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巣ごもりオメガと運命の騎妃
11.ドマルサーニへ
しおりを挟むミシュアルの発情期はきっちり一週間で終わった。
それからすぐにドマルサーニへの訪問日程が決まり、ナハルベルカを発ったのが発情期が終わって一週間後だった。
砂漠と平原を渡る旅は楽なものではなかったが、砂漠で眠ることも、オアシスで休憩することも、途中出会ったキャラバンに品物を見せてもらうことも初めてだ。それに、ずっと隣にイズディハールがいる。それだけで嬉しくて、ミシュアルにとっては非常に楽しい旅になった。
ふたつの小国を通過し、ドマルサーニに辿り着いたのは明日で一週間目を迎える日だった。頭からかぶったクーフィーヤを強風にはためかせながら門をくぐったミシュアルたちを出迎えたのは、立派な口ひげをたくわえた恰幅のいい男性と数十名の騎士たちだった。
「ドマルサーニへようこそお越しくださいました」
そう言って頭を下げた男性を前にミシュアルはしどろもどろになったが、何度もドマルサーニを訪れているというイズディハールは見知った相手のようで、馬上から親しげに声をかけた。
「ナスリ将軍。今日は婚約者も連れてきた。ミシュアル・アブズマールだ」
「おお、こちらがミシュアル様でいらっしゃいますか。初めまして、私は右将軍のラギブ・ナスリと申します。シラージュ皇帝陛下よりご案内の役を賜りました」
「よ……よろしくお願いします。ミシュアル・アブズマールです」
ナスリ将軍は馬から降りているが、イズディハールは馬の背に跨ったままだ。どうすべきか迷いながら手綱を握りしめ、出来るだけ体を低くして挨拶をすると、はは、とナスリは笑った。
「お話に伺っていた通りですな。ミシュアル様、ぜひそのままで。では、ドマルサーニ皇宮へご案内いたします。これより、馬上から失礼いたしますぞ」
溌溂と笑うナスリは意外にも身軽に馬にまたがり、イズディハールの率いる旅団を扇動してくれた。
馬上から見るドマルサーニの国都メラは、斜面を整備した大通りがまっすぐに伸びる都市だった。
何段にもなる階段状の道がミシュアルの目の前に広がるが、その一段一段は非常に奥行きがあり、大通りの真ん中を走る道は馬や荷車が行き来しやすいよう、階段ではなく緩やかな傾斜を保ち続けている。おかげで大きな揺れや馬の操作に気を付けずとも上がっていくことができ、余裕をもってメラの風景を楽しむことができた。
ナハルベルカの国都イレクスとも似ているが、どこか違う色と雰囲気がある。メラからは離れているものの海があり、ナハルベルカよりも北にあるせいか、少しばかり涼しく、行き交う人々の服装も露出が少ないように思えた。
きょろきょろしながらも馬を進めていくと、やがてミシュアルの視界に巨大な石柱が入った。左右に二本並ぶ石柱の向こうには荘厳かつ巨大な建物があり、石柱の間には十数人の数段と、それらを従えて騎乗するひとつの人影があった。
距離があるので一瞬わからなかったが、金輪で留めたクーフィーヤからこぼれる赤い髪に気付いたミシュアルは、あっと声をあげた。
「サリム殿!?」
皇太子妃である彼がまさかとは思ったが、近づくにつれてその面立ちがわかるようになると、ミシュアルはとたんに破顔した。
十数人の騎士を背後に、馬上で待っていてくれたのはサリムその人だった。
「お久しぶりです、ナハルベルカ国王陛下、ミシュアル様。遠路ようこそ、ドマルサーニへ」
イズディハールに向けた顔はどこか硬く凛としていたが、ミシュアルに向けられた視線はやわらかい。
一ヶ月ぶりになる友人との再会の喜びは、長旅の疲れや、一週間とはいえ異国になじめるだろうかという不安を吹き飛ばす。
さあどうぞと先導され、ミシュアルはきっと楽しい一週間になるだろうという確信を胸に、ドマルサーニ皇宮へ馬を進めた。
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