【R-18】【完結】壊された二人の許しと治療

雲走もそそ

文字の大きさ
30 / 114
前編

10.提案-3

しおりを挟む
「薬はセムラクの使用をやめなくては減らないだろう。反作用があるから薬など必要になるのだ。正常にその都度感情を受け止めていれば、あのような強力な薬草を原料とする薬は不要なはずだ。まずはセムラクへの依存を治しなさい」

 イリスの方も好きで使っているわけではない。
 全校生徒の頂点に立つ善良な男がイリスを凌辱し、その後優等生のはずだった彼女の無実を誰も信じず嘲笑した。このような経験をして、部屋の外、すなわち他人との接触が自らを傷つけないなどと、なぜ楽観視できるというのか。いつ何時、あの時の記憶がよみがえって錯乱するかわからないのに。
 イリスが外へ出るためには、心を傷つけられないように守るものが必要だった。それがセムラクだ。
 単なる感情の先送りであっても、その場では冷静に対処できる。傷つく姿を見られずに済む。部屋で一人反作用に耐えれば、何もなかったことにできる。

「たやすく仰いますが、私がなぜセムラクに頼るのか、先生にはお分かりでしょう。あれはもう無かったことにはできないのです。私もできることなら忘れてしまいたい。けれど、些細なことがきっかけでよみがえってきます。あれが誰かの前で起きたらと思うと、セムラクなしに外出なんてできません。どうせ避けられない恐怖なら、せめてどこで受け止めるかを選びたいだけです」
「それで行き着く先が、規制植物の横領の罪で逮捕か」
「逮捕されたとしても、昔のことを暴露などしませんよ。それでは先生の裏切りではなく私の逆恨みになりますから、契約違反です」
「そのような事を話しているのではない」

 反論するイリスに、グンナルは顔をしかめた。だが不快の表情ではない。まるで憐れむような、苦悩と悲しさの混じった目をしている。
 彼のそんな表情を、イリスは初めて見た。

「今なら引き返せる。治そうとしなければ、その最も不幸な道を進み続けるだけだ。お前はそれで構わないのか」

 この言葉は、どのような意図なのか。イリスはグンナルの目的が分からなかった。

 グンナルは自分の経歴を傷つけないために、イリスに協力した。そして同時にその事実が、彼の新たな弱みとなっている。彼の行動原理は保身のはずだ。
 イリスが薬草の私的流用で逮捕されても、直接関係ない昔の話を口にはできない。裏切られない限り口外しないという魔法契約を結んでいるからだ。にもかかわらず、グンナルは食い下がってくる。

 先ほどは脅すように彼の責任もちらつかせたが、実際のところイリスが捕まろうと、グンナルに大した影響はない。過年度の薬草の消費量はそこまで不審なものではなかったため、当年度に急増して発見したという筋書で自然だし、異常を適時に調べたのだから管理者としての責任を十分果たしている。罷免されるほどではない。
 むしろイリスが捕まった方が、グンナルにとっては都合が良い。こうして近くにいて関係性が続いているから、裏切りと認識される状況にも陥るのだ。逮捕され離れてしまえば、関係は断たれ、グンナルの弱みをイリスが暴露することはなくなる。

「いいか。これは共犯者としての頼みではない。お前の上司としての命令だ。適切な専門家に協力を仰ぎ、セムラクへの依存を治せ」

 イリスは何かこの場をやり過ごせる言葉を探したが、結局口をつぐんだ。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご
恋愛
「キサマとはやっていけない。婚約破棄だ。俺が愛してるのは、このマリアルナだ!」 婚約者である王子が開いたパーティ会場で。妹、マリアルナを伴って現れた王子。てっきり結婚の日取りなどを発表するのかと思っていたリューリアは、突然の婚約破棄、妹への婚約変更に驚き戸惑う。 「姉から妹への婚約変更。外聞も悪い。お前も噂に晒されて辛かろう。修道院で余生を過ごせ」 リューリアを慰めたり、憤慨することもない父。マリアルナが王子妃になることを手放しで喜んだ母。 二人は、これまでのリューリアの人生を振り回しただけでなく、これからの未来も勝手に決めて命じる。 四つ違いの妹。母によく似たかわいらしい妹が生まれ、母は姉であ、リューリアの育児を放棄した。 そんなリューリアを不憫に思ったのか、ただの厄介払いだったのか。田舎で暮らしていた祖母の元に預けられて育った。 両親から離れたことは寂しかったけれど、祖母は大切にしてくれたし、祖母の家のお隣、幼なじみのシオンと仲良く遊んで、それなりに楽しい幼少期だったのだけど。 「第二王子と結婚せよ」 十年前、またも家族の都合に振り回され、故郷となった町を離れ、祖母ともシオンとも別れ、未来の王子妃として厳しい教育を受けることになった。 好きになれそうにない相手だったけれど、未来の夫となる王子のために、王子に代わって政務をこなしていた。王子が遊び呆けていても、「男の人はそういうものだ」と文句すら言わせてもらえなかった。 そして、20歳のこの日。またも周囲の都合によって振り回され、周囲の都合によって未来まで決定されてしまった。 冗談じゃないわ。どれだけ人を振り回したら気が済むのよ、この人たち。 腹が立つけれど、どうしたらいいのかわからずに、従う道しか選べなかったリューリア。 せめて。せめて修道女として生きるなら、故郷で生きたい。 自分を大事にしてくれた祖母もいない、思い出だけが残る町。けど、そこで幼なじみのシオンに再会する。 シオンは、結婚していたけれど、奥さんが「真実の愛を見つけた」とかで、行方をくらましていて、最近ようやく離婚が成立したのだという。 真実の愛って、そんなゴロゴロ転がってるものなのかしら。そして、誰かを不幸に、悲しませないと得られないものなのかしら。 というか。真実もニセモノも、愛に真贋なんてあるのかしら。 捨てられた者同士。傷ついたもの同士。 いっしょにいて、いっしょに楽しんで。昔を思い出して。 傷を舐めあってるんじゃない。今を楽しみ、愛を、想いを育んでいるの。だって、わたしも彼も、幼い頃から相手が好きだったってこと、思い出したんだもの。 だから。 わたしたちの見つけた「真実の愛(笑)」、邪魔をしないでくださいな♡

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...