商人(あきんど)エルフは何処へ征く

拙糸

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第一章 ゼイウェンの花 編

27 ラーズの街と国営鉱山

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太陽が南に昇り、だいぶ経った頃。僕たちは、英雄街道の宿場町、ラーズに到着した。
ここまでくれば、王都マーゼまであと一日ばかりあれば着くというところ。というわけで、少し腹ごしらえをしたくてこの街に立ち寄ったのだ。

「やっぱり、ここは活気がありますね。」
「ラーズは、英雄街道の宿場町のなかではかなり大きめな分類に入るからねぇ。」

コールの感嘆に対して、そう返す。
英雄街道が整備されてすぐの頃に、ここラーズは成立した。最初は、馬車の馬を休めることのできる休憩所しかなかったここも、今では様々な店が軒を連ね、まさに盛況といった様相だ。

「それに、ここには………がある。」

ふっふっふっ、何を隠そう、僕はこのためだけにラーズに立ち寄っている。
それが………。

「美味しいぃ!!」

熱々に熱せられた、油の光る黒黒とした鉄板。その上でジューッと景気の良い音とともに炒められるは、この地の特産、オーク肉。そして、それが豊富な種類の香味野菜とともに炒められる。なんとも異風な香りが、鼻をくすぐる。“山賊の炒め物”と呼ばれるそれは、かつて大陸東方から渡り、このあたりを根城にしていた山賊たちが伝えたと言われている。まあ、真偽の程は定かではないが…味は確かだ。
ここでしか食べられないこの味が僕は好きで、エレッセ王国遠征の際は必ず一度は食べる。
相変わらず美味しいな……。だけど……。

「コーちゃんさ、やっぱり変だよね。」
「………何がですか?」

野外に設置された休憩用の椅子に腰掛け、コールに尋ねる。うーん、気付かないか。

「挟んである野菜だよ。」
「…変ですか?いつも食べてるやつと変わらないように思いますけど。」

そう言い、コールは皿の上に載った“山賊の炒め物”をまじまじと見る。…店主に聞くほうが早いか。

「おじさーん、炒め物に入ってる野菜、新しくなったー?」

テントの下で、タオルで汗を拭いながら炒める店主は、こちらの呼びかけに気づき顔を上げる。

「ああ、気づいたかぁ。本当は、アクセントにメジュルの新芽を入れるんだが、今年はメジュルが不作らしくてな。高くて高くて……。手が出せねえんだ。」

首を横に振り、そう答える。
ああ、あの緑の葉っぱ、メジュルの新芽だったんだ。メジュルは順調に育つと、秋ごろに立派な穂を垂らす。その実は加工されて、パンなどに使われるのだが…。実はその新芽はかなりスパイシーで、料理でちょっとした味を立たせたい時に、刻んで入れるととても美味しくいただけるのだ。だけど……そっか、だから何かパンチが足りないと思ったんだ。
……うん?
メジュル……メジュル。あれ、つい最近何処かで聞いたな。

「クラムさん、メジュルって……。レーヴで不作になってる、穀物ですよね。このあたりでも採れないんですね…。」

そう言い頷きながら、炒め物を頬張るコール。
……不作。
エレッセ王国、“大陸の畑”は何もレーヴに限って付けられた呼称ではない。王国の北部、穀物が育つ豊かな土地全体を指す。このあたり……ラーズもまた然りだ。
…嫌な予感が、頭を駆け巡る。

「……コーちゃんさ、エレッセ王国の国営鉱山って、何処だったっけ?」



「これは…………。」

ラーズから歩くこと数十分。
そこには、木々が切られ、切り開かれた山肌が広がっていた。
山体には大きな穴がいくつも掘られ、たくさんの人々が作業にあたっている。建設用の材木がひっきりなしに搬入され、喧騒に包まれていた。

「…クラムさん。これって…。」
「国営鉱山、開発はまだ始まっていないと思ってたけど……。」

目の前に広がる景色て確信できる。国営鉱山の開発は、かなり前の段階から計画され、実行に移されていたことが。
すると、鉱山を掘る大型の機械が、何台も搬入されてきた。それを見て、ピンときた。
あの機械は……。

「……オルモタイトだ。この国営鉱山で掘ろうとしているのは、オルモタイトだよ、コーちゃん。」

僕は、ある種の確信をもってそう答える。
すると、コールは疑問符を浮かべた表情をする。

「でも……ここで掘るなら、なおさらレーヴを手放した意味が分かりませんよ。」
「どうしてそう思うの?」
「…国営鉱山という名を背負う以上、失敗は許されない。プレッシャーも相当なはずです。国営鉱山の開発がこれだけ進んでいるということは、計画はかなり前からあったはず。同じような条件立地のレーヴで鉱山開発のプレテストをしてから挑めばいいと思うんですけどね…。ジャールの商売についての評判を考えれば、余計におかしく思えます。」

確かに、コールの言う通り。ヤツの商売の巧さからして、動きがあまりにもおかしい。
ただ、このおかしさも……もうすぐで、明らかになる。
“確信”が、“確実”に変わった。



しばらくして。
ラーズの街に戻ってくると、店主が休憩のためか、鉄板に大きな蓋を被せ、背伸びをしていた。

「おじさん、“山賊の炒め物”、美味しかったよ。」
「そうかい。いつも、ありがとうな。」

時たましか来てないのに、覚えてくれてるんだ。うれしいな。

「もうしばらくすりゃ、メジュルも入ってくるんだがなぁ…。」
「あれ、不作で採れないんじゃなかったの?」

そう尋ねると、店主はタオルで頭を拭い、鉄板の脇に置いてあるチラシを持ってきてくれた。

「この間、懇意にしてる農家からほら、この……“新型育成剤”ってやつの話を聞いてな。鉱山開発が始まった頃から、穀物が取れにくくなったらしいんだが…。この育成剤、かなり効くみたいだぞ。穀物の新芽が順調に育ってるって……。」
「おじさん!!その“育成剤”、どこにある!?」

店主に思わず詰め寄る。

「…み、店だ。普通にそこら辺の店に売ってるぞ。」
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