巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売

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巣ごもりオメガと運命の騎妃

19.巡香会場へ

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 ドマルサーニでの滞在も六日目となった今朝、ミシュアルは上機嫌だった。
 昨日はやっと会議の終わったイズディハールと一緒に布市場を訪れ、それから広場に設置された噴水も見に行った。

 他の来賓たちはすでに帰ったので夜に宴が開かれることもなく、ふたりで果実や干し肉を肴に酒を酌み交わし、それからなだれるように寝台にもぐりこんだ。さすがに招かれて訪れた他国でことに及ぶことはできないので、イズディハールをなだめつつ、何度もキスをしたりじゃれあったりして眠りについた。それだけでも幸せだったのに、幼い頃の自分たちが一緒に本を読んでいる夢まで見て、これ以上ないほどミシュアルは朝から幸福感に包まれていた。

「機嫌がいいな、ミシュアル。歌でも歌いだしそうだ」
「うっ、歌わないです。でも……昨日が楽しくて」

 実際のところ、日課の鍛錬に励んでいた時にうっかり鼻歌など歌ってしまったが、聞こえていなかったはずだ。
 さっと顔が赤くなるのを感じながら、それでも自分の上機嫌の理由を言うと、イズディハールも嬉しそうに破顔してくれた。

「私も昨日は楽しかった。あれほど一緒に街をまわったことなど、今までもそうなかったからな」
「はい、ナハルベルカでもなかなか……。でも、ああやって街をまわるのはいいことですね。俺も城下育ちですが、隅々まで歩き回ったわけではないので、自分で見て感じることは大切だと思いました」
「見聞を広めるには、自分の目と耳で使うのが一番だからな。ナハルベルカに戻ったら、昨日のように一緒に城下を見てまわろう。お前の視点から得られるものを知りたい」
「はい」

 昨日の一日だけでも幸せでたまらなかったのに、ナハルベルカに帰ってからの楽しみまでできた。なんていい日だろうと思いながらイズディハールと揃って朝餉を終えたミシュアルは、これから会議の打ち合わせだという彼を見送り、自分も出かける準備を始めた。

 明日にはドマルサーニを発つが、その前に見ておきたいものがあったのだ。

 時間を確認し、急いで身支度を整えたミシュアルは、腰帯に金細工の飾りをつけたところで、少し考えた。
 今日行く場所は神殿だ。近く巡香会が行われるために準備があると言うサリムが、ついでにと神殿の見学を勧めてくれたのだ。

 神殿と言えば静謐で神聖な場所だ。華美なもので飾り立てて行くべきではないだろうと考えて、ミシュアルは金細工を取り外した。
 髪は三つ編みにしてまとめたし、服も白と深い青を基調にした落ち着いたものにした。飾りがまったくないのも失礼かと、イズディハールからもらった銀の細い腕環だけをひとつつけたミシュアルが待っていると、やがてサリムが現れた。

「お待たせしました。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 ナハルベルカにも神殿はあり、信仰している神も同じだが、巡香会というものはない。国が主催するアルファとオメガの出会いの場ということだが、準備段階と言っても現場を見られるのは貴重な機会だ。
 緊張と興奮に胸を躍らせるミシュアルは、いつも通り凛として物静かなサリムとともに王宮を出た。

 神殿は遠くはないものの、丘の上にある。馬が牽く輿に乗って坂道の上にある神殿へ向かうと、神殿の前にはすでに何台も馬車が停まっていた。

「人が多いですね」

 ナハルベルカの神殿に比べて建物が多く、人や馬も多い。窓から外を見ていたミシュアルがつぶやくと、サリムははいとうなずいた。

「明日が登録の締め切り日なんです。遠方から来る場合は乗り合いで来ることが多くて、今日がいちばん混む日なんです」
「参加者は何人くらいになるんですか?」
「大体三百人前後ですね。アルファが来れば、その倍以上になりますが、今は希望者だけの自由参加なので、これでも小規模になった方です。皇太子や皇帝陛下のつがいが決まっていなければ、参加者は十倍に増えます」
「たっ……大変ですね……」

 ミシュアルが思い描いていたよりも遥かに人数が多い。まだ王宮内での役職がないミシュアルからすれば、想像もできない規模の話だ。
 思わず絶句しているうちに馬車は神殿の奥の方へと入っていき、やがて止まった。
 扉が開けられるのを待っていると、サリムがうなずいた。

「……はい、大変です。でも、光栄なことでもあります。この任は、陛下より賜った私の仕事。なので、友人に、こうやって案内できることはとても誇らしいです」

 サリムの白い頬が少し赤い。いつも凛とした横顔を見せる彼がどこか照れたように笑うものだから、思わずミシュアルも自分の頬に熱が上がるのを感じた。

(友人……)

 同じような地位にいて、同じオメガで、同性。そんなサリムから友人と呼ばれ、ミシュアルは目頭が熱くなるのを感じた。

「あ――ありがとうございます……っ」

 もっと言いたいことがあったが、これ以上目が潤むのをこらえているミシュアルにとっては精いっぱいだ。せめてと震える声で礼を言ったところで、輿の扉が叩かれた。

「行きましょう、ミシュアル様」

 サリムが微笑んで席を立つ。その後に続き、護衛たちにも知られないようにそれとなく目もとをこすりながら、ミシュアルはこの関係がずっと長く続きますようにと願った。





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※書き直しをしたため、19話、20話はいったん削除後改稿したものを再掲しています。
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