラーズの街に戻ってくると、店主が休憩のためか、鉄板に大きな蓋を被せ、背伸びをしていた。
「おじさん、“山賊の炒め物”、美味しかったよ。」
「そうかい。いつも、ありがとうな。」
時たましか来てないのに、覚えてくれてるんだ。うれしいな。
「もうしばらくすりゃ、メジュルも入ってくるんだがなぁ…。」
「あれ、不作で採れないんじゃなかったの?」
そう尋ねると、店主はタオルで頭を拭い、鉄板の脇に置いてあるチラシを持ってきてくれた。
「この間、懇意にしてる農家からほら、この……“新型育成剤”ってやつの話を聞いてな。鉱山開発が始まった頃から、穀物が取れにくくなったらしいんだが…。この育成剤、かなり効くみたいだぞ。穀物の新芽が順調に育ってるって……。」
「おじさん!!その“育成剤”、どこにある!?」
店主に思わず詰め寄る。
「…み、店だ。普通にそこら辺の店に売ってるぞ。」
0
あなたにおすすめの小説
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる