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15.叱責-1
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その日の夕方、ルドヴィーク公爵は、一議員として出席した貴族院の議会を終え、城内に設けられた議場から退出して廊下を歩いていた。
ルドヴィーク公爵家は、数代前の王弟が臣籍へ下って始まった家系である。先々代の時、所領の険しい岩山が質の良い紅玉の取れる鉱山だったことが判明し、その採掘から加工、販売等を主力産業として大きく発展してきた。先だってグィリクス王へ献上した宝飾品も、そのエリヌミシュ鉱山から採掘された原石より削り出されたものである。
現在では王家に次いでの財を蓄えた貴族家となり、爵位と財産から客観的に見て、間違いなく貴族の筆頭家門であるといえた。
公爵は普段所領の屋敷に住んでいるが、今日のように定期的に実施される貴族院議会の前後には、王都の邸宅へ滞在していた。
こうして王都へ来る時には、年甲斐もないのだが、楽しみがある。それは末娘のヴィオラと顔を合わせることだ。
ヴィオラは国王付の筆頭秘書官の職に就いていて、そのためベラーネク伯爵家へ嫁いだ後も夫と離れ王都に一人で住んでいる。他の娘たちとはなかなか会う機会に恵まれないが、ヴィオラだけはこちらが王都へ来さえすれば比較的都合がつきやすい。そういうわけで、議会のたびに食事などをしている。仮に夫と住んでいては、王都にいたとしてもこうはいかないだろう。
しかし、ヴィオラは丁度昨日、王城を辞すことになったそうだ。急なことだが、数日前に手紙で連絡を受けていた。夫の所領へ戻ることになれば、今後会える機会は減るだろう。娘の決めたことなので特段反対はないが、その点は少し残念に思っていた。
彼女もこの機会を逃すと次はかなり先になると想像しているためか、今夜、公爵家の邸宅で会う約束を取り付けてきている。公爵も退職の理由などをそこで尋ねる予定だった。
「これは、公爵閣下」
侍従と共に廊下を歩いていると、後方から呼びかけられた。立ち止まり振り返れば、口ひげを整えた壮年の男が追いついてきたところだった。
公爵はその顔を見て、もっと早く帰ればよかったと後悔した。
「……久方ぶりだな、伯爵」
その男は王都から西の方の領地を治める伯爵家の当主で、公爵と大体同い年ぐらいになる。彼とは年が近かったせいか、昔から何かにつけて突っかかられており辟易していた。公爵の亡き母が伯爵家の親戚の親戚ぐらいの遠縁にあたり、その薄い縁を盾に無礼か否かの境界線すれすれぐらいに位置する今一つ無遠慮な接し方をされている。おそらく向こうも公爵を嫌っているため、お互い早くくたばれと思っているだろう。
ルドヴィーク公爵家は、数代前の王弟が臣籍へ下って始まった家系である。先々代の時、所領の険しい岩山が質の良い紅玉の取れる鉱山だったことが判明し、その採掘から加工、販売等を主力産業として大きく発展してきた。先だってグィリクス王へ献上した宝飾品も、そのエリヌミシュ鉱山から採掘された原石より削り出されたものである。
現在では王家に次いでの財を蓄えた貴族家となり、爵位と財産から客観的に見て、間違いなく貴族の筆頭家門であるといえた。
公爵は普段所領の屋敷に住んでいるが、今日のように定期的に実施される貴族院議会の前後には、王都の邸宅へ滞在していた。
こうして王都へ来る時には、年甲斐もないのだが、楽しみがある。それは末娘のヴィオラと顔を合わせることだ。
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しかし、ヴィオラは丁度昨日、王城を辞すことになったそうだ。急なことだが、数日前に手紙で連絡を受けていた。夫の所領へ戻ることになれば、今後会える機会は減るだろう。娘の決めたことなので特段反対はないが、その点は少し残念に思っていた。
彼女もこの機会を逃すと次はかなり先になると想像しているためか、今夜、公爵家の邸宅で会う約束を取り付けてきている。公爵も退職の理由などをそこで尋ねる予定だった。
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