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22.摩耗-1
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目を覚まして最初に視界へ入ったのは、温室の天井を透かして見る明るい空ではなく、気遣わしげな表情を浮かべたイザークの顔だった。
「昨日も、何も口にしなかったらしいな」
温室内の小さな広場のカウチソファで横になっていたはずのヴィオラは、いつの間にかそこへ腰かけたイザークの腕に身を任せていた。彼が温室を訪れたのは何日ぶりか分からないが、抱き起されるまで気がつかなかった。
ヴィオラはイザークの問いかけに何も答えない。空腹で、喋る気力すら起きないのだ。ここ数日、食事を運んでくる侍女に対し、イザークが自らを解放するまで何も食べないと拒否し、水も断っていた。
イザークはヴィオラの肩に腕を回して支え、もう一方の手をソファの正面へ伸ばす。ヴィオラの前を横切るその腕を目で追うと、低めのテーブルがソファの近くに引き寄せてあった。テーブルの上では、白い皿に注がれた琥珀色のスープが湯気を立ち上らせている。
スプーンを手にしてひと匙スープを掬うと、イザークはそれをヴィオラの口の前に差し出した。肉と香味野菜から成る香りに、空腹を通り越し一旦失せてしまっていた飢えが甦る。
それでもヴィオラはぐっと唇を引き結び、拒む意思を示した。
「最初に話しただろう。そなたが死ぬのであれば、私も後を追う。それがこの我慢比べの行き着く先だが、まだ続けるか?」
唇にスプーンが軽く当てられる。ヴィオラはイザークをじっと見返す。
脅しを忘れたわけではない。温室へ連れてこられた当初、彼は自らの首へ刃を突きつけ、全ての責務を放り出してでも死ぬ覚悟を示した。それでもヴィオラがこの絶食による抗議を始めたのは、少しずつ弱っていく様を目の当たりにすれば、彼が折れるのではないかと期待し、それに賭けたからだ。
ところがイザークは、身動きも取れなくなっている姿に多少心配そうな顔はしているが、それはまるで子供のわがままを眺めている時に近い。言動も毅然としている。
どうやら、この数日間の努力は無駄だったようだ。敗北を悟ったヴィオラは、徒労感に襲われながら、諦めて口を開いた。
目元を和らげたイザークにより、口の中にスープがそっと流し込まれる。ヴィオラは数日ぶりの水分を、むせないよう慎重に嚥下した。体が弱っていることに配慮して、かなり薄めの味付けにされている。
飲み下すと、またスプーンでスープが運ばれてくる。少しずつ、ゆっくりしか飲めないので、平らげるにはもどかしいほど時間を要した。
「また来る」
そうしてイザークは長い時間をかけて介助を終えると、ヴィオラの額に口づけ、空になった皿を手にして立ち去った。
軟禁されてから十日近くは経っているが、彼がここを訪れたのは数えるほどである。特にヴィオラが食事を断っている期間は一度も顔を見せなかった。元から多忙な人だ。妾を囲って入りびたるなどということはなく、従前の生活を維持したうえで、時間を見つけて温室へ足を運んでいるのだろう。
(これも失敗した……)
ヴィオラはソファの肘置きに預けていた背中をずるずると滑らせ、座面へ頭を付けた。
「昨日も、何も口にしなかったらしいな」
温室内の小さな広場のカウチソファで横になっていたはずのヴィオラは、いつの間にかそこへ腰かけたイザークの腕に身を任せていた。彼が温室を訪れたのは何日ぶりか分からないが、抱き起されるまで気がつかなかった。
ヴィオラはイザークの問いかけに何も答えない。空腹で、喋る気力すら起きないのだ。ここ数日、食事を運んでくる侍女に対し、イザークが自らを解放するまで何も食べないと拒否し、水も断っていた。
イザークはヴィオラの肩に腕を回して支え、もう一方の手をソファの正面へ伸ばす。ヴィオラの前を横切るその腕を目で追うと、低めのテーブルがソファの近くに引き寄せてあった。テーブルの上では、白い皿に注がれた琥珀色のスープが湯気を立ち上らせている。
スプーンを手にしてひと匙スープを掬うと、イザークはそれをヴィオラの口の前に差し出した。肉と香味野菜から成る香りに、空腹を通り越し一旦失せてしまっていた飢えが甦る。
それでもヴィオラはぐっと唇を引き結び、拒む意思を示した。
「最初に話しただろう。そなたが死ぬのであれば、私も後を追う。それがこの我慢比べの行き着く先だが、まだ続けるか?」
唇にスプーンが軽く当てられる。ヴィオラはイザークをじっと見返す。
脅しを忘れたわけではない。温室へ連れてこられた当初、彼は自らの首へ刃を突きつけ、全ての責務を放り出してでも死ぬ覚悟を示した。それでもヴィオラがこの絶食による抗議を始めたのは、少しずつ弱っていく様を目の当たりにすれば、彼が折れるのではないかと期待し、それに賭けたからだ。
ところがイザークは、身動きも取れなくなっている姿に多少心配そうな顔はしているが、それはまるで子供のわがままを眺めている時に近い。言動も毅然としている。
どうやら、この数日間の努力は無駄だったようだ。敗北を悟ったヴィオラは、徒労感に襲われながら、諦めて口を開いた。
目元を和らげたイザークにより、口の中にスープがそっと流し込まれる。ヴィオラは数日ぶりの水分を、むせないよう慎重に嚥下した。体が弱っていることに配慮して、かなり薄めの味付けにされている。
飲み下すと、またスプーンでスープが運ばれてくる。少しずつ、ゆっくりしか飲めないので、平らげるにはもどかしいほど時間を要した。
「また来る」
そうしてイザークは長い時間をかけて介助を終えると、ヴィオラの額に口づけ、空になった皿を手にして立ち去った。
軟禁されてから十日近くは経っているが、彼がここを訪れたのは数えるほどである。特にヴィオラが食事を断っている期間は一度も顔を見せなかった。元から多忙な人だ。妾を囲って入りびたるなどということはなく、従前の生活を維持したうえで、時間を見つけて温室へ足を運んでいるのだろう。
(これも失敗した……)
ヴィオラはソファの肘置きに預けていた背中をずるずると滑らせ、座面へ頭を付けた。
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