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中編
18.他人事-2
しおりを挟む「彼を理解できません」
魔法薬を服用し、しばらく時間を置いた後。ようやく許された口直しのお茶にありつきながら、イリスはアルヴィドの行動の不可解さを説明し、グンナルの意見を求めていた。
既にグンナルは、イリスの中ではおそらく完全に安全な相手として位置づけられているのだろう。飲み物の課題も、さして問題なくこなすことができた。味の方へ気を取られていたからかもしれないが。
「もう辞めても問題ないはずなのに、どうして危険を冒してまで私の治療へ協力するのでしょうか」
アルヴィドは本人曰く、職を失わないために、解雇できる証拠を握っていたイリスの治療に協力した。今は、彼を操ることのできる強力な魔法道具を持たされているため、退職届を書かせられるし、何なら自殺させることもできる。
しかし、動機が職のためといっても、彼は男性恐怖症をほぼ克服し、ルーヘシオンへ来る三か月前までは仕事をしていた。この仕事に固執せずとも、他で働けば命を脅かされることはない。非常勤講師が薄給であっても無職の期間をやり過ごせるだけの蓄えは可能だったはずなので、すぐにでも退職できる。
彼はなぜ、仕事のためと嘘をついてまで、命懸けでイリスに協力するのか。
「……アルヴィドの正体がわかって、お前がこの部屋へ乗り込んできたことがあっただろう」
「はい」
およそ三か月前、新年度が始まって間もない頃。なぜイリスと因縁のあるアルヴィドを採用したのかと、グンナルを詰問しにきた。グンナルもその事実を知らず、多忙な校長が部活顧問しか担当しない非常勤講師の採用までは関与しないという答えだった。
「実はあの直後、彼もここを訪ねてきた」
それはイリスにとって初耳だった。
「アルヴィドは噂が出回り、お前に正体を気付かれてすぐに、辞職を申し出ていた」
「え……」
「私が、無理に引き止めた」
もしそうなら、アルヴィドは最初から解雇を避けようとしていたのではない、ということになる。
イリスが中庭へ呼び出して、生徒たちの前で会話する約束をした時も、とっくにこの職へしがみつくつもりなどなかったのだ。
「先生は、どうして、引き止めたのですか……」
グンナルは何を考えて、アルヴィドを留まらせたのか。アルヴィドから退職の意思を告げられる直前にした会話では、イリスへ配慮して雇用継続に消極的だったはずだ。
眉間のしわを一層深くしたグンナルは、アルヴィドから知らされた、彼の本当の過去を語りだした。
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