36 / 36
第一章 ゼイウェンの花 編
35 取引開始
しおりを挟む
「それでは………国営鉱山運営主体募集に係る、コンペティションを始める。」
フリット第一王子の号令に合わせ、大きく長い机を囲んだ商人たちは一斉に起立し、深く礼をした。
僕とコールもまた、同じようにする。向こう側には、取り巻きを携えたハグレーラが、頭を下げる姿が見えた。
「さて……本日、貴殿達に集まってもらったのは他でもない。エレッセ王国ラーズに建設予定の国営鉱山についてだ。」
指示を出すと、王子の側近と思しき女性が資料を配る。
何十ページもの紙で構成された分厚いそれをめくると、国営鉱山のプロジェクトをどのような順番で進めていきたいのか、どのような環境が必要なのか、などなど…逐一記録されていた。
どれほどの熱意を持って開発に挑むのか、ということがよく表れていると思う。……思惑は差し置いて。
側近は、壁にも資料を貼っていった。
「ガウル帝国大学の研究チームに協力をしてもらい調査したところ、我が国の国費・技術等だけでは、質が良く安定した生産基盤を作ることは難しいという結論に至った。」
協力、ねぇ……。
ま、その本質が何かは知らないけど。
資料とにらめっこし、難しい顔をする商人が多い中、ハグレーラだけはペラペラとめくっていき、ニコニコとしていた。
「そこで……貴殿たちの力を借りたいのだ。」
フリット王子は席を立ち、一歩前へと歩み出る。
「我がエレッセ王国は、元来資金力が十分でなく、物流等に関わる狭い街道や過酷な道の整備を長年行えなかった。」
拳を震わせ、顔に苦悶の表情を浮かべる。
“道”を見ればその国の財政状況が分かる、というのは商人にとって共通の知識。
街道整備の資金は、その道が通るエリア毎…つまり各国持ちだから、余裕がない場合は後回しになる。
エレッセ王国と他国を結ぶ主要三街道以外は道の舗装、雑草処理、安全管理などがしっかりされておらず、断崖スレスレを通るルートに至っては、崩落している箇所もある。
“大陸の畑”、エレッセの資金難は目に見えて分かる。
フリットは、バンッ、と机をたたく。
「しかしっ、そのハンディをものともせず、物流の発展に寄与し、我が国民に潤いと希望をもたらしてくれた者たちがいる。」
顔をあげ、僕らを見渡す。
「それが、貴殿たちだ。」
そして……。
「物流支援の政策が中々打ち出せないにも関わらず、積極的にエレッセ王国を中心に販路を構築し、拡大するフーロン商会とジャール商会長をはじめとした貴殿たちに……、我々は本当に感謝している。」
深く、頭を下げる。
どんな時であっても、国を第一に考えられる為政者は強い。国民はそれをよく見ている。
フリットには少々強引とも思えるようなやり口が目立つが、しかしそれは……国を憂う思いからくるもの、なのだろうか。
「今回も、再び貴殿たちの力を借りることになる。今日のコンペティションで求めるは……“効率性”だ。」
「あの……効率性とは、何を指しておられるのでしょうか?」
苦悶の表情を浮かべていた商人のうちの一人が、フリットにそう問いかける。それを筆頭に、ざわめき出した。
確かにそうだ。時間なのか、金なのか。はたまた……。
「……うむ。我らが求めるのは…………生産効率だ。」
「生産効率………。」
再び商人たちは口々に話し始める。
「資料に記載したが、この国営鉱山で掘るのは………“オルモタイト”だ。」
その単語に、商人たちのどよめきは一層大きくなり、各々首をかしげる。これは無理だ、とお手上げをする商人もいる。
オルモタイト……。やっぱりか。
「オルモタイトは、魔道具加工原料としては一級の鉱石だ。それを大量生産し、輸出をする体制が構築できれば、我が国の財政状況は安泰のものとなる。」
壁に貼った資料を指さしながら、そうフリットは言う。
さて……頃合いだな。
「……お待ち下さい。」
手を挙げ、声を張る。商人たちのどよめきは一旦落ち着き、僕へと視線が注がれる。フリットは一瞬眉をひそめるも、素の表情に戻り、口を開く。
「どうした。」
「オルモタイトの生産基盤で……財政状況が安泰、それ、本当ですかね?」
そう資料を見せながら言う。
先ほどから我関せずの態度だったハグレーラも、こちらへと視線を移した。
……さあ、取引開始だ。
フリット第一王子の号令に合わせ、大きく長い机を囲んだ商人たちは一斉に起立し、深く礼をした。
僕とコールもまた、同じようにする。向こう側には、取り巻きを携えたハグレーラが、頭を下げる姿が見えた。
「さて……本日、貴殿達に集まってもらったのは他でもない。エレッセ王国ラーズに建設予定の国営鉱山についてだ。」
指示を出すと、王子の側近と思しき女性が資料を配る。
何十ページもの紙で構成された分厚いそれをめくると、国営鉱山のプロジェクトをどのような順番で進めていきたいのか、どのような環境が必要なのか、などなど…逐一記録されていた。
どれほどの熱意を持って開発に挑むのか、ということがよく表れていると思う。……思惑は差し置いて。
側近は、壁にも資料を貼っていった。
「ガウル帝国大学の研究チームに協力をしてもらい調査したところ、我が国の国費・技術等だけでは、質が良く安定した生産基盤を作ることは難しいという結論に至った。」
協力、ねぇ……。
ま、その本質が何かは知らないけど。
資料とにらめっこし、難しい顔をする商人が多い中、ハグレーラだけはペラペラとめくっていき、ニコニコとしていた。
「そこで……貴殿たちの力を借りたいのだ。」
フリット王子は席を立ち、一歩前へと歩み出る。
「我がエレッセ王国は、元来資金力が十分でなく、物流等に関わる狭い街道や過酷な道の整備を長年行えなかった。」
拳を震わせ、顔に苦悶の表情を浮かべる。
“道”を見ればその国の財政状況が分かる、というのは商人にとって共通の知識。
街道整備の資金は、その道が通るエリア毎…つまり各国持ちだから、余裕がない場合は後回しになる。
エレッセ王国と他国を結ぶ主要三街道以外は道の舗装、雑草処理、安全管理などがしっかりされておらず、断崖スレスレを通るルートに至っては、崩落している箇所もある。
“大陸の畑”、エレッセの資金難は目に見えて分かる。
フリットは、バンッ、と机をたたく。
「しかしっ、そのハンディをものともせず、物流の発展に寄与し、我が国民に潤いと希望をもたらしてくれた者たちがいる。」
顔をあげ、僕らを見渡す。
「それが、貴殿たちだ。」
そして……。
「物流支援の政策が中々打ち出せないにも関わらず、積極的にエレッセ王国を中心に販路を構築し、拡大するフーロン商会とジャール商会長をはじめとした貴殿たちに……、我々は本当に感謝している。」
深く、頭を下げる。
どんな時であっても、国を第一に考えられる為政者は強い。国民はそれをよく見ている。
フリットには少々強引とも思えるようなやり口が目立つが、しかしそれは……国を憂う思いからくるもの、なのだろうか。
「今回も、再び貴殿たちの力を借りることになる。今日のコンペティションで求めるは……“効率性”だ。」
「あの……効率性とは、何を指しておられるのでしょうか?」
苦悶の表情を浮かべていた商人のうちの一人が、フリットにそう問いかける。それを筆頭に、ざわめき出した。
確かにそうだ。時間なのか、金なのか。はたまた……。
「……うむ。我らが求めるのは…………生産効率だ。」
「生産効率………。」
再び商人たちは口々に話し始める。
「資料に記載したが、この国営鉱山で掘るのは………“オルモタイト”だ。」
その単語に、商人たちのどよめきは一層大きくなり、各々首をかしげる。これは無理だ、とお手上げをする商人もいる。
オルモタイト……。やっぱりか。
「オルモタイトは、魔道具加工原料としては一級の鉱石だ。それを大量生産し、輸出をする体制が構築できれば、我が国の財政状況は安泰のものとなる。」
壁に貼った資料を指さしながら、そうフリットは言う。
さて……頃合いだな。
「……お待ち下さい。」
手を挙げ、声を張る。商人たちのどよめきは一旦落ち着き、僕へと視線が注がれる。フリットは一瞬眉をひそめるも、素の表情に戻り、口を開く。
「どうした。」
「オルモタイトの生産基盤で……財政状況が安泰、それ、本当ですかね?」
そう資料を見せながら言う。
先ほどから我関せずの態度だったハグレーラも、こちらへと視線を移した。
……さあ、取引開始だ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる