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魔女編
12:火事(1)
時間は火事の起きた日に戻る。
シヒスムンドは夜会の最中、予備の休憩室のある廊下へ急いでやってきた。
夜会を嫌って挨拶もそこそこに会場を抜け出し、一人バルコニーで時間をつぶしていたシヒスムンドの元へ、皇帝ダビドから指示を受けた侍従がやってきた。なにやら不穏な兵士複数名が女性を追いかけて行ったと。本来はシヒスムンドに連絡する前に衛兵へ任せることだが、今からそちらへ命令を伝達していては遅いし、あえてダビドがシヒスムンドを選んだ理由があるのだろうと汲み、教えられた通路の方へ駆けつけた次第だ。
人の気配を探しながら廊下を進み始めると、小部屋の一つから数名の男たちが飛び出してくるのが目に入った。男たちはそのまま、シヒスムンドのいる方とは逆へ走っていく。
こちらに気づいたかは不明だが、不審な様子にいつでも剣を抜けるよう警戒しつつ追いかける。
だが、男たちが出てきた部屋の前に差し掛かって足を止めた。開け放たれた扉の中。小部屋で小火が起きている。
再度男たちへ視線を戻せば、どんな魔法を使ったのか、いつの間にか遥か遠い廊下の突き当りを曲がって消えるところだった。今から追いかけても無駄だ。
シヒスムンドは小部屋へ入り、火事の規模を確認する。
絨毯の一部と、傍にあったテーブルのクロスが燃えている。部屋は石造りのため、すぐに燃えるのは内装や調度品だけ。建物への被害はひとまず少ないはずだが、火が充満して窓まで焼け落ちれば、外へ火の粉が飛ぶ可能性がある。
大した火ではないとはいえ、上着などの布をかけてどうにかなる大きさを超してしまっている。消火の人手が必要だ。
シヒスムンドは、人を呼びに行くために一旦この場を離れることにした。
その前に、剣を抜き、テーブルを足掛かりに天井近くまで跳躍し、カーテンを根元から切り落とす。窓枠への延焼を遅らせるためだ。
着地し、他に部屋の中で燃えやすそうなものを探して視線を巡らすと、部屋の隅に座り込む黒い髪の女を一人見つけた。火事に驚いているのか、呆けたように火を見つめている。
「おい、お前」
呼びかけると女がゆっくり顔を向ける。着飾っているから夜会の出席者だろう。青灰色の目はこちらを見ているようでも、視線が合わない。
「火はこちらで始末する。お前は広間へ戻り他の者と合流して避難しろ」
顔を向けたのだから声は認識しているだろうが、応答はない。普通にしても威圧的なシヒスムンドに、慣れない者はたいていこうだ。
今は腰を抜かしていても、シヒスムンドが立ち去れば動けるようになる。火は彼女と部屋の入口の間にはない。
問題ないと判断し、シヒスムンドは小部屋を後にした。
シヒスムンドは夜会の最中、予備の休憩室のある廊下へ急いでやってきた。
夜会を嫌って挨拶もそこそこに会場を抜け出し、一人バルコニーで時間をつぶしていたシヒスムンドの元へ、皇帝ダビドから指示を受けた侍従がやってきた。なにやら不穏な兵士複数名が女性を追いかけて行ったと。本来はシヒスムンドに連絡する前に衛兵へ任せることだが、今からそちらへ命令を伝達していては遅いし、あえてダビドがシヒスムンドを選んだ理由があるのだろうと汲み、教えられた通路の方へ駆けつけた次第だ。
人の気配を探しながら廊下を進み始めると、小部屋の一つから数名の男たちが飛び出してくるのが目に入った。男たちはそのまま、シヒスムンドのいる方とは逆へ走っていく。
こちらに気づいたかは不明だが、不審な様子にいつでも剣を抜けるよう警戒しつつ追いかける。
だが、男たちが出てきた部屋の前に差し掛かって足を止めた。開け放たれた扉の中。小部屋で小火が起きている。
再度男たちへ視線を戻せば、どんな魔法を使ったのか、いつの間にか遥か遠い廊下の突き当りを曲がって消えるところだった。今から追いかけても無駄だ。
シヒスムンドは小部屋へ入り、火事の規模を確認する。
絨毯の一部と、傍にあったテーブルのクロスが燃えている。部屋は石造りのため、すぐに燃えるのは内装や調度品だけ。建物への被害はひとまず少ないはずだが、火が充満して窓まで焼け落ちれば、外へ火の粉が飛ぶ可能性がある。
大した火ではないとはいえ、上着などの布をかけてどうにかなる大きさを超してしまっている。消火の人手が必要だ。
シヒスムンドは、人を呼びに行くために一旦この場を離れることにした。
その前に、剣を抜き、テーブルを足掛かりに天井近くまで跳躍し、カーテンを根元から切り落とす。窓枠への延焼を遅らせるためだ。
着地し、他に部屋の中で燃えやすそうなものを探して視線を巡らすと、部屋の隅に座り込む黒い髪の女を一人見つけた。火事に驚いているのか、呆けたように火を見つめている。
「おい、お前」
呼びかけると女がゆっくり顔を向ける。着飾っているから夜会の出席者だろう。青灰色の目はこちらを見ているようでも、視線が合わない。
「火はこちらで始末する。お前は広間へ戻り他の者と合流して避難しろ」
顔を向けたのだから声は認識しているだろうが、応答はない。普通にしても威圧的なシヒスムンドに、慣れない者はたいていこうだ。
今は腰を抜かしていても、シヒスムンドが立ち去れば動けるようになる。火は彼女と部屋の入口の間にはない。
問題ないと判断し、シヒスムンドは小部屋を後にした。
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