【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

雲走もそそ

文字の大きさ
156 / 180
解決編

63:事件の真相(1)

しおりを挟む
 事件からおよそ一月後、メルセデスの居室へ女官が呼び出しに来た。

「レディ・メルセデス。城内から召喚がございましたのでご準備を。事件に関しての聴取とのことです」

 女官の知らせにメルセデスは素早く身支度をし、彼女について部屋を出る。

 メルセデスが最後に見たシヒスムンドは、刺客の魔力を帯びた凶刃に傷を負い、非常に危険な状態にあった。あの事件以来、シヒスムンドと会うことはできておらず、彼が臥せっているという情報だけ流れてくるばかり。それが真実なのか、実は死んでしまっていて騒ぎを大きくしないための嘘ではないかと、不安な夜を過ごしてきた。
 いつかまた、秘密の通路から顔を見せてくれないか。約束の時間になると通路の作動する音を、耳をすませて待っていた。

 後宮の入口の大扉をくぐり、方向感覚を失いそうな似たような廊下を長い時間歩き続け、やがて一つの部屋の前へ行き着く。
 聴取というからには事務用の部屋なのだろうが、その扉は両開きで装飾もあり、豪奢とまでいかずとも、比較的身分の高い人間に割り当てられる場所であることが窺えた。

 女官が扉を叩き、中から返事が受けて入室する。

「失礼いたします。レディ・メルセデスをご案内いたしました」

 部屋の中は執務室などではなく、ベッドなどのある普通の居室だった。後宮のメルセデスの居室よりも広くて家具も立派だ。
 部屋には先客が二人。ベッドから上体を起こすシヒスムンドと、その傍らに立つ皇帝ダビドだ。

「ご苦労。下がっていろ」

 女官は礼をしてから退室していったため、一人で残されてしまったが、それに気づかないほどメルセデスの意識はシヒスムンドに奪われている。

 変わらない不敵な笑みと、鋭い金色の瞳。素肌に羽織ったシャツの下、腹部に白い包帯が巻かれている。
 まだ横になっているということは、本調子ではないのだろう。それでも、傷を受けて蒼白になったあの時に比べれば、もう危険は去っているのだと分かった。

 ベッドの前まで移動して、メルセデスは二人に礼を取った。
 シヒスムンドが無事で本当によかった。事件以来メルセデスの胸の中でくすぶっていた不安が安堵へ変わる。喉の奥から熱がせり上がり、つんと鼻の奥が痺れる。涙はどうにか堪えたが、泣きそうになっているのが彼らに悟られたかもしれない。

「なかなか会わせてやれなくてすまなかったな。メルセデス」

 目を薄布で隠している皇帝ダビドの口元が、優しく笑みを浮かべている。顔合わせの時と違い、砕けた口調だ。

「毒で治りが悪かったが、もう傷も塞がっている」
「……よく、御無事で」

 心からの労りの言葉と、吐いた息が震えてしまった。

「シグが動けない間に、事件の始末は俺の方でつけさせてもらった。君には連絡できなかったが、顛末は少し噂で耳にしたかもしれないな」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

最高ランクの御曹司との甘い生活にすっかりハマってます

けいこ
恋愛
ホテルマンとして、大好きなあなたと毎日一緒に仕事が出来ることに幸せを感じていた。 あなたは、グレースホテル東京の総支配人。 今や、世界中に点在する最高級ホテルの創始者の孫。 つまりは、最高ランクの御曹司。 おまけに、容姿端麗、頭脳明晰。 総支配人と、同じホテルで働く地味で大人しめのコンシェルジュの私とは、明らかに身分違い。 私は、ただ、あなたを遠くから見つめているだけで良かったのに… それなのに、突然、あなたから頼まれた偽装結婚の相手役。 こんな私に、どうしてそんなことを? 『なぜ普通以下なんて自分をさげすむんだ。一花は…そんなに可愛いのに…』 そう言って、私を抱きしめるのはなぜ? 告白されたわけじゃないのに、気がづけば一緒に住むことになって… 仕事では見ることが出来ない、私だけに向けられるその笑顔と優しさ、そして、あなたの甘い囁きに、毎日胸がキュンキュンしてしまう。 親友からのキツイ言葉に深く傷ついたり、ホテルに長期滞在しているお客様や、同僚からのアプローチにも翻弄されて… 私、一体、この先どうなっていくのかな?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...