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第一章 ゼイウェンの花 編
34 第一王子フリット
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エレッセ王城の正面入口は、物々しい警備だった。重装歩兵が四人に、一般兵らしき人たちが何人も周辺をウロウロし、明らかに警戒の色が見えた。
「す、すごく物々しいですね……。」
「まあしょうがないんじゃない?次の王様が誰か、まだ決まってないんだから。」
頭を軽く掻く。
前王、グルーウェル三世急逝後、後継に関する遺言や遺書等がなかったために、その後継をめぐって王子たちが政争を繰り広げている。各王子だけでなく、その取り巻きたち……つまり、貴族たちもそれに加わって、各々の利権のために争うものだから、泥沼になってしまっている。
国民の方にまで混乱が飛び火する気配は今のところないが……念の為、といったところだろうか。
「コーちゃん、見てみなよ。右側。」
そう、肩をちょんとつついて、右をあごでしめす。
……僕らの後ろから、複数の取り巻きを連れた男が歩いてくる。引き締まった姿勢、無駄のない歩き方、そして服に着けられた紋章の数々。凛としたその男は、僕らに気づくと、取り巻きに手で合図を出し、止まらせた。
「そなた……見ぬ顔だな。」
低く威厳のある声で、そう僕らに声を掛ける。
「お初にお目にかかります。私、ガウル帝国で商いをしております、クラム・アテレーゼでございます。」
畏まって恭しく、お辞儀をしてみせる。コールもまた、僕に倣った。
「そうか……そなたが………。」
そう呟き、顎に手を当て僕を見る。彼が表すその表情は……………“侮蔑”。
体裁を整えているため態度には出ていないが、それがよく読み取れる顔だった。
「なんとも、我が国が懇意にしている商人、ジャール・フーロンをいたく歓迎してくれたとか。嬉しく思うぞ、クラム・アテレーゼ。」
その言葉とは裏腹に、笑顔の「え」の字も見られない。
ピリッと空気が張り詰める。
「こちらこそ、フーロン商会には大変お世話になっています。」
「そうか。」
そう短く述べると、王子は顔を戻し、軽く頷いた。
「そなたもよきにはからえば、我が国でのそれなりの地位が見込めように、な。」
その“よきにはからう”が、何を意味してるのかねぇ…。確かに、ウマミは大きかろうが……僕らのスタンスは変わらない。
「……身に余る光栄です。しかし、残念ですが……お断りさせていただきたく思います。我々には、必要ないので。」
笑顔でニッコリ、ハッキリと言った。
「では、コンペティション、よろしくお願い致します。」
こういう時は、さっさと行ってしまうのが吉。後ろから、コールは慌てて付いてきて何かを言ってるが…気にしない気にしない。
「…………………………………フフ。」
小さく笑い、強く拳を握りしめる音が、離れた僕らにも聞こえた気がした。
◇
「クラムさん、なんで王子に喧嘩を売ってるんですか!?僕たち、コンペで不利になっちゃいますよ!!」
「…いやー、怒ってたねぇ。」
「怒ってたねー、って!!そんな軽く言わないでください。」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。」
喧嘩を売ったつもりはない。これでも丁重にお断りしたんだけどなぁ。
コールの怒りっぷりに、王子の様になるぞ、と言いたかったが、更に怒られそうなのでやめた。
「元々、僕らのことをいけ好かないと思ってたんだろうし。今更、こんなことで評価は変わらないだろうさ。」
そう言ってコールをなだめ、懐からある紙を取り出す。
ここは、エレッセ王城二階にある客間。王城兵に、コンペティションが始まるまでここで待つように、と言われやってきた…。さすがは王城、机も部屋も一段と豪華だ。
その豪華な机の上で、紙を広げた。
「…これって、エレッセ王家の家系図ですか?」
「そ。さっきの王子は……これだね。」
と、下の方に肖像とともに書かれた名前を見つける。顔立ちが整っているとは思うが…肖像は更にそれが美化されていた。
「第一王子フリット・グルーウェル。言わずもがな、エレッセ王家の長兄であり、前王の補佐として、エレッセ王国の内政補助をしていた男だね。…昨年からは、王国軍の総指揮を執っていたみたいだけど…。」
コールが懐から手帳を取り出し、ペラペラとめくる。
「次王候補最大の派閥、なんですよね。」
「そうだね。次兄のフレッドとの差もかなり大きいし。この国営鉱山の計画がうまくいけば、次王はフリットで決まったも同然だろうね。……ほら、窓の外を見てごらんよ。」
そう言い、窓の外を指で示す。
たくさんの人々が連なり、このエレッセ王城へと入城していた。身なりは様々だが…どれも豪華だった。
「すごい数の商人ですね…。」
「皆、必死なんだよ。名もなき商人から位を上げるチャンスだからね。」
今日のコンペで決まる、国営鉱山の運営主体。嫡男であり、第一王子のフリット肝いりのこの計画。
成功させれば、それはそれは凄まじく莫大な利益が、商人にも転がり込んでくる。南方商人が躍起になるのもわからんではない、か。
僕も素直にコンペを受けたいところだったけど…。
「ただ、コンペなんてあってないようなものだろうからなぁ……。」
ここからどういう流れでコンペが進むのか。
容易に想像することができる。
だけど……。
「……どう出てきても止めてみせるよ、ジャール・フーロン。」
…………………結果がどうなるかは、まだわからない。
◇
ランプが消されたその部屋で、男は一人、机である写顔紙を見つめていた。
薄暗いその部屋には、至るところにたくさんの本が積まれている。
「…クラム・アテレーゼ。」
ボソッと呟くと、右手に持ったナイフを、突き刺した。ナイフが机を裂く音が、部屋を駆け抜ける。
男の頭に、先程のセリフが蘇ってくる。
『……我々には、必要ないので。』
静かな怒りを携えた第一王子フリットは、服装を整える。
そして……先程と同じ、張り詰めた表情になる。
軽く深呼吸をし、扉を開けた。
「す、すごく物々しいですね……。」
「まあしょうがないんじゃない?次の王様が誰か、まだ決まってないんだから。」
頭を軽く掻く。
前王、グルーウェル三世急逝後、後継に関する遺言や遺書等がなかったために、その後継をめぐって王子たちが政争を繰り広げている。各王子だけでなく、その取り巻きたち……つまり、貴族たちもそれに加わって、各々の利権のために争うものだから、泥沼になってしまっている。
国民の方にまで混乱が飛び火する気配は今のところないが……念の為、といったところだろうか。
「コーちゃん、見てみなよ。右側。」
そう、肩をちょんとつついて、右をあごでしめす。
……僕らの後ろから、複数の取り巻きを連れた男が歩いてくる。引き締まった姿勢、無駄のない歩き方、そして服に着けられた紋章の数々。凛としたその男は、僕らに気づくと、取り巻きに手で合図を出し、止まらせた。
「そなた……見ぬ顔だな。」
低く威厳のある声で、そう僕らに声を掛ける。
「お初にお目にかかります。私、ガウル帝国で商いをしております、クラム・アテレーゼでございます。」
畏まって恭しく、お辞儀をしてみせる。コールもまた、僕に倣った。
「そうか……そなたが………。」
そう呟き、顎に手を当て僕を見る。彼が表すその表情は……………“侮蔑”。
体裁を整えているため態度には出ていないが、それがよく読み取れる顔だった。
「なんとも、我が国が懇意にしている商人、ジャール・フーロンをいたく歓迎してくれたとか。嬉しく思うぞ、クラム・アテレーゼ。」
その言葉とは裏腹に、笑顔の「え」の字も見られない。
ピリッと空気が張り詰める。
「こちらこそ、フーロン商会には大変お世話になっています。」
「そうか。」
そう短く述べると、王子は顔を戻し、軽く頷いた。
「そなたもよきにはからえば、我が国でのそれなりの地位が見込めように、な。」
その“よきにはからう”が、何を意味してるのかねぇ…。確かに、ウマミは大きかろうが……僕らのスタンスは変わらない。
「……身に余る光栄です。しかし、残念ですが……お断りさせていただきたく思います。我々には、必要ないので。」
笑顔でニッコリ、ハッキリと言った。
「では、コンペティション、よろしくお願い致します。」
こういう時は、さっさと行ってしまうのが吉。後ろから、コールは慌てて付いてきて何かを言ってるが…気にしない気にしない。
「…………………………………フフ。」
小さく笑い、強く拳を握りしめる音が、離れた僕らにも聞こえた気がした。
◇
「クラムさん、なんで王子に喧嘩を売ってるんですか!?僕たち、コンペで不利になっちゃいますよ!!」
「…いやー、怒ってたねぇ。」
「怒ってたねー、って!!そんな軽く言わないでください。」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。」
喧嘩を売ったつもりはない。これでも丁重にお断りしたんだけどなぁ。
コールの怒りっぷりに、王子の様になるぞ、と言いたかったが、更に怒られそうなのでやめた。
「元々、僕らのことをいけ好かないと思ってたんだろうし。今更、こんなことで評価は変わらないだろうさ。」
そう言ってコールをなだめ、懐からある紙を取り出す。
ここは、エレッセ王城二階にある客間。王城兵に、コンペティションが始まるまでここで待つように、と言われやってきた…。さすがは王城、机も部屋も一段と豪華だ。
その豪華な机の上で、紙を広げた。
「…これって、エレッセ王家の家系図ですか?」
「そ。さっきの王子は……これだね。」
と、下の方に肖像とともに書かれた名前を見つける。顔立ちが整っているとは思うが…肖像は更にそれが美化されていた。
「第一王子フリット・グルーウェル。言わずもがな、エレッセ王家の長兄であり、前王の補佐として、エレッセ王国の内政補助をしていた男だね。…昨年からは、王国軍の総指揮を執っていたみたいだけど…。」
コールが懐から手帳を取り出し、ペラペラとめくる。
「次王候補最大の派閥、なんですよね。」
「そうだね。次兄のフレッドとの差もかなり大きいし。この国営鉱山の計画がうまくいけば、次王はフリットで決まったも同然だろうね。……ほら、窓の外を見てごらんよ。」
そう言い、窓の外を指で示す。
たくさんの人々が連なり、このエレッセ王城へと入城していた。身なりは様々だが…どれも豪華だった。
「すごい数の商人ですね…。」
「皆、必死なんだよ。名もなき商人から位を上げるチャンスだからね。」
今日のコンペで決まる、国営鉱山の運営主体。嫡男であり、第一王子のフリット肝いりのこの計画。
成功させれば、それはそれは凄まじく莫大な利益が、商人にも転がり込んでくる。南方商人が躍起になるのもわからんではない、か。
僕も素直にコンペを受けたいところだったけど…。
「ただ、コンペなんてあってないようなものだろうからなぁ……。」
ここからどういう流れでコンペが進むのか。
容易に想像することができる。
だけど……。
「……どう出てきても止めてみせるよ、ジャール・フーロン。」
…………………結果がどうなるかは、まだわからない。
◇
ランプが消されたその部屋で、男は一人、机である写顔紙を見つめていた。
薄暗いその部屋には、至るところにたくさんの本が積まれている。
「…クラム・アテレーゼ。」
ボソッと呟くと、右手に持ったナイフを、突き刺した。ナイフが机を裂く音が、部屋を駆け抜ける。
男の頭に、先程のセリフが蘇ってくる。
『……我々には、必要ないので。』
静かな怒りを携えた第一王子フリットは、服装を整える。
そして……先程と同じ、張り詰めた表情になる。
軽く深呼吸をし、扉を開けた。
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