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前編
4.復讐-3
しおりを挟むイリスがグンナルを立ち会わせたのは、証人にするためだけではない。彼をイリスの復讐の協力者にするためだ。
「私にはこの記憶を、鏡なしで他人へ共有できる準備があります。私が無実だったと証明されれば、私の潔白を信じず、偏見からまともな調査をしないで停学処分を下した先生は、果たして教師のままでいられますか?」
グンナルは他人の地位や権力に従う。同時に自らのそれに対する上昇志向も強い。そんな彼が、名誉あるルーヘシオンの教師という地位を失い、その後ついて回る汚名に耐えられるはずがない。
「先生が私のお願いを聞いてくださるなら、私は今後潔白を主張しません。そうすれば先生の過ちは、引き続き露見しないでしょう」
撥ね退けず言葉の続きを待つグンナルに、イリスは成功を確信した。
「私がアルヴィド先輩に、一つ魔術をかけます。呪いでも何でもない、負傷も痛みもない魔術です。それをかけるために、彼を拘束して、その後は黙認してください。それだけです」
「グンナル先生。そんな違法行為に協力するつもりですか。言いなりになって、彼女が約束を守る保証がどこにあるんです」
「大丈夫ですよ、先生。先生が裏切らなければ私も約束を反故にしません。魔法契約も交わします。それから、この場で起きたことを先輩も口外できません。自分の犯した罪も明るみに出てしまいますから」
冷静に話しつつ、アルヴィドは密かにベルトへ挿した杖へ手をかけようとしていた。
だがその前に、グンナルの魔術がアルヴィドの杖を弾き飛ばした。続いて光の縄のようなものが体に巻き付き、動きを封じる。
「せ、んせい、正気ですか」
拘束魔術の締めつけにより苦しげな声を漏らすアルヴィドは、ようやく焦りを見せた。
とんでもないことをしているという自覚のあるグンナルは、今にも倒れそうな真っ青な顔をしている。それでも、アルヴィドを拘束する魔術を緩めない。
「ありがとうございます。先生」
グンナルと杖を交えて魔法契約を結んでから、イリスは膝をつくアルヴィドの前に立った。
彼の眼前へ脅すように杖を突きつける。
「先輩、私、あのことを忘れたくて、忘れたくて、自分の頭の中から記憶を消せないか、停学期間の間ずっと考えていました。その後も色々試して、やっと記憶を取り出す魔術を作れたんです」
イリスには、精神魔術への突出した適性と、その中でも記憶を操作する魔術に関し特異な才能があった。
その才と、必要に迫られた結果、まだイリスにしか扱えない魔術を生み出すに至る。
「でも結局、あの記憶は何度も思い出したせいで、私の中であの日以降にも連なる記憶として取り返しがつかないほど増殖してしまいました。大元の記憶一つを取り出しても、もう意味がないんです」
「でも結局、あの記憶は何度も思い出したせいで、私の中であの日以降にも連なる記憶として取り返しがつかないほど増殖してしまいました。大元の記憶一つを取り出しても、もう意味がないんです」
あの日のことを、日夜思い返し続けた。その結果、思い返した記憶として、記憶の写しが数えきれないほど増えてしまった。
記憶を消しすぎると、人格が変わる。その数えきれないほどの悪夢を消した暁には、イリスは別人になっているだろう。だから、イリスは自分の記憶を消すことを諦めた。
だが、イリスが習得したのは記憶を消す魔術ではなく、取り出す魔術である。
「私が編み出した術は、記憶を取り出す魔術です。取り出したものは、また入れることができるんです。私以外にも」
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