真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売

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 ふと目が覚めたのは、明け方になってからだった。
 目覚めてすぐに甘い匂いが鼻先をかすめていったが、昨夜さんざんに発散したせいで、突き動かされるような衝動には襲われない。けれども視線が自然と匂いの元を探し、隣に裸の背中を見つけた。
 丸まっている背中には、赤い痕が無数に散っている。その中でも一番色濃いのがうなじだった。噛まれた跡はくっきりとした傷痕になり、その周囲も甘噛みやキスを繰り返されたせいで赤くなっている。
 うなじを噛んでつがいになった後、真柴はしばらく動けないようだった。顔を真っ赤にしてだらりと阿賀野にもたれかかったまま時折足を擦りあわせ、はあ、と熱のこもった息を吐いた。
 車で打った抑制剤はまだ効いていた。
 真柴の匂いは少し変化していて、蠱惑的な甘さだけではなくどこか懐かしいような柔らかい匂いになっていたが、その匂いに左右されるような感覚はなかった。
 けれど、匂いに誘引はされなくても、真柴を抱きたい気持ちが消えるわけではない。ぐったりとした体を抱きしめながらずるずると横に誘導するように倒すと、真柴はごろりと床に転がり、長く息を吐いた。
 蕩けた丸い目が、ぼんやりと宙を見ている。ふわふわと視線を漂わせたあと、傍らに座り込んだ阿賀野を見つけて細くたわんだ。
 夢を見ているような顔をした真柴はどこか幼げだ。床に投げ出された手をそっと取ると、真っ赤な顔をしたまま少し笑ったようだった。
「真柴くん。俺に抱かれてほしい」
 どう誘うべきか、車の中で考えなかったわけではない。それらしい甘い言葉を使うべきか、それともなにも言わずに行動で示すべきか。
 色々迷ったけれど、結局その時が来た今、なにも考えずにするりと言葉は出てきてしまって、ふたりの間に音となって響いた。
 阿賀野の言葉に、真柴は少しのあいだ胸を上下させて息をしていたが、やがて頷いた。
「……はい」
 あとはもう、ひたすらに互いを貪った。
 さんざんに遊んできた阿賀野とは違い、交際すらしてこなかった真柴はまったくの無経験で、まさに手取り足取りで、今までなら手間だなと思う程度にはまっさらな体をしていた。
 けれど、これは真柴の体だ。誰にも拓かれていないと言うだけで阿賀野の興奮はたやすく煽られた。
 普段使っているという布団を敷く余裕すらもなく、傍にたたまれていたそれを引き寄せて真柴をのせたあと、阿賀野はひたすら愛撫に努めた。
 本人は恥ずかしいからと隠したがったが、シャツをたくし上げるとむっちりと厚い胸が現れ、まずはそこに触れた。
「う、うぁ……み、見ないでください…」
 硬そうに見えるが、触れると実際はやわらかい胸ではふっくらとした乳暈が小さなふくらみを見せている。それに触れると、もどかしげに腰が揺れた。
「……ぁあ、あ、う」
 体中から匂いが立ち上っていた。
 最初は手のひらで揉んでいた胸に口を寄せ、乳も出ない場所をつっと吸う頃には匂いは明らかに濃度を増して部屋中に満ちていた。
 濃くなっていく匂いに反比例して抑制剤の効果は薄らいでいく。先にその限界が来たのは真柴だった。
 胸しか触っていないのに、ぬちゅ、くちゅ、と濡れた音が聞こえはじめ、胸を吸うたびに真柴の声が大きくなっていく。もしかしてと思いながら、まだ触れていなかった真柴の股間にそっと手を這わせると、甘えるように足が絡みついて、あっという間に熱く湿った足の間に挟み込まれた。
「うぅ……っあ! だっ、だめ、っひ、だめあがのさ、あがのさんっ、あ、ああっ」
 いたずらをするつもりはなかったが、弾力のある太ももに片手を奪われていては、身動きが取れない。少し引き抜こうと手を動かすと、真柴は悲鳴じみた大声をあげてびくんと大きく跳ねた。
 じんわりと、挟み込まれた手のあたりが湿り気を増す。真柴は腕を挟んだまま行き場を求めてさまよわせた両手で阿賀野の背を掻き抱き、はあはあと荒い呼吸を繰り返した。
「だ、だめって…言ったのに……」
「………」
 初体験は十代半ばで、セックスに対しての恥じらいなどとうに無くし、相手もそういったタイプが多かったため、真柴のうぶな反応は相当に真新しく見える。
 同時に自分が初めての相手なのだという実感がわいて、優しくしなければと言う使命感と、どう触れればより乱れてくれるかという好奇心がせめぎ合った。
「…ごめん。でも、ここももう濡れてるだろ?」
「んぁっ」
 結果、阿賀野は挟まれたままの手を動かした。力強い腕が掻き抱く背中が痛くないわけではなかったが、ぎゅっと目をつぶった真柴が自分からしがみついてくるのはたまらなかった。
 真柴が履いているのはカーゴパンツで、おあつらえ向きにベルトもない。腰のあたりに手をかけて引くと、あっけなく腿のあたりまで下がった。
「ほら、びしょびしょだ」
「なっ……」
 既に何度も達したのだろう。ボクサーパンツの前は染みどころか漏らしたのではと思うほどに濡れて色を変えている。一瞬の間にズボンを引き下ろされた真柴は絶句したが、匂いと体温、感触と恋情に煽られた阿賀野は容赦なくパンツもするりと下ろした。
「うわっ」
 真柴は慌てて股間を隠そうとするが、飛び出たものは勃ち上がって刺激を待っている。胸を揉むのをやめて手のひらに握りこむと、それだけでも濡れた先端にぷくりと新たな蜜が浮いた。
「真柴くん、自分ではあんまりしない?」
 性器こそ体格に見合った立派なものだが、反応があまりにうぶすぎる。
 アルファに襲われたことがトラウマになっていたようだし、どうだろうかと問いかけると、がくがくと激しく頷いた。
「それなら後ろは?」
「う、うし……っ」
 ただでさえ顔が真っ赤なのに、耳や鎖骨のあたりまでさあっと赤くなる。困ったように眉が寄って黙った。
「後ろは自分でいじらない? 発情期の時はどうしてた?」
「うし、ろ…は……うぅ…」
 これは、と頬が緩んでしまいそうになりながら、真柴が我に返る前に足の間に体を割り込ませる。
「よいせ」
「うわっあ、あ、だ、だめです、あがのさん、だめ、うわ」
 もしかせずとも、今まで抱いてきた男女の仲でも一番の体格だ。勢いをつけて足を持ち上げると真柴は色気のない声をあげたが、阿賀野の目の前にはとんでもなく淫靡な光景が広がった。
 むき出しの股間はびしょびしょに濡れていた。立派なものは反り返って先端から先走りを零しているが、それだけとは思えないほどの滴りようだ。
 普段なら女性のように濡れはしないだろうが、いまは発情期中だ。見せまいと邪魔をしてくる手のひらをかき分けて、尻の谷間へ指を滑らせると案の定そこが源泉だった。
 女性とは違い、オメガの男性は肛門の中の方に子宮がある。発情期の時や、性交による興奮で粘り気のある体液が分泌されて、性交の助けをしてくれるのだ。オメガの男性も何度も抱いたことがある阿賀野だったが、ここまで濡れているのは見たことがなかった。
 じっと見られるのを嫌がって真柴が体を捩るたび、引き締まった尻肉の間で窄まった穴が形を変え、時には隠れる。それでも中から溢れるものを止められはせず、すぐにぷちゅりと溢れては肌の丸みを伝った。
「あがのさん、いやだ、み、見ないでくださ…ひっ…」
 じたばたと抗う真柴の脚をがっしりとつかまえたまま、頑健な体躯に秘められた甘やかな器官の淫蕩な様子を見つめていた阿賀野は、たまらなくなってそこに触れた。濡れそぼったそこは、少し押すだけで指先が簡単に埋まる。狭くはあるが、抵抗などなく、中指がゆったりと埋まった。
「うぅ……はあ、あ」
 指が埋まった隘路は濡れていて温かい。時折うごめいて、指との合間がくちゅりと水音を立てた。
「痛くないか?」
 すんなり入ったとはいえ、苦しくはないかと聞くと、開いた足の間から見えた真柴は、はあ、と口で呼吸して、小さく顎を引いた。
「大丈夫で…ん、うあ」
 あまりに濡れているものだから大丈夫だろうと踏んで指で中を探ってしまったが、少しでも痛がるようならローションを出そうと思ったものの、真柴は痛みや異物感より快感を拾っているようだった。
 逃げようとしていた体がぐったりと蕩けはじめ、体内にもぐりこんだ指を包み込んではゆるく締め付けたかと思えば、奥へ誘うように蠢動する。
 経験はないようだが、真柴だって成人男性なのだし、発情期のあるオメガだ。自分で弄ったのだろうと考えると、それだけでズボンの前がはちきれそうに痛む。けれど、ここで性急になるわけにはいかない。
 緩やかに指を前後させ、ぬかるみを時折なぞりながら拡げていく。中からは潤みがいくらでも溢れてきて、おざなりに敷いた布団の上にはあっという間に染みが広がった。
「あ、う……んん、ん」
 いつの間にか真柴は大人しくなり、与えられる刺激にあえやかな声を零すだけになっていた。時折びくりと震えて敷布団の端を掴んだりはするが、逃げはしない。それをいいことに指を増やしていったが、三本の指が埋まる頃には、喘ぎ声はすすり泣きに変わろうとしていた。
「も、いやだ…あがのさん、もういい、もういいから…っ」
「でも、もう少し拡げた方が」
「もういやだ、苦しい……」
 指を増やしている間にも、時折胸を舌からも見上げてみたり、つんと尖って存在を主張し始めた乳首を指先で軽く潰したりした。反り返って蜜を垂らす男性器も手のひらで包み込んでしごいたり、先端の露を親指で塗り広げたり、快楽を与えられる場所はまんべんなく刺激した。
 最初は恥ずかしげに切れ切れの声を漏らしていた真柴も、刺激にのめり込見始めると次第に声が大きくなり、その声も阿賀野を楽しませた。
 大切に、丁寧に抱かなければならないという義務感はあるが、義務だけで成り立ってはいない。
 見た目も純朴で、中身もうぶな真柴が乱れていくさまは壮観だ。そのうえ、自分がこれほどに乱れさせているのだという充足感もすごい。更に言えば、彼のつがいは自分だと思うと、愛撫を怠るなど、出来ようもなかった。
 だから万が一にも痛みなど与えないよう、真柴を抱いた時にその体が汲み取るものが快楽だけであるように、どろどろに蕩かそうと思って阿賀野は前戯に勤しんでいたのだが、決定的な刺激をはぐらかされ、じわじわとした愛撫を施された真柴はたまったものではない。
 既に体内は充分に拓かれて潤み、収まるものを待ちわびている。それなのにいつまで経ってもそこは埋まらず、あやふやな快感だけがいたずらに肌を撫でていく。
 いっそ苦痛だと泣きだした真柴に、それならと阿賀野はおもむろに覆いかぶさった。
「痛かったり、気分が悪くなったら絶対に言ってくれ」
「言う。言います、だから、早く」
 抱いてください、と喘ぎ過ぎて嗄れかけた声が請う。
 その声に性急にズボンの前をくつろげると、下着から溢れた阿賀野のものは、すっかり勃起して硬くなっていた。
 受け入れる孔は蜜壺のように潤んでぬかるみ、そこを埋める杭は既に硬く反り返っている。すぐにでも入れられそうではあったが、まだ残っている抑制剤が効果を発揮した。
(そうだ、ゴム)
 発情期のオメガは受精率が高い。同性間だと異性間に比べて確率は格段に下がるが、それでも妊娠しないわけではない。
 真柴とはつがいになったが、つけておこうと思ったところで、ローションやコンドームを入れた紙袋を玄関に放置してきたことを思い出した。
 さんざん愛撫を施して、いざ挿入という時にゴム取ってくるなんてスマートではないことなど、一度もしたことがない。それこそ、一夜限りの相手と遊ぶ際には、須藤に夜遊びセットなどと言われていた、オメガにつけるための首輪と、抑制剤のスタンプ注射、コンドーム数個とローションのミニボトルを入れた革のポーチを持ち歩いていたからだ。
 けれど、今から取りに行くのも間抜けだが、阿賀野と真柴は互いの想いを認識しあって、ようやくつがいになったばかりだ。
 これから先、ふたりの間に子どもを望むようになる時まではゴムを付けるのがアルファとしての務めだ。そうでなくとも、結婚やそういった未来の話にはまだ及んでいない。
 かっこうはつかないが、見栄よりも今はオメガ性を重んじるべきだ。
「……ごめん、ちょっと待ってて」
 真柴から求めてくれるうちに取りに行こうと腰を浮かせかけたが、しかし思わぬ制止にあって、阿賀野は中途半端な姿勢で止まった。
「どこ行くんですか」
 真柴の脚ががっしりと腰を挟んで離さない。痛いほどではないが、囲い込まれてしまうと身動きが取れず、阿賀野は宥めるようにむき出しの脚を撫でた。
「ゴム、玄関に置いてきたんだ。すぐ戻るから」 
 取りに行くのには、数分もいらない。さっと行ってなにもなかったように戻ってくれば、一度は微妙に白けてしまう空気も元に戻る。
 そう思っての言葉だったが、意外にも真柴は首を横に振った。
「い…いいです」
「でも、真柴くん」
「いいから、早く…」
 未だ赤みのひかない顔のまま呟くような小さな声で言うと、
真柴は腰に絡みつかせた脚をぐっと寄せた。引き寄せられて、勃起した阿賀野のものがぬるんと真柴のそれに当たって滑る。へそのあたりまでそれが乗ると、それまで布団の端を掴んでいた手が恐る恐る伸びてきて、そろりと触れてきた。
 肉厚な手が、びくびくしながら阿賀野の怒張を包み込む。荒い手のひらがたまらない刺激を与えた。
「…早く、欲しいです」
 阿賀野がしたように愛撫をしているつもりなのかもしれなかったが、真柴の手はあまりに拙かった。技巧などなくただ扱くだけで、強弱や緩急などない。それこそ長芋でも水洗いしているのではという手付きではあったが、これが真柴の手であると言うだけで、阿賀野の杭は硬く張りつめた。
「でも、ゴムつけないとだめだろ」
「…いいです。早く、これ欲しい…」
 呼吸が荒い。間違いなく、真柴の抑制剤は切れようとしていた。
 絡みつかせていた足の力を抜くと、ぎこちなく脚を広げた。勃って反り返りった男性器の下、谷間から垣間見える孔はぬらぬらと光っており、自分で脚を片足を抱えると、真柴はあらわになったそこにひたりと先端を当てた。
「阿賀野さん……これ、ください」
「……あとで文句を言わないでくれよ」
 ぞくぞくとした震えが体の芯を駆け上がって、眩暈がするほどの興奮が脳を揺さぶるようだ。
 自分で抱えている真柴の片脚を抱いて、ぐいと上に掲げる。肩に乗る重みさえも、いかに体が密着しているかを伝えるようで興奮した。
 ようやく阿賀野の陰茎から手を離した真柴は、代わりに自分の脚を抱えている阿賀野の手に自分の手を重ねる。空いた手が枕を掴んで引き寄せるのを視界の端に捕えながら、阿賀野はゆっくりと腰を進めた。
「っふ、ぅ……んん…ん、んぁ…」
 丹念と言えば聞こえはいいが、いっそ焦らしている気さえするほど時間をかけてほぐした窄まりは、少しの抵抗をしながら、ゆっくりと先端を含んだ。
 うめき声にもならない押さえた小さな声が、枕に染み込んで消えてく。
 仲間で指を潜らせて散々に拓いたつもりだったが、中はみっしりと締め付けてくる。その中を割り開くようにゆっくりと押し込んでいくと、抱えた腿が時折びくりと震えた。
「うぅ、んー…あ、あ……ふか、い…っ」
「もう少し、だから」
 自慢ではないが、阿賀野も太さや長さで悩んだことがない程度には立派なものを持っている。うっかり強く突いてしまわないようにゆっくりと押し込んだ。
「うぁっ、…あ、だ……、だめ、あがの、さ…」
「ま、って…もう、入る…」
「…あぁ、あう、…っあぐ……っ」
 合わさった肌の間で、ぱちゅんと水音がはねた。びくんと真柴の下腹が痙攣するように震えて、楔を飲み込んだ狭隘がぞわりと動く。
 どうにか最後まで入れてしまうと、先端が行き止まりに一瞬触れた。その衝撃で呻いた真柴はぶるぶると震えながら枕に顔を埋め、ふっ、ふっ、と短い呼吸を繰り返した。
「真柴君、だいじょ……」
「う、動かないで」
 経験はないが、痛がる様子はない。動いてもいいだろうか、大丈夫なんじゃないか、動きたい、と阿賀野の理性は徐々に瓦解していく。
 ちらりと壁にかかった時計を見ると、思っていた以上に時間が経っていた。
 スタンプ注射は即効性と劇的な効果がある分、効力がそれほど長くはない。
 もうそろそろ切れる、と思った矢先に、揉むようにうねる媚肉にぐらぐらと頭が茹だった。
「っふ……待って、あと、ちょっ……」
 大切にしたい。不快など微塵も感じさせないほど丁寧に愛して、快楽だけを与えたい。
 その思いは確かにあるが、今いちばん近くにいる真柴から匂いたつフェロモンが、本能を暴いていく。
 深くまで押し入って、これは自分のものだという証を注ぎ込みたい。先端から零れる蜜をあますところなく舐めとり、肌を噛み、誰にも手出しをさせないようにしなければならない。
 これは、自分のオメガなのだから。
「んあっ、あっ、あがの、さ、だめ、ふか…っひい…っ」
「ごめん」
 最後の理性は、謝罪だった。
 肌が触れあうほどに押しこんだ楔を、更に腰を叩きこんで奥へとぶつける。ここが最奥。この奥を貫くことも出来るが、まずはこの中を満たさないといけない。どうしてそうしなければならないかは考えられなかったが、ただひたすらにそう思った。
 奥まで突き刺したものをずるりと引き抜く。肌と粘膜がぐちゃぐちゃと擦れ合う音がして、それがたまらなくよかった。
「うあ、んっ…」
 途中、ふっくらとした小さなふくらみをかすめると真柴は背中を反らして反応した。腹につくほど反り返ったものの先端からも、ぷくりと新しい雫が溢れる。
 感じているのだとわかると嬉しくなって、また腰をつきだした。
 中はやわらかいのに締め付けてきて、心地良い。その中を縦横無尽に動き回って、けれどここを擦れば声をあげる、ここを潰せば先走りが噴き出す、そういった箇所を重点的に攻めた。
「ぃや、あっ、…ああっ、あ、あ…っ、んぁあっ」
 ひたすらに責めぬかれる真柴は抱えた枕にしがみついて声を殺しているが、阿賀野は徐々に、その枕にすら嫉妬を覚えるようになってきた。
「なあ真柴、くんっ……それ、どかしてくれ」
「う…っ、あ、なっ、なん…」
「それ、邪魔だ」
「うああっ…だめ、ふかいっ、ふか…あ―――…あ」
 枕が邪魔で、顔が見えない。自分はここにいるのに、そんなものにしがみついているのが許せない。
 脚を下ろしてしまっても、もう深く繋がっているで離れることはない。それよりも自分と真柴を邪魔するものを排除しなければと上体を倒すと、より深く腰が入り、真柴が悲鳴をあげる。そのうえ、ぐぽっと音がした。 
 アルファの陰茎の根本には、瘤が出来ることがある。アルファとしての血が強いほど出来やすいものだが、阿賀野にもこれがあった。普段はなんともないが、極度に興奮したり、自身のオメガの発情が引き金となってふくらむもので、より効率よくオメガに自分の種をそそぐための蓋の役割を果たす。
 これまでのセックスでも何度か少しふくらんだなと言う事はあったが、つがい相手でもないのだからと理性は保てていたし、押し込んだりはしなかった。飽くまで、つがい相手ではなかったからだ。
 けれど、その理性も今は吹き飛んでいる。
 いつの間にかふくらみを増していた瘤が、ぐっと腰を押しつけたことで体内に収まってしまったことは明白だった。
 阿賀野が枕を奪い取ったせいで空いた両手で咄嗟に口元を覆った真柴は、びくんと大きく体をしならせた。
「うあっ、あ、あ―――…っ」
 ぷしゃっと音がして、あたりに飛沫が散る。がくがくと真柴の腰が震えて、阿賀野を飲み込んだ狭隘がうねりながら締め付けた。
「…う、んっ…」
 早くここに撒けとばかりに締め付け揉みこまれて、抗う理由もないまま、穿った奥へと精液を叩きつける。だくだくと注ぎ込まれるものは、行き場をなくしてあっという間に狭い中を満たした。
「はぁ、はっ……っく」
 一度は達して中に放ったが、まだ足りない。
「っひぃ、あ…、あ、がの、さ」
 真柴が泣いている。顔を真っ赤にして、まだ達したばかりの体を引きつらせながら、間断なく攻めようとする阿賀野の猛攻に震えている。けれど体はすでに次を求めていて、粘りの増した体内はもっともっとと言うように震え、蠢き、絡みついた。
「ああ、あ、あう、あ…っ」
 瘤があるため抜けないので、深くまではめたまま腰をゆする。そうして次に向けて性感を高めていると、行き場を失って自分の口を押えるだけだった真柴の手が、そろりと伸びてきた。
 布団に突き立てた阿賀野の手のあたりを撫でたりさすったりしたあと、人差し指に自分の手を絡めた。
「あ、ああ……ごめん」
 本能に突き動かされるまま動物じみたセックスをしていたと、我に返る。一度達したことで、少しは衝動が治まったせいかも知れなかった。
 控えめに絡んだ指先はいじらしいと思ったが、指を解いて、手をつないだ。真柴の手は温かくて、決して細くもなければ綺麗なわけでもなく、少し乾燥していた。
 この手を、ずっと離さずにいようと思った。
 出会いは本当にただの偶然で、好きでもなかった。けれど、もうこの手を離すことは出来ない。
(運命があるとしたら、この瞬間だ)
 繋いだ手を絡めて持ち上げ、そこにキスをした。
 首輪を先に作ってしまったが、指輪も作っておけばよかった。けれど、首輪を作った時は、そんな関係になるなんて思わなかったのだ。
 つがいにしたら、それなりの家でも与えて、ビジネスライクな関係を築こうと思っていた。子どもは跡取りとして必要なので作り、公的な場所にも一緒に出てきて欲しいが、それ以外は望まない。互いに外に恋人を作ってもいいとさえ思っていた。 すべては阿賀野が抱えた、完璧なアルファでなければいけないというコンプレックスの大きな穴を埋めるため。そのために、運命のつがいを探していた。
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「君が好きだ、真柴くん。愛してる」
「え…」
「君は自分のことを、厄介な体質で、距離も遠くて会いづらい面倒なやつと言ったが、それでいい。週末は必ず会いに来るし、発情期の時は仕事も休む。君と一緒にいたい。なんなら俺の家で籠ったっていい。体質だってつがいが出来れば多少は落ち着くだろうし、俺は他のアルファが自分のオメガに手を出すなんてことは絶対にさせない。一緒に生きていく方法は、いくらでもある。だから、結婚してほしい」
 真摯にプロポーズをしたつもりだった。
 けれど蕩けたままの真柴はどこか夢見がちだ。体を少し揺らすと反応はあった。
「……真柴くん?」
 発情期にあてられる方の阿賀野は一度放ったことで多少の理性は戻ったが、当人はそうもいかないのかもしれない。性欲に熔けた頭では混乱してしまっただろうかと声をかけると、はっと短く息を吸った。
「ふ、はぁっ、…は……あ、え……」
 ぼうっと宙を眺めているようだった双眸の焦点が合い、視線が重なる。
 なにを言われたか理解しているのか、それとも聞いていなかったのかわからなかったが、断られない限りはこちらのものだ。
「結婚してくれ、真柴くん」
 絡ませた指をぐっと引き寄せる。
 初めてのセックスのさなかに突然プロポーズされた真柴は、ようやく阿賀野の言葉を理解したように大きく目を見開いたあと、脇に放り出していたタオルケットをもそもそと引き寄せた。
 言葉は返ってこなかった。
 けれど引き寄せたタオルケットで半ば顔を隠してしまいながら、真柴は小さく頷いた。
「…本当に?」
 自分で告白を口にしたし、きっと真柴も同じ気持ちでいてくれているという自信はあったが、断られたらどうしようという不安がなかったわけではない。しかも、その不安はプロポーズをしてから湧き上がるような、手遅れの状態で覚えた感情だった。
 思わず真意を確かめるように聞くと、タオルケットに隠れた頭が頷く。二度、こくん、こくん、と上下した。
「―――…っ真柴くん!」
 さっきは枕を奪ってしまったが、今度はタオルケットの端に手をかけた。ぐんと前に体を倒すと、コットンの海の中から嬌声があがる。
 めくりあげたタオルケットの中に頭を突っ込むと、中には涙を落としながら、未だ繋がったままの箇所からぶつけられる快感に咽び泣く真柴がいた。
 それから、ずっと手をつないだまま、何度かの波を越えた。最後は真柴の陰茎からはさらさらとした潮のようなものしか出なくなり、失神するように眠ってしまった。
 シャワーを浴びて、清潔な服に着替えるという選択もあったが、少しでもそばを離れるのが惜しい気がした。結局離れに備え付けの風呂場でタオルを濡らし、それで適当に拭いた後、ぐしょぐしょになってしまった敷布団を隅に寄せて、押し入れから引っ張り出した適当なタオルケットに二人でくるまっていた。
 初めての経験だと言うのに、散々に貫かれた真柴はぐったりと眠っていて、隣の男が起き上がっても微動だにしない。すうすうと穏やかな寝息が聞こえていた。
 ふと見ると、眠る真柴の顔のすぐ近くに、手が投げ出されていた。ゆるく開いたそれは左手で、声を殺そうとする真柴が何度か噛んだ跡があった。
 指輪を買うなら、何号がいいだろう。本当ならジュエリーショップに連れて行って作るのがいちばんいいのだろうが、真柴は嫌がるかもしれない。
 自分と同じぐらいなら、同じ号でいいんだがと、比較の為についと指を近づけると、ふと眠っていた瞼がゆっくりとあがった。
「ごめん、起こしたな」
「ぃ…いえ……んん」
 すっかり喉が嗄れて、真柴の声はガラガラに擦れてしまっていた。
 喉に手を当てて咳をすると、真柴はぎこちなく寝返りを打って、傍に座る阿賀野を見上げた。
「なにを…ゴホッ……なにを、してたんですか?」
「ああ、指のサイズを」
「指の……あっ」
 なぜ、というようにきょとんとした真柴だったが、すぐにはっとした顔をして、ああ、と声を零した。
「ゆ……夢かと…思ってました…」
 きょとんとするのは、今度はこちらの方だった。
 セックスの途中ではあったし、互いに本能に浮かされてはいたが、あれは紛れもなく真摯なプロポーズだったのだ。
「夢になんてしないでくれ。それとも、嫌になった?」
「まさか! …げほっ」
 大声を出した拍子に、また大きく咳き込む。
 まだ発情期が始まったばかりなのにこれでは、あと数日もしたら真柴は喋れなくなってしまうのではと過保護気味な危惧をした阿賀野だったが、のろのろと真柴が起き上がると、慌ててその背を支えた。
「げほ、んぐ…っはあ……い…嫌になったりしません。俺も…俺も、あなたが、…あ、阿賀野さん、を、…あ、ぅ、愛して、ます…」
 あまり人と触れ合わず、避けて生きてきたからというのもあるだろうが、もしかせずとも阿賀野が見つけた運命の相手は、ひどく恥ずかしがりなのかもしれなかった。
 一眠りしてようやく熱のひいた肌が、さっと赤みをおびる。
 こんな風に、これからはたった一人を見つめ、色々な面を見つけて一つずつ愛情を手向けながら、何十年と共に過ごしていくのだ。
 ずっと探していた運命の相手は、幾通りもの分岐を選んだ先の、偶然としか言えないような確率の中で出会った。けれど、その分岐を選んできたことも、今となっては彼と出会うための必然だった。
 耳まで赤く染めた真柴の背を支えながら、空いていた手も添えて、両腕で抱きしめた。
 これから先は、色んな道を二人で歩いて行く。その最初に、ようやく立った。どんな道があるかはわからないが、今、間違いなく言えるのはただ一言だった。
「俺も愛してる、真柴くん。…君を見つけられて、本当に良かった」
 誰にも聞かれはしないが、彼にしか届かないような小さな声で囁くと、真っ赤な顔をしたまま、真柴は少し笑った。
 もうすぐ陽がのぼる。けれど、まだ発情期は始まったばかりだ。
 とりあえずやりたい事はいくつもある。シャワーも浴びたいし、体液を吸ってぐしょぐしょになった布団も取り替えたかった。腹も減っている。栄養補助食品は買い込んであるが、サラダを作ろうと思った。
 けれどその前に、しなければならないことがある。
 セックスは初めてだったが、キスはどうだろう。
 これも俺が最初だったらと思いながら慣れた仕草で口を寄せる。人から逃げて山奥に引きこもっていた、どこまでもうぶな運命のつがいの反応は、差し込んできた朝陽の中で彼の伴侶を喜ばせる。
 シャワーを浴びに行くのは、もう少し先になりそうな甘やかな朝だった。




fin.
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みんなの感想(2件)

さくらこ
2025.05.06 さくらこ

はーとっても良かったです。物語ながら現実的でも有りました。計算で動いていた人が人らしくなり、世捨て人の様に寂しく
暮らしてきた真面目な人が人らしく生きる様になる素敵な物語でした。有難う御座います。
出来れば、その後読みたいです。宜しくお願いします。

2025.05.06 晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売

全然違う世界と価値観で生きる二人をどう描くか、難しくも楽しく書けた一作でした。
これからの彼らはどう生きてくんだろう?と考えることもあります。
もし彼らのその後を文字にできた時には、また読んでいただけたら嬉しいです。
感想ありがとうございました!

解除
HANA
2021.05.05 HANA

続き楽しみにしてます|ू•ω•)☆

解除

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大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

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