巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売

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巣ごもりオメガと運命の騎妃

60.副作用は蜜月 ★




 ミシュアルの日課は、朝の柔軟体操から始まる。剣技を習いはじめた頃からずっと続けてきたことで、王宮で暮らすようになっても変わらない。

 おかげで、ミシュアルの体は非常に柔軟だ。開脚してぺたっと床に這うこともできる。なのでこれまでの発情期ヒートでもその柔軟さを発揮して存分にイズディハールと愛し合うことができたが、薬の副作用で強制的に引き起こされた今回の発情期は、そんな体にすら悲鳴をあげさせた。

「うぅ……」

 ミシュアルが目覚めて最初に見たのは、ほとんどが夜闇で、その下にほんのわずかに太陽の光がある空だった。

(朝……いや、夕方……?)

 どちらかもわからないのは、ナハルベルカの王都イレクスに入ったあたりからの記憶がないからだ。

 いまが何日で何時なのかさえ不明瞭だが、唯一わかるのは、股関節のあたりが痛いことだ。

(こ……腰が……)

 横に向いて寝転んでいるが、腰は痛いし股関節もなにかを挟んでいるような違和感がある。むしろ、本当に尻の合間になにかを挟んでいる。背中から尻にかけて自分のものではない体温に触れているし、腰のあたりにはだらりと腕がかかっている。驚いたりしないのは、耳元に響く寝息が聞き覚えのあるもので、感じる気配も匂いも、すべてイズディハールのものだからだ。

 しかし、だからといって良かった、とはならない。

「ひ、ぅ……んっ」

 少し体を捩ろうとしただけで、自然と腹の奥に力が入る。すると中に納まったものの存在感が増して、ミシュアルは全身をこわばらせた。

(入ってる……!)

 おそらく、ミシュアルの発情期に付き合わされたイズディハールも疲労困憊でそのまま眠ってしまったのだろう。申し訳ないとは思うが、それ以上の本能がむくむくと頭をもたげてくる。

「あ、あっ……んん……っ」

 体の力を抜かなければと思うのに、目覚めた体は与えられた快楽を貪欲に取り込もうとする。ぬちゅりと濡れた音までしだして、ミシュアルは震えるしかなくなった。

「んっ、ん、ぅう……」

 イズディハールはまだ眠っている。

 旅の疲れを癒す間もなくミシュアルの発情期に引きずられたであろうことを思うと、せめて安眠の妨げにはなりたくない。それなのに腹の中はうねって眠った杭を大きく育てようとしているし、前の方も兆して、恥ずかしいことに上掛けを押し上げてきた。

(俺はどうすれば……)

 気持ちいいのに苦しい。苦しいのに気持ちいい。

 突き上げてほしくて、でも休んでもほしくて、だけどオメガの発情期にあてられた自分だけのアルファの視線に晒されたい。

 相反する感情の中でぐらぐらと揺れながら、せめてと前の方に手を伸ばしたミシュアルは、自分が腕を動かしたせいでついてきてしまったイズディハールの指先に、ままならなさを感じて下唇を噛んだ。

 だらりと腰にかかったままの手の先が、ミシュアルの兆したものの先端に近い。上掛けを挟んではいるが、今からそこを自分で慰めようとしていたのだ。これでは、少しでも大きく動けば指にあたってしまう。

 普段のミシュアルならば諦めて、イズディハールが目覚めるまで耐えただろう。しかしいまは発情期の真っ只中だ。いちばん症状の重い時期は脱しているとは思うが、それでもまだ体中に燻ぶる熱は冷めていない。

(……我慢できない)

 指先だけでどうにか、と自分の昂ぶりに手を伸ばす。後ろからの絶え間ない刺激に反応して、それはやはり勃ちあがっていた。

「ふぅ……ん、うう……」

 目をつぶって、先端のすぼまりを指の腹で少し強めに擦る。本当は幹をこすりあげたいが、そんなことをしたらイズディハールが起きるので、動きは最低限のものだ。

「う、んっ……っふ、は……ふ」
(足りない――……)

 息を乱しながら、ミシュアルは愕然とした。

 たった一年ほど前まで、発情期はひとりで過ごしてきたのだ。泣いても悶えても、自分を慰めるのは自分の指だけだった。それだけで何度も達していたのに、それ以上の快楽と自分以外の指に愛されることを知った体は、こんなものでは足りないと不満を訴える。

(う、後ろを触れば……)

 達しなければ、この渇きは消えてくれない。

 焦ったミシュアルはもう一つの性器ともいえる場所に手を伸ばそうとして、ひくっと下腹を震わせた。

「――ううっ……ん、はあ……っ」

 指で慰めるまでもなく、そこにはぎっちりと肉輪を広げたまま嵌まり込んだ長大なものが居座っている。ぴったりとくっついた尻と下腹の隙間はなく、ミシュアルの深いところで角度を増していくそれの先端は、少し動くだけで最奥のすぼまりを軽く突いた。

 あと少し押し込まれれば、オメガがオメガたる所以であるそこは、喜んで侵入者に口を開くだろう。その衝撃と圧迫感がすさまじいことは知っている。それでもそれを越えた幸福感が記憶と本能に深く刻み込まれているミシュアルには、ほんの数センチ、数ミリ程度の差がたまらなくもどかしい。

「う、ンッ……ふう、んっ……あっ!」

 あと少し、あとちょっと――イズディハールを起こさないように、でもいいところに当たるように、と自分で小刻みに腰を動かしていた時だった。

 不意にぐんと奥に押し込まれて、ミシュアルはびくんと体を震わせた。開きかけていたそこに、ぐっと熱い先端が刺さる。

「あっ……あ、あ……っ?」

 自然とつぶっていた目がぱっと開いたが、視界がちかちかしてなにも見えない。頭の中はぐいぐいと入り込んでくる灼熱に押し開かれる腹の奥の感覚と突然の強い快楽でいっぱいだ。

 これ以上ないほどくっついているのに、返しのついた杭でも打ち込むようにぐっぐっと腰を押し付けられ、腹に回った手が更に引き寄せる。

 手の下に意識のすべてを持っていかれたミシュアルは、次の瞬間、腹の奥が征服された音を聞いた。

「っあ……」

 かは、と声になりきらなかった呼吸が開いた喉を滑る。触れたままの先端からとぷっと力なく吐き出されたものが指を濡らした。

 声なく震えるミシュアルは、まるでしとめられた獲物だ。そしてその最後の息の根を止めようとするように、うなじに甘く牙が突き立てられた。

「――ひ、ぅ……んっ……」

 傷痕の上に軽く歯が食い込むだけで、そこから一直線に下腹へ衝撃が走り抜ける。半勃ちのままくったりと揺れる陰茎からはなにも出ず、代わりに太いもので開かれたオメガの器官があえかに戦慄いた。

「――ミシュアル?」
「っふ……!」

 低い声が耳朶に響くだけで、内腿がびくびくと震える。繋がった場所から漏れる音が、さらに水気のあるものになったのは気のせいではない。

「まだ副作用が抜けないか? 匂いがすごいな……」

 ぼそぼそと言うイズディハールの声は眠気を引きずっているが、本人はミシュアルがまだ発情期にうなされて行為に耽っていると思っているらしかった。

 ミシュアルの頭の下敷きになっていた腕が用途を変えて首に回り、肩を後ろへ押し当てる。腹に当てられていたもう片手は更に進んで下になっている側の腰に伸び、自分の方へぐっとミシュアルを引き寄せる。

 気づけば全身をからめとられ、ミシュアルは完全に動きを封じられた。それなのに、無遠慮に寄せられるイズディハールの鼻が首筋をくんと嗅ぐ。

「……ああ、いい匂いだ」
「――ッ!」

 イズディハールの言う通り、まだミシュアルの体には薬の副作用が残っているのかもしれなかった。

 囁かれた声と、肌にあたった吐息。それだけでまた腹の奥がぎゅうっと蠢いて、耐え切れずにミシュアルはぎゅっと裸足の先を丸めた。

 びくびくと不随意に震える体は、極めた先からなかなか下りてこられない。達した余韻がさらなる快楽を生み出すものだから、二度三度とゆるく甘やかな頂点を迎えるミシュアルはもはや限界だ。

 目の前をちかちかさせたミシュアルが最後に覚えているのは、何度か腰を打ち付けられた末に奥にどっと吐き出されたものが腹を熱く重くさせたこと、それから気怠さと熱情を含んだ声で呼ばれた自分の名前だけだった。

 その後、いつもより三日ほど長く発情期は続いた。しかし薬の副作用が原因であってもミシュアルが不安を感じることなく過ごしたのは、今回の事件を通して自分のすべてをさらけだしても必ず手を取ってくれるつがいがずっと傍にいてくれたことに他ならない。

 いつもより少し長い発情期、ナハルベルカの国王とその婚約者は寄り添って過ごした。

 その噂は従弟の帰りと土産話を楽しみにしていた従姉にも届き、「結婚の前に蜜月済ませるつもりかしら」というため息を彼女の婚約者である王の姉が苦笑しながら聞いたのは、また別の話だ。



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