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中編
23.赦罪-2
しおりを挟む「あなたはどうして私を知っていたの。話したこともなかったはずでしょう」
「わからない。いつの間にか、そうなっていた。おそらく些細なことだから覚えていないのだろう。その時の記憶を探っても、弟の顔が一瞬過るだけだ」
「あなたの弟さんとも、話したことは無いけど」
「多分君が弟の同級生だから、関連情報として引き出されたんだと思う」
結局アルヴィドは、偶然イリスへ目をつけて、偶然その機会があったから犯したのだろうか。イリスは釈然としなかった。
そんなイリスを見て、アルヴィドは一層苦々しい表情を浮かべ、視線を地面へ落とす。
「理由を求めているのかもしれないが、正直なところ、そう呼べるものは出てこない可能性が高い。覚えていないが想像はつく。昔の私は、周りの人を見下して、他人は自分のための使い捨ての存在だと、心の底から考えていた。父親だけはどこか恐れていたから違うのだろうが、誰かを傷つけ陥れても、遊びとしか感じていなかっただろう。君のことも、おそらくそうだ。報復を受けてなお、罪の自覚も反省もまるで記憶にない。むしろ逆恨みしていた……」
アルヴィドは過去の自分への嫌悪感を表情で露わにする一方、激しく非難する言葉は使わず、ただどのように考えていたかを説明する。隠せないほど嫌忌しているが、自ら非難しては過去の自分を他人のように扱うことになるからだ。責任逃れにならないよう、あくまで自分のことだと戒めている。
「他の人にも、していたの」
「それは違う!」
アルヴィドは弾かれたように顔を上げた。
「信じられないだろうが、あのような惨いこと……、違法行為を働いたのは、あれが初めてだ。確かにいくらか忘れていることもあるが、そういった思考の記憶がある。あの頃の私は、自分の将来の瑕疵にならないよう振舞いに相当気を払っていた」
「でも何というか、手慣れてた」
「それは……、その、合意の相手が、何人かいたからだ」
恋人とは表現しないことから、体だけの関係の女性が複数いたと考えられた。
ただ、嘘や言い訳ではなさそうで、彼の目は話しづらい内容に揺らぎつつも、真っ直ぐイリスを見ている。
「なら、なぜ私には、罪を犯せたの」
目を付けたきっかけは忘れたというが、決断させた理由が別に存在するはずだ。
「……酷い理由だ」
「私は知っておきたい」
「教師含め、大勢が君への低俗な噂を信じていた。私もだ……。それで、君が相手なら、万が一告発されても私が勝てると思ったからだ」
「……その予想は、正しかったわ」
証拠になるものは消してから立ち去った。
また、その後の停学処分に対する周囲の反応からしても、彼の、そして当時のイリスの予想通り、誰も信じてはくれなかっただろう。
だからイリスは、自分の手で証明するしかなくなった。
セムラクで心を守りながら、記憶の鏡の使用権を得て、アルヴィドの前でグンナルへ潔白を示し、告発を行ったのだ。
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