魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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コルト

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ガタゴト ───── ガタゴト ───── 。


スズネたちは今回の目的地であるグリーンアイランドに行くために舟を出してくれるという経由地プエルト村を目指し、ギルドが用意した馬車に揺られていた。
今回のクエストは四つのパーティ+一名といく大所帯のため二台の馬車が用意されており、スズネたちはBランクパーティ“フェアリー”と同じ馬車となっていた。

そんな中、スズネたちは初めての合同クエストということもあり他のパーティと行動することに少なからず不安を感じていた。
しかし、同じ馬車に乗り合わせた“フェアリー”の面々はそんなスズネたちを気遣い、緊張をほぐそうと気さくに声を掛けてくれたのだった。


「へぇ~あの“魔人事件”を解決したのってスズネたちだったんだ~」

「いえ、私たちが解決したわけじゃなくて、最後はクロノが ───── 」

「ふ~ん、これが魔王。思っていたよりも普通ね、ナンシー」

「そうね。でも、Aランクの討伐対象を倒した実力者。それに…なかなかいい男よ、バンシー」

「確かにいい男ね、ナンシー」

「なんじゃ貴様ら!わっちの旦那様にベタベタと触るんじゃない!!」

「このチビっ子は何なの?ナンシー」

「恐らく“宿り木”のメンバーよ、バンシー」

「誰がチビっ子じゃ!貴様らも変わらんじゃろ。まったく…同じ顔をしておるから訳が分からなくなるのじゃ」


初めて会ったとは思えないほどに和気藹々とした空気感の中で会話を弾ませる“宿り木”と“フェアリー”。
そんな中で“フェアリー”に所属する双子の姉妹ナンシーとバンシーに悪戦苦闘するラーニャなのであった。


「ははは…クロノさんはモテるんですね」

「あ?こいつらが勝手に喚いてるだけだろ」

「そ…そうなんですね。あはははは・・・」

「オベロンさん、ホントすみません。こんな無愛想な魔王なんてほっといていいですから」

「そうっすよ。クロノはいつもこんな感じっすから気にする必要はないっす」


他のメンバーたちはすでに順応しているようだが、“フェアリー”のリーダーであるオベロンだけは魔王という存在にまだ慣れないでいた。
初めてクロノと会った人の多くは世間で噂されている魔王とのギャップに驚き、拍子抜けしてしまうことも珍しくない。
そんな中で一般的な魔王の印象に対して正常な反応をみせるオベロンであったのだが、思いのほか普通に接しているメンバーたちに驚きを隠せないでいた。


「みんなは凄いな。緊張しないのかい?」

「う~ん…だって見るからに強そうじゃない。今の私たちが束になって挑んでも瞬殺されるのが関の山。抗うだけ無駄よ」

「ティタの言う通り。オベロンは心配し過ぎなんぞ。クロノ殿がその気であればわしらなんぞあっという間に天に召されておるわい」

「そ…そうだね。あはははは・・・」


魔王クロノがいる。
その現実を前になかなか緊張がほぐれないオベロン。
そんなリーダーを気遣ってサブリーダーのティタとパーティ最年長のコリガンが現状を受け入れるように声を掛ける。
彼女らの気遣いに感謝しつつも、リーダーである自分が慰められる形となり情けなさから苦笑いを浮かべるしかないオベロンなのであった。
そして、そんな彼にナンシーとバンシーの姉妹が追い打ちをかける。


「最強の魔王と比べても仕方ないわよオベロン。ねっ、ナンシー」

「そうよ。実力差が天と地ほどあるんだから、背伸びしたって無駄だと思うわ。ねっ、バンシー」

「二人ともその辺にしておきなさい。打ちのめされ過ぎてオベロンの心が折れそうよ」

「そうね、シルキーの言う通りだわ。この辺にしておきましょ、ナンシー」

「ちょっとからかい過ぎたわね。そろそろ止めてあげましょ、バンシー」


自分よりひと回り以上も年下の少女たちから強烈な連打を浴びて打ちひしがれるオベロン。
そして一連のやり取りをずっと眺めていたスズネたちは、本当にこの人がリーダーなのか?と心配になるのだった。

そんなやり取りがありながらも交流を深めていく“宿り木”と“フェアリー”であったが、話を進めていく内に自然と話題は今回のクエストについて ─────── 。

まず話題に上がったのは、もちろん今回のクエストに参加するパーティについてである。


=========================

《ソロ:無所属》
・ジョーカー(?)   Sランク

《モノリス》
・ファイング(剣士)  Aランク
・ナルセナ(槍使い)  Aランク
・アシュロット(剣士) Bランク
・ポーラ(回復師)   Bランク
・ココ(魔法師)    Bランク
・ボリック(大盾使い) Bランク

《フェアリー》
・オベロン(槍使い)  Bランク
・ティタ(双剣士)   Bランク
・エサソン(剣士)   Bランク
・コリガン(大盾使い) Bランク
・ランパス(射手者)  Bランク
・シルキー(回復師)  Bランク
・ナンシー(魔法師)  Cランク
・バンシー(魔法師)  Cランク

《土ノ民》
・ラント(剣闘士)   Aランク
・ソイル(調教師)   Bランク
・テッラ(武闘家)   Bランク
・ゲー(武闘家)    Bランク

《宿り木》
・スズネ(魔法師)   Cランク
・ミリア(剣士)    Cランク
・ラーニャ(魔法師)  Cランク
・シャムロム(大盾使い)Cランク
・セスリー(射手者)  Cランク
・マクスウェル(剣士) 登録無し

=========================


今回は総数二十五名となっており、合同クエストとしては比較的小規模のものである。
そして、ティタがギルドより得た情報によると今回参加するクラン・パーティの中で最もランクの高い“モノリス”に関しては、Bランク以下の新人に経験を積ませるために参加しているとのことであった。
その証拠に総数百名を超える“モノリス”本体ではなく二名の引率者を含めた六名しか参加しておらず、引率者以外の四名は全員Bランクとなっていることからあくまでも若手の育成を目的として参加しているようである。


「オベロンさん、さっきアシュロットのバカが言ってましたけど、“モノリス”ってAランクの中でも強いんですか?」

「そうだね。Aランクでいうと ───── Sランクに最も近いと言われている“烏合の衆”がトップに君臨していて、“モノリス”・“九尾の狐”・“ミネルヴァ”がそれに次ぐ三強と言われている。そして、“ジークハルト旅団”・“ファミリア”・“レッドキャップス”といったクランが続くような感じかな」

「さっきの嫌味なやつもなかなかやるんすね」

「そんな大層なやつには見えんかったがのう」

「ただ所属してるクランが強いってだけでしょ。アイツ自体は大したことないわ。アタシ一度たりとも負けたことないしね」


なんともまぁ~見事に嫌われたものである。
ミリアだけでなくラーニャやシャムロムにまで『嫌なやつ』として認識されてしまったアシュロット。
自業自得といえばその通りなのだが、だんだんとアシュロットが可哀想にも思えてきたスズネなのであった。


「おい、そこのお前。ところでアイツはどういったやつなんだ?」


──────── !?


唐突に口を開いたクロノ。
そして気になっている質問をオベロンへとぶつけた。
もちろんいきなり声を掛けられ驚きを隠せないオベロンであったのだが、これも何かのチャンスだと捉え恐る恐る言葉を返す。


「アイツ…とは誰のことですか?」

「アイツだよ、アイツ。あの変な仮面をつけたやつ」

「あ~ジョーカーさんのことですか。あの人は、一言でいうと ───── “謎”です」

「「「「「「 謎…? 」」」」」」


オベロンによると“ジョーカー”という冒険者はかなり特殊な存在のようである。
Sランクという数多くいる冒険者の中でも最高位に位置しているにも関わらず、これまで一度も特定のクランやパーティに属すことなくずっとソロで活動をしているらしい。
それでも一定の人数が必要なクエストの時には一時的にクランやパーティに加わることもあるのだとか。
そしてそれを可能にしているのがジョーカー本人の人柄によるところが大きく、自身や相手のランクに関係なく誰に対しても紳士的な対応をとることから他の冒険者からの評判も頗る良いとのことであった。
しかし、どれだけ熱心な勧誘を受けてもクラン・パーティに加入することはなく、その上ありとあらゆる武器を使いこなすらしくジョーカーのジョブも含めその全てが謎とされているようだ。


「確かに初めて会った時もさっきギルドで会った時も凄く紳士的だったね」

「ソロでSランクなんてとんでもないわね」

「ありとあらゆる武器を使いこなす…本当であれば凄いですね」


オベロンから聞くジョーカーの話に驚きが止まらないスズネたち。
Cランクになるまでに仲間たちと苦労してきたことを考えると、一人でSランクにまで上り詰めたその実力は今のスズネたちには想像すら出来ないのであった。


「クロノはジョーカーさんのことが気になるんすか?」

「あ?別に・・・」

「でも気になったから聞いたんすよね?」

「イカれた格好をしてるやつがいたから聞いてみただけだ」

「まぁ~でも、ジョーカーは大丈夫よ。同じような奇抜な格好をしていても“デス・パレード”の連中とは似ても似つかないわ」


クロノの心配?をよそにジョーカーは信用に足る人物だというティタ。
“フェアリー”は以前にも一度クエストを共にしたことがあるらしくとても頼りになる存在だったという。
それに加えて他の冒険者たちからも一切悪い話を聞くことがなく、その強さと人柄に憧れる者も多いらしい。
そんな話を聞きスズネたちは今回のクエストにジョーカーがいてくれることをとても頼もしく感じるのだった。


「頼りになるねぇ~・・・」

「ク…クロノさん、何か気になることでも?」

「ん?大したことじゃねぇ~よ。まぁ~警戒は怠るなよセスリー」

「か…畏まりました」


道中いろんな話をして親睦を深める“宿り木”と“フェアリー”。
そして、そうこうしている内に目的の経由地であるプエルト村に到着したのだった。


─────────────────────────


《プエルト村》
比較的小さな村ではあるのだが、王都を始め多くの街へ特産物である魚介類を卸している活気に溢れた漁村である。


スズネたちが到着すると村の入口で村長が出迎えをしてくれた。


「冒険者の皆様、プエルト村へようこそ。私は村長をしておりますメルゲンと申します。ギルドより要請を受けまして、こちらの方でグリーンアイランドまでの案内をさせて頂きます」

「これはご丁寧にありがとうございます。私は冒険者クラン“モノリス”のファイングといいます。この度はグリーンアイランドまでの案内ありがとうございます」


冒険者たちを代表してファイングが村長と話を進めていく。
そして、さっそくグリーンアイランドへ向かうために村の舟着き場へと場所を移したのであった。


「おーい、コルト」

「あ?村長、そいつらがグリーンアイランドに行きてぇっていう冒険者か?」

村長に連れられ舟着き場に到着すると、ラーニャくらいの少年が舟の準備を進めていた。


「村長、この少年は ───── 」

「ああ、すみません。こいつが今回皆様をグリーンアイランドまで案内するコルトです。見た目は子供ですが、グリーンアイランドまでの海流に関しては村一番ですのでご安心ください」

「ガキ扱いすんなよ村長!お前らも舟に乗ったらオイラの言うことは絶対だからな!!」


グリーンアイランドまでの案内はてっきり村の漁師がするものだと思っていた冒険者たちであったのだが、実際に紹介された少年の姿に目を丸くした。
しかし、村長の口ぶりからするにグリーンアイランドに行くためには彼の協力が不可欠なようである。
そして自信満々の少年を前にその場にいた全員が言葉を失ったのであった。


「まぁ~大舟に乗ったつもりでオイラに任せな!きっちりグリーンアイランドまで連れて行ってやるよ!!」


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