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解決編
62:皇帝暗殺未遂(1)
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「閣下は!? はぁ、はぁっ……! 将軍閣下はどちらですか!?」
メルセデスは居住棟の新たな愛妾へ割り当てられた部屋へ駆けつけ、丁度室内から出てきた侍女に声を張り上げた。
「あ……、レディ・メルセデス。どうなさ――」
「早く! すぐにお伝えすることが!」
侍女はメルセデスの剣幕に目を剥いているが、落ち着いて話している暇はない。
「も、もう、陛下と共にお帰りになりました……」
一足遅かった。
メルセデスは身を翻し、回廊へ続く廊下を走る。
(間に合って……!)
喉からは荒い呼吸しか出てこず、足も重い。手枷が邪魔で上手く走れない。
ただならぬ様子に、すれ違う侍女や女官が声をかけようとしたり、眉を顰めたりしているが、わき目も降らずに先を急ぐ。
廊下を曲がると遠い突き当りに、居住棟と回廊を繋ぐ渡り廊下の入り口が見えた。
扉のない出入り口から、渡り廊下へ差し掛かった皇帝一行の後ろ姿が見通せる。
まだ無事だ。
「ハッ、ハァ……!」
もっと近づかないと、声は届かない。
早く呼び止めて、誰が本当に狙われているのか伝えなければ。
その時、渡り廊下の柵の外に並んだ植木の陰から、一行へ近寄る者が複数あった。
ついにやってきた。
「賊だ! 陛下をお守りしろ!」
即座に護衛たちが皇帝の周りを固め剣を抜く。
シヒスムンドは柵を乗り越えて廊下に降り立った刺客の一人へ斬りかかった。
皇帝の守りに不足はなく、衛兵たちは複数の刺客も十分抑え込めている。
シヒスムンドは目の前の刺客の剣を弾き飛ばし、その腕を切り落として無力化した。
しかし、シヒスムンドの背後、渡り廊下の屋根の上から、刺客がもう一人するりと降り立つ。
手にした剣は、禍々しい異様な黒い煙を纏っている。
「閣下! 後ろです!」
ようやく渡り廊下の入り口にたどり着いたメルセデスが、駆け寄りながら背後を指摘する。
シヒスムンドはメルセデスの声に反応して瞬時に振り返る。
だが、それと刺客の凶刃が彼の腹部に突き刺さるのは同時だった。
「う、ぐ……!」
「将軍閣下!」
「あいつ、魔力を使うぞ!」
剣が引き抜かれ、傷を押さえて膝をつくシヒスムンド。
まだ一人いて、更に皇帝ではなく自身が狙われているとは思っていなかった。確かに油断があった。しかし、それでもただの人間が相手なら、腹を刺されようがそのまま反撃できた。剣に黒い煙を漂わせる刺客の魔力の性質が、彼に膝をつかせたのだ。
「シグ! 俺はいいから将軍を守れ!」
「出来ません! 危険です!」
皇帝が叫ぶが、護衛たちは別の刺客と切り結んでおり、主君の傍を離れるわけにはいかない。
動けないシヒスムンドに、男は剣を引いて刺突の構えを取る。
「閣下!」
メルセデスの体は、勝手にその間に滑り込んでいた。
手枷で魔力を封じられたメルセデスに止められるはずがない。それでも、一度きりの盾にこの命を費やしても構わなかった。
「メルセデス!」
刺客の剣が眼前に繰り出される。
シヒスムンドの切迫した声。
メルセデスは反射的に、頭を手でかばった。
メルセデスは居住棟の新たな愛妾へ割り当てられた部屋へ駆けつけ、丁度室内から出てきた侍女に声を張り上げた。
「あ……、レディ・メルセデス。どうなさ――」
「早く! すぐにお伝えすることが!」
侍女はメルセデスの剣幕に目を剥いているが、落ち着いて話している暇はない。
「も、もう、陛下と共にお帰りになりました……」
一足遅かった。
メルセデスは身を翻し、回廊へ続く廊下を走る。
(間に合って……!)
喉からは荒い呼吸しか出てこず、足も重い。手枷が邪魔で上手く走れない。
ただならぬ様子に、すれ違う侍女や女官が声をかけようとしたり、眉を顰めたりしているが、わき目も降らずに先を急ぐ。
廊下を曲がると遠い突き当りに、居住棟と回廊を繋ぐ渡り廊下の入り口が見えた。
扉のない出入り口から、渡り廊下へ差し掛かった皇帝一行の後ろ姿が見通せる。
まだ無事だ。
「ハッ、ハァ……!」
もっと近づかないと、声は届かない。
早く呼び止めて、誰が本当に狙われているのか伝えなければ。
その時、渡り廊下の柵の外に並んだ植木の陰から、一行へ近寄る者が複数あった。
ついにやってきた。
「賊だ! 陛下をお守りしろ!」
即座に護衛たちが皇帝の周りを固め剣を抜く。
シヒスムンドは柵を乗り越えて廊下に降り立った刺客の一人へ斬りかかった。
皇帝の守りに不足はなく、衛兵たちは複数の刺客も十分抑え込めている。
シヒスムンドは目の前の刺客の剣を弾き飛ばし、その腕を切り落として無力化した。
しかし、シヒスムンドの背後、渡り廊下の屋根の上から、刺客がもう一人するりと降り立つ。
手にした剣は、禍々しい異様な黒い煙を纏っている。
「閣下! 後ろです!」
ようやく渡り廊下の入り口にたどり着いたメルセデスが、駆け寄りながら背後を指摘する。
シヒスムンドはメルセデスの声に反応して瞬時に振り返る。
だが、それと刺客の凶刃が彼の腹部に突き刺さるのは同時だった。
「う、ぐ……!」
「将軍閣下!」
「あいつ、魔力を使うぞ!」
剣が引き抜かれ、傷を押さえて膝をつくシヒスムンド。
まだ一人いて、更に皇帝ではなく自身が狙われているとは思っていなかった。確かに油断があった。しかし、それでもただの人間が相手なら、腹を刺されようがそのまま反撃できた。剣に黒い煙を漂わせる刺客の魔力の性質が、彼に膝をつかせたのだ。
「シグ! 俺はいいから将軍を守れ!」
「出来ません! 危険です!」
皇帝が叫ぶが、護衛たちは別の刺客と切り結んでおり、主君の傍を離れるわけにはいかない。
動けないシヒスムンドに、男は剣を引いて刺突の構えを取る。
「閣下!」
メルセデスの体は、勝手にその間に滑り込んでいた。
手枷で魔力を封じられたメルセデスに止められるはずがない。それでも、一度きりの盾にこの命を費やしても構わなかった。
「メルセデス!」
刺客の剣が眼前に繰り出される。
シヒスムンドの切迫した声。
メルセデスは反射的に、頭を手でかばった。
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