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第二章 第一次〈ムーン〉制圧作戦編

第8話 魔法錬成

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テントの前にいる黒フードの男達。奴らは、〈ムーン〉の構成員だ。僕がいる方角はアジトとは真反対のはずなのに…

僕の存在がばれると、色々と厄介なことになる。だから、結界防御魔法を張り、その上に隠匿魔法をかけることにした。

隠匿魔法は、その根元を隠すことができる秘術で、それを扱える者は少ない。マージもその1人だ。僕のギフトは、そんな秘術でさえコピーできてしまうコピー魔法。本当に便利だとまた噛み締めて思う。

おっと、なにやら話し声が聞こえるな。折角だから盗聴してやろう。

僕は、魔方陣を描いてマイクロフォンを取り出し、2人のもとへと投げた。

マイクロフォンは、2人の頭上で留まった。よし、気づいていないようだ。

今度は、マイクロフォンとスピーカーを、架空線でつないだ。

男の声が聞こえてきた。


『なんだこのテントは?……誰がこんなところで宿営しているんだ?』





男2人は、森を巡回警備する当番だった。彼らが神聖視する指導者が、あのズール亜空間牢を突破し、戻ってきたという話を聞いたのは、つい2日前のことだった。幹部の老人達は皆喜び、明日“復活の宴”が開かれるということで、厳戒態勢に入っていた。そして、2人は森を警備することになり、頑張ろうと意気込んだ初日。いかにも怪しいテントを見つけた。


「なんだこのテントは?……誰がこんなところで宿営しているんだ?」


男の片割れ………分かりにくいから構成員Aとでも名付けておこう……が、訝しげにテントを眺める。


「さあな。あそこの村人か命知らずのバカってとこじゃねぇか?」


これまた片割れ……こっちは構成員Bとでもしておこう……が、嘲笑って言う。

ほう。どうやら僕は命知らずのバカらしいね。


「まあ、誰が来ようと怖くないさ。この国は屈強な魔法使いが指導者を除きいないからな!」

「そうだな。はっはっはっ!!」


2人とも楽しそうに笑ってるなあ。


「へぇ……屈強な魔法使いは1人もいない…か。」

「なっ…!誰だお前!?いつの間に……!」


テントに気をとられている間に、僕は2人のそばへと接近できた。

構成員Aが僕の方に杖を向ける。今時杖を使う時代遅れの魔法使いなんているんだなぁ。まあ、僕の能力が先に進みすぎてるだけかもしれないけどね。


「そう言われて答えると思う?まずは君たちから僕の質問に答えなきゃ。」

「何様のつもりだっ!?」


今度は構成員Bが声を荒げる。こわいなぁ。


「うーん、名乗るほどの者ではないとだけ言っておくよ。でも、目的ぐらいは答えてあげてもいいかな。」

「聞いてねえぞ、おい!」


構成員Aの方がノリがいいようだ。


「なんでもいいよ。単刀直入に聞こう。………お前らのアジトはどこだ?」


僕は、炎魔法を手に持つ剣先へと宿し、構成員達に向けた。


「フッ……聞かれて簡単に………答えるものかっ!! “ダークアロー”っ!!」


構成員は手に影から作り出した弓を持ち、僕の方に向かって放ってきた。

これは、闇属性魔法。この国では禁止されている魔法だ。


「禁忌を犯してまで僕の質問に答えたくないみたいだね。…なら、これならどうかな?」


剣をしまい、僕は魔方陣を描く。

それをみた構成員Bは、後ずさりをする。


「そ、それは…拷問魔法っ!?」


僕が今使役しているのは、“呪縛”という拷問魔法。大分前に図書館の危険な本棚で見つけた物を僕なりにアレンジしたものだ。相手の根元を縛り付け、命令意外を聞かなくさせる恐ろしい魔法だ。


「きっ貴様…それは闇魔法じゃないのか?」


そう。本来ならば、職業適性:拷問官のみしか扱えない特殊な闇魔法で、父が闇魔法を忌み嫌っていたために、この国では使役しようとしただけで死罪になる。一族もろとも、だ。でも、それは純粋な拷問魔法が対象だ。純粋な、ね。言ったでしょ、アレンジしたって。


「残念。これは光魔法。つまり、聖なる魔法の1つで、君たちに使っても何ら問題はないのさ☆」

「最高のスマイルで何とんでもないことぬかしてやがんだこいつはっ!!」


誰がなんと言おうと、これは紛れもない光属性魔法。魔法ステータスを少しいじるだけでこんなにも大幅な改造ができてしまうのだ。これは、ギフトとして授けられた能力の1つ、“魔法錬成だ”。1から魔法を作り出すのは難しいが、元よりある魔法から力を借り、新たな魔法を作り出すことができるのだ。


「さあ、答えてもらおうか。」


僕はジリジリと2人と距離を詰めていった。

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