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お願いと心の内
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「おい魔女ババア、お前なかなかやるじゃないか。弟子がこのザマだから大したことのないやつかと思っていたが、流石に長生きしているだけのことはあるな」
自分の予想を上回る実力を見せたマーリンを前に、気持ちの高ぶりを抑えきれないでいるクロノはあえて挑発的な言葉を選ぶ。
「ヒヨッコが…大口を叩きよる。だが、まぁ~そこにいるウチの馬鹿弟子にもそのくらいの力量と余裕を身に付けてもらいたいものじゃがな」
クロノからの挑発を軽くいなしたマーリンは、その言葉を発すると同時にラーニャをギロリと睨みつける。
そのあまりの眼光の鋭さにラーニャは再び意気消沈するのであった。
「さて、説教はこのくらいにしておいて。馬鹿弟子よ、そろそろ此奴らが何者か説明してもらおうか」
「畏まりました、お師匠様。まずこちらがスズネ殿、次にこちらがミリア殿、そして最後が、わ…わ…わっちの未来の旦那様であるクロノ様です」
「おい、勝手に訳の分からん説明をするな。そんなものに俺はならねぇぞ」
モジモジしながら照れ笑いを浮かべるラーニャの説明に対し、間髪入れずに否定するクロノ。
「ほ~う、貴様が噂の魔王クロノか。まぁ~よい、続きはわしの家で聞こう。何も無いところだが茶くらいは出そう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
マーリンの家へと招かれたスズネたち。
そこは大魔法師にして『賢者』とも言われるマーリンが住むというには、質素というか、小ぢんまりとした佇まいであった。
到着した当初こそ少し緊張していたスズネたちであったが、椅子に腰を掛け、出されたお茶を飲む頃には落ち着きを取り戻していた。
「木の温もりがあって、この森を感じられるとても素敵なお家ですね」
「そうだろう。この森の木々を使わせてもらい建てたものだからな。生息する草木や木々と同様に森の一部として認めてもらっておる」
スズネからの言葉を受け、とても嬉しそうに笑うマーリン。
「良いな~、アタシもこんな家に住んでみたい。ところでマーリン様、認められてるって誰にですか?国王様とか、国のお偉いさんとかですか?」
先程のマーリンの言葉に疑問を感じたミリアが質問する。
「アッハッハッ。国王?国のやつら?そんなわしの半分の年月も生きておらんような若造共に許しを請うことなど何ひとつとしてないわ」
質問された内容を豪快に笑い飛ばすマーリン。
そして、この国のトップである国王でさえ“若造”呼ばわりしてしまう豪胆さを前に、この人がラーニャの師匠であることを強く納得させられてしまい苦笑いを浮かべるミリアなのであった。
「アハハハハ…そうですよね~。では、いったいどちら様なのでしょうか?」
「それはな・・・この森だ」
「森…ですか??」
自身の言葉を聞き不思議そうな表情を見せるスズネとミリアに対し、マーリンは真っ直ぐ視線を送り静かに語り始める。
「そうだ。わしももう長い年月をこの場所で生かしてもらっておる。この森で育った果実や木の実、動物の肉、畑で育てた野菜を食べ、雨や嵐の日には森の木々たちが雨露や風からこの身を守ってくれる。その恩恵を受けつつ、時折悪さをする魔獣を懲らしめたり、森を荒らそうとする人間共を追い返したりしながら、この森で共に生きることを認めてもらっておるんだよ」
マーリンの話を聞いてもいまいちピンときていない様子の二人。
「あの~マーリンさん、森に認めてもらう…それは必要なことなんですか?家を建てて住んでしまえばいいだけなんじゃ・・・」
軽はずみなスズネの言動に対してマーリンは厳しさをもって返答する。
「それは人間による独り善がりの傲慢だ。昨今では、当然のように寝起きし、ご飯を食べ、生活を営むことを自分たちだけで行っていると勘違いしておる者が多い。その口にしている物も、住んでいる家も含めて、この大地に、自然に、もっと言えばこの『ホシ』による恩恵の上に成り立っていることを忘れてしまっておる」
マーリンの話を真剣な表情で聞く二人。
少しずつマーリンの言葉の意味を理解したようで、無意識の内に自分たちが持っていた“傲慢さ”を認識し、反省したように落ち込んだ表情を見せる。
「アッハッハ、そう下を向くな。少々厳しく言い過ぎたようだな。しかし、今お前たちが抱いたモノはとても大事なことだ。何よりもまず大事なのは“気づくこと”だからな」
そう言うと、マーリンは優しい微笑みを向けた。
それを受けスズネとミリアは顔を見合わせて嬉しそうに笑うのであった。
「話は変わるが、お前たちはこんな所まで何をしに来たんだ?言ってはなんだが、本当に何もないぞ」
先程ラーニャからそれぞれの紹介はされたが、スズネたちがこの森へ来たそもそもの理由を聞かされておらず、当然のごとくマーリンが問う。
「私たち冒険者なんですけど、パーティを組むためにメンバーを募集しているんですが、なかなか見つからなくて・・・」
「そんな時に他の冒険者の方からラーニャのことを聞いて、アタシたちのパーティに入ってもらえないかと思って来ました」
マーリンの質問に対して、自分たちの現状を含めた切実な想いを口にするスズネとミリア。
その表情からは不安と焦りが見て取れる。
二人の話を聞き終えると、マーリンはフゥーと大きく息を吐いた。
そして、数秒間の沈黙の後ゆっくりと口を開いた。
「お前たちの望みは理解した。そこの馬鹿弟子の表情から察するに、本人も行きたいのであろう。しかし、大丈夫なのか?他の冒険者からも聞いていると思うが、コイツはこれまでにいくつものパーティやクランを追い出されているんだぞ?」
スズネたちの為なのか
可愛い弟子の為なのか
はたまた他に理由があるのか
その真意は定かではないが、マーリンは念を押すように確認する。
「大丈夫ですよ!ラーニャちゃんは強いですし、何よりとっても可愛いですから」
何を根拠としているのかは分からないが、自信満々に笑顔で答えるスズネの姿に圧倒されつつ、少し呆れたように笑みを浮かべるマーリンであった。
「そ…そうか。まぁ~お前たちが良いのであれば良いんだが・・・しかし一つ問題がある」
「「問題??」」
マーリンの言葉にキョトンとした表情をしながら首を傾げるスズネとミリア。
「ラーニャの最終試験が終わっておらん。以前は修行の一環として許可しておったが、度々問題を起こすんでな、この最終試験をクリアするまで森の外へ出ることを禁じておるんだ」
その言葉に動揺を見せるスズネたち。
その隣で自身の実力不足を改めて実感し、申し訳なさそうな表情を見せ俯くラーニャ。
「え~折角ここまで来たのに…どうしようクロノ?」
行き詰まった状況に慌てた様子を見せるスズネは、困り果てた末クロノに助け舟を求めた。
「はぁ?そんな小娘の事なんて知るか。そんなことよりマーリンと言ったか、召喚契約を解除する方法を知っているか?もし知っているなら教えろ」
当然の如くクロノにとってラーニャのパーティ加入など取るに足らない問題である。
それどころかスズネとの召喚契約さえ解除できれば、こんな所にいつまでもいる必要すらないのだ。
その自身の望みを一切隠すことなく言葉にする。
「ほ~う。召喚契約の解除ねぇ~」
そう言うと、マーリンはスズネの方をチラリと見た。
その視線の先に映るスズネは、少し寂しろうな、残念そうな表情をしながら視線を落としている。
そして、視線をクロノへと戻したマーリンはフッと不敵な笑みを見せながらイタズラっぽく話し始めた。
「まぁ~そうだな~、解除の方法…知っていると言えば知っているな」
「ほ…本当か!?すぐに教えろ!!」
興奮を抑えきれずに身を乗り出すクロノの姿を見たマーリンは、まるで罠にかかった獲物を見るような目をしながら少し上から目線で話を続ける。
「教えてく・だ・さ・い。だろ?魔王というのは、モノの頼み方も知らんのか?」
魔王である自身に対しての上からの物言いに、湧き上がる感情をグッと抑えながら無理矢理にでも笑みを作るクロノ。
「ハッハッハッハッハ、これは失礼をした。知っているようであれば教えてもらいたい。お願いする」
言葉ではこう言いながらも、頭を下げているクロノの内心は全くの別である。
⦅こんのババア~、調子に乗りやがって。契約の解除方法を聞いたらタダじゃおかねぇからな。骨すら残ると思うなよ⦆
そんなことを思いながら頭を下げ続けているクロノにまさかの言葉が返ってくる。
「ほ~う。骨すら残らんのか…それは恐ろしいのう。まぁ~貴様にそれが出来れば…の話だがな」
クロノは慌てたように頭を上げ驚愕した表情をマーリンへと向ける。
それに対し余裕の笑みをもって返すマーリン。
その様子を見ていたスズネとミリアは、何が何やら分からずポカンとしている。
そして、数秒の沈黙の後、状況が全く飲み込めないスズネが口を開く。
「あの~…何かありました?」
すると、マーリンは全く今の状況についてこれていない様子を見て笑いながら説明を始めた。
「アッハッハ。いや~すまんすまん。ちょっと此奴の心の内を読んでからかってやっただけだ。まさか魔王のそんな顔を拝める日が来ようとはな」
そのように話すマーリンは、満足気な表情と共に優越感に浸っている。
それとは対照的に、クロノは怒りや悔しさなどの感情が入り混じった複雑な表情を見せている。
その状況を見ていた三人はそれぞれ異なった反応を見せる。
スズネは、マーリンの説明を受けても尚理解が出来ておらず不思議そうにしている。
ラーニャは、以前に自身も同じことをされたことがあるのか、はぁ~と大きな溜め息を吐きながら俯いている。
そしてミリアはというと、他の二人とは違い普段余裕たっぷりで偉そうにしているクロノが悔しそうにしているのが嬉しいようで、クロノを横目で見ながらニヤニヤしている。
「えっと、マーリンさんは相手の心が読めるんですか?」
「そういうスキルがあるんだ。まぁ~熟練者同士ともなれば、心の内を悟らせないように蓋をするから全く使えんのだがな」
そう言うと、マーリンはニヤリと口元を緩めながらクロノに視線を送る。
「なんだよ」
「な~に歴代最強とも言われている魔王クロノがこうもからかい甲斐のあるやつだとは思わなかっただけだ」
「ふん。なんとでも言え」
マーリンに良いようにされたクロノは、怒りを滲ませながら不満気な態度を表し、なんとか言葉を絞り出す。
二人の間を漂う不穏な空気を打ち破るようにスズネが口を開き話を本筋へと戻す。
「あの~マーリンさん、どうしてもラーニャちゃんを森の外へ出すことはダメなんでしょうか?」
改めて受ける問いに対し、マーリンは目を閉じ腕を組んだ状態でう~んと唸りながら悩み始める。
───── 一分程の沈黙が続く ─────
そして、何かを思いついたようにパッと目を開くとフゥーと大きく息を吐き出した。
「今お前たちが抱えている問題を全て解決する方法が一つある」
自分の予想を上回る実力を見せたマーリンを前に、気持ちの高ぶりを抑えきれないでいるクロノはあえて挑発的な言葉を選ぶ。
「ヒヨッコが…大口を叩きよる。だが、まぁ~そこにいるウチの馬鹿弟子にもそのくらいの力量と余裕を身に付けてもらいたいものじゃがな」
クロノからの挑発を軽くいなしたマーリンは、その言葉を発すると同時にラーニャをギロリと睨みつける。
そのあまりの眼光の鋭さにラーニャは再び意気消沈するのであった。
「さて、説教はこのくらいにしておいて。馬鹿弟子よ、そろそろ此奴らが何者か説明してもらおうか」
「畏まりました、お師匠様。まずこちらがスズネ殿、次にこちらがミリア殿、そして最後が、わ…わ…わっちの未来の旦那様であるクロノ様です」
「おい、勝手に訳の分からん説明をするな。そんなものに俺はならねぇぞ」
モジモジしながら照れ笑いを浮かべるラーニャの説明に対し、間髪入れずに否定するクロノ。
「ほ~う、貴様が噂の魔王クロノか。まぁ~よい、続きはわしの家で聞こう。何も無いところだが茶くらいは出そう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
マーリンの家へと招かれたスズネたち。
そこは大魔法師にして『賢者』とも言われるマーリンが住むというには、質素というか、小ぢんまりとした佇まいであった。
到着した当初こそ少し緊張していたスズネたちであったが、椅子に腰を掛け、出されたお茶を飲む頃には落ち着きを取り戻していた。
「木の温もりがあって、この森を感じられるとても素敵なお家ですね」
「そうだろう。この森の木々を使わせてもらい建てたものだからな。生息する草木や木々と同様に森の一部として認めてもらっておる」
スズネからの言葉を受け、とても嬉しそうに笑うマーリン。
「良いな~、アタシもこんな家に住んでみたい。ところでマーリン様、認められてるって誰にですか?国王様とか、国のお偉いさんとかですか?」
先程のマーリンの言葉に疑問を感じたミリアが質問する。
「アッハッハッ。国王?国のやつら?そんなわしの半分の年月も生きておらんような若造共に許しを請うことなど何ひとつとしてないわ」
質問された内容を豪快に笑い飛ばすマーリン。
そして、この国のトップである国王でさえ“若造”呼ばわりしてしまう豪胆さを前に、この人がラーニャの師匠であることを強く納得させられてしまい苦笑いを浮かべるミリアなのであった。
「アハハハハ…そうですよね~。では、いったいどちら様なのでしょうか?」
「それはな・・・この森だ」
「森…ですか??」
自身の言葉を聞き不思議そうな表情を見せるスズネとミリアに対し、マーリンは真っ直ぐ視線を送り静かに語り始める。
「そうだ。わしももう長い年月をこの場所で生かしてもらっておる。この森で育った果実や木の実、動物の肉、畑で育てた野菜を食べ、雨や嵐の日には森の木々たちが雨露や風からこの身を守ってくれる。その恩恵を受けつつ、時折悪さをする魔獣を懲らしめたり、森を荒らそうとする人間共を追い返したりしながら、この森で共に生きることを認めてもらっておるんだよ」
マーリンの話を聞いてもいまいちピンときていない様子の二人。
「あの~マーリンさん、森に認めてもらう…それは必要なことなんですか?家を建てて住んでしまえばいいだけなんじゃ・・・」
軽はずみなスズネの言動に対してマーリンは厳しさをもって返答する。
「それは人間による独り善がりの傲慢だ。昨今では、当然のように寝起きし、ご飯を食べ、生活を営むことを自分たちだけで行っていると勘違いしておる者が多い。その口にしている物も、住んでいる家も含めて、この大地に、自然に、もっと言えばこの『ホシ』による恩恵の上に成り立っていることを忘れてしまっておる」
マーリンの話を真剣な表情で聞く二人。
少しずつマーリンの言葉の意味を理解したようで、無意識の内に自分たちが持っていた“傲慢さ”を認識し、反省したように落ち込んだ表情を見せる。
「アッハッハ、そう下を向くな。少々厳しく言い過ぎたようだな。しかし、今お前たちが抱いたモノはとても大事なことだ。何よりもまず大事なのは“気づくこと”だからな」
そう言うと、マーリンは優しい微笑みを向けた。
それを受けスズネとミリアは顔を見合わせて嬉しそうに笑うのであった。
「話は変わるが、お前たちはこんな所まで何をしに来たんだ?言ってはなんだが、本当に何もないぞ」
先程ラーニャからそれぞれの紹介はされたが、スズネたちがこの森へ来たそもそもの理由を聞かされておらず、当然のごとくマーリンが問う。
「私たち冒険者なんですけど、パーティを組むためにメンバーを募集しているんですが、なかなか見つからなくて・・・」
「そんな時に他の冒険者の方からラーニャのことを聞いて、アタシたちのパーティに入ってもらえないかと思って来ました」
マーリンの質問に対して、自分たちの現状を含めた切実な想いを口にするスズネとミリア。
その表情からは不安と焦りが見て取れる。
二人の話を聞き終えると、マーリンはフゥーと大きく息を吐いた。
そして、数秒間の沈黙の後ゆっくりと口を開いた。
「お前たちの望みは理解した。そこの馬鹿弟子の表情から察するに、本人も行きたいのであろう。しかし、大丈夫なのか?他の冒険者からも聞いていると思うが、コイツはこれまでにいくつものパーティやクランを追い出されているんだぞ?」
スズネたちの為なのか
可愛い弟子の為なのか
はたまた他に理由があるのか
その真意は定かではないが、マーリンは念を押すように確認する。
「大丈夫ですよ!ラーニャちゃんは強いですし、何よりとっても可愛いですから」
何を根拠としているのかは分からないが、自信満々に笑顔で答えるスズネの姿に圧倒されつつ、少し呆れたように笑みを浮かべるマーリンであった。
「そ…そうか。まぁ~お前たちが良いのであれば良いんだが・・・しかし一つ問題がある」
「「問題??」」
マーリンの言葉にキョトンとした表情をしながら首を傾げるスズネとミリア。
「ラーニャの最終試験が終わっておらん。以前は修行の一環として許可しておったが、度々問題を起こすんでな、この最終試験をクリアするまで森の外へ出ることを禁じておるんだ」
その言葉に動揺を見せるスズネたち。
その隣で自身の実力不足を改めて実感し、申し訳なさそうな表情を見せ俯くラーニャ。
「え~折角ここまで来たのに…どうしようクロノ?」
行き詰まった状況に慌てた様子を見せるスズネは、困り果てた末クロノに助け舟を求めた。
「はぁ?そんな小娘の事なんて知るか。そんなことよりマーリンと言ったか、召喚契約を解除する方法を知っているか?もし知っているなら教えろ」
当然の如くクロノにとってラーニャのパーティ加入など取るに足らない問題である。
それどころかスズネとの召喚契約さえ解除できれば、こんな所にいつまでもいる必要すらないのだ。
その自身の望みを一切隠すことなく言葉にする。
「ほ~う。召喚契約の解除ねぇ~」
そう言うと、マーリンはスズネの方をチラリと見た。
その視線の先に映るスズネは、少し寂しろうな、残念そうな表情をしながら視線を落としている。
そして、視線をクロノへと戻したマーリンはフッと不敵な笑みを見せながらイタズラっぽく話し始めた。
「まぁ~そうだな~、解除の方法…知っていると言えば知っているな」
「ほ…本当か!?すぐに教えろ!!」
興奮を抑えきれずに身を乗り出すクロノの姿を見たマーリンは、まるで罠にかかった獲物を見るような目をしながら少し上から目線で話を続ける。
「教えてく・だ・さ・い。だろ?魔王というのは、モノの頼み方も知らんのか?」
魔王である自身に対しての上からの物言いに、湧き上がる感情をグッと抑えながら無理矢理にでも笑みを作るクロノ。
「ハッハッハッハッハ、これは失礼をした。知っているようであれば教えてもらいたい。お願いする」
言葉ではこう言いながらも、頭を下げているクロノの内心は全くの別である。
⦅こんのババア~、調子に乗りやがって。契約の解除方法を聞いたらタダじゃおかねぇからな。骨すら残ると思うなよ⦆
そんなことを思いながら頭を下げ続けているクロノにまさかの言葉が返ってくる。
「ほ~う。骨すら残らんのか…それは恐ろしいのう。まぁ~貴様にそれが出来れば…の話だがな」
クロノは慌てたように頭を上げ驚愕した表情をマーリンへと向ける。
それに対し余裕の笑みをもって返すマーリン。
その様子を見ていたスズネとミリアは、何が何やら分からずポカンとしている。
そして、数秒の沈黙の後、状況が全く飲み込めないスズネが口を開く。
「あの~…何かありました?」
すると、マーリンは全く今の状況についてこれていない様子を見て笑いながら説明を始めた。
「アッハッハ。いや~すまんすまん。ちょっと此奴の心の内を読んでからかってやっただけだ。まさか魔王のそんな顔を拝める日が来ようとはな」
そのように話すマーリンは、満足気な表情と共に優越感に浸っている。
それとは対照的に、クロノは怒りや悔しさなどの感情が入り混じった複雑な表情を見せている。
その状況を見ていた三人はそれぞれ異なった反応を見せる。
スズネは、マーリンの説明を受けても尚理解が出来ておらず不思議そうにしている。
ラーニャは、以前に自身も同じことをされたことがあるのか、はぁ~と大きな溜め息を吐きながら俯いている。
そしてミリアはというと、他の二人とは違い普段余裕たっぷりで偉そうにしているクロノが悔しそうにしているのが嬉しいようで、クロノを横目で見ながらニヤニヤしている。
「えっと、マーリンさんは相手の心が読めるんですか?」
「そういうスキルがあるんだ。まぁ~熟練者同士ともなれば、心の内を悟らせないように蓋をするから全く使えんのだがな」
そう言うと、マーリンはニヤリと口元を緩めながらクロノに視線を送る。
「なんだよ」
「な~に歴代最強とも言われている魔王クロノがこうもからかい甲斐のあるやつだとは思わなかっただけだ」
「ふん。なんとでも言え」
マーリンに良いようにされたクロノは、怒りを滲ませながら不満気な態度を表し、なんとか言葉を絞り出す。
二人の間を漂う不穏な空気を打ち破るようにスズネが口を開き話を本筋へと戻す。
「あの~マーリンさん、どうしてもラーニャちゃんを森の外へ出すことはダメなんでしょうか?」
改めて受ける問いに対し、マーリンは目を閉じ腕を組んだ状態でう~んと唸りながら悩み始める。
───── 一分程の沈黙が続く ─────
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