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獣王国ビステリア
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「おい!いったいどういうことだ!!」
「落ち着け、ドルーマン。陛下の前だぞ」
「これが落ち着いていられるか」
「少し黙れ。アーサーも言ったが、陛下の前で醜態を晒すな」
「グッ…ギュスターヴ…貴様…」
「まぁまぁ、みんな落ち着け。ここで我々が取り乱しても仕方がないぞ」
「しかし陛下、これは一大事ですぞ。最悪の場合、獣王国ビステリアとの戦争にもなりかねない事態です」
ガルディア王国首都メルサ ───── 王宮内会議室 。
そこに集まったのは、国王レオンハルト・聖騎士長アーサー・筆頭魔法師ギュスターヴ・大臣ドルーマンの四名。
今後の方針を決めるべく各方面の主要な人物が国王によって集められたのだった。
そして、今回急遽この会議が開かれた理由は先程ドルーマンが発した“一大事”にある。
先刻ガルディア王国の首都メルサと獣王国ビステリアを繋ぐ道中にて、獣人の商人二十名にからなる一団が襲われたのだ。
それだけでも大事であるにも関わらず、ガルディア王国を震撼させたのはその一団を襲撃したのがヒト族であると報告されたからである。
しかも襲撃者たちがガルディア王国の紋章が刻まれた胸当てを装備していたというのだ。
そして、言うまでもなくこれはただ事ではない ──────── 。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ガルディア王国にはその国内において治外法権が認められている種族が三つ存在する。
※治外法権
ガルディア王国の領土内にあってその法律及びルールに縛られない独自の統治が許された特権。
まず首都メルサから見て東方に位置する森に住まうエルフ族。
次に北方にある大山脈の奥に王国を築く獣人族。
そして最後に南方にある広大な大森林を守護し、ガルディア王国と最南端の領地を収める魔族の間に超強力な結界で壁を作り続けている精霊族。
しかし、この三種族において獣人族だけが他の二種族と状況が大きく異なる。
エルフ族と精霊族がヒト族とほとんど直接的な関係を行なっていないのに対して、獣人族だけは積極的な国交を行なっていた。
そんな中で起きた今回の事件。
先程のドルーマンの言葉通り事と次第によっては両国の戦争にまで発展しかねないほどの大問題なのである。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それで、実際のところどうなんだ?アーサー」
「はい。目撃者の証言によりますと七~八名の武装した者たちが商人の一団を襲ったとのことです。そして、その者たちが装備していた胸当てに我らがガルディアの紋章が刻まれていたと報告が入っております」
「これは困りましたね。その様相ですとガルディアの兵士ということになりますし、もちろんその情報はビステリアの方にも届いていることでしょう」
実際のところ真相は分からない。
しかし、今はそういう話ではない。
獣人族が襲われ、目撃者もおり、その上で襲撃者はヒト族、さらにガルディア王国の紋章が刻まれた物を装備していた。
実際に事件が起き、人的証拠に供述証拠まで揃った上で知らぬ存ぜぬでは済まされない。
「陛下、一先ず一度ビステリアへ使者を送り、縦横にこの度の謝罪と真相究明に全力を尽くす旨を伝えるべきかと」
「うむ ───── そうだな。真相が分からぬとはいえヒト族が起こした事。私が行こう」
!? !? !?
「へ…陛下!まさか陛下自らビステリアへ行くおつもりですか?」
「ああ、今のこの状況下ではそうすることが最善であろう」
国王レオンハルトの発言に驚愕する三人。
使者を送るとはいったもののまさか国王が自ら行くと言い出すとは誰も予想していなかった。
そして、国を代表する王同士の会談ともなれば両国にとっても準備が必要となる。
その時、国王レオンハルトのことを誰よりもよく理解しているアーサーが口を開いた。
「陛下、恐れながら申し上げます」
「なんだ?アーサー」
「陛下自らビステリアへ赴き謝罪するというのは、獣王国に対して最大限の誠意と敬意を示すという意味では良いかと思われます。しかし、陛下が赴くとなれば両国においてそれ相応の準備が必要となります。ですので、まず先に使節団を向かわせ陛下と獣王の会談を申し込み、その間にこちらで準備を済ませておくというのが得策かと愚行致します」
「陛下、私も聖騎士長に同意します」
「わ…私も同意します」
こうしてアーサー・ギュスターヴ・ドルーマンの説得もあり、突発的な獣王国への訪問を考え直した国王レオンハルト。
まずは王宮からの使節団を派遣し、謝罪の意を示しつつ獣王に後日改めて国王との会談を申し込むという方向で話がまとまったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌日。
ガルディア王国王宮内 ───── 謁見の間。
「それでは宜しく頼む」
「ハッ!必ずや国王様のご期待に応えてみせます」
「しっかりやるんだぞ!ハルトマン」
「はい、父上。必ず獣王との会談の約束を取り付けて参ります」
今回の使節団の代表に任命されたのはハルトマンという男。
王宮内の文官たちのトップに立つドルーマン、その息子である。
ハルトマンは若くして父親を超える才覚の持ち主と云われ、王宮の者たちからも将来を嘱望されていた。
そうした背景もあり今回の重要な獣王国への使者を任されたのであった。
「フゥー・・・」
「大丈夫か?ドルーマン」
「ん?なんだアーサーか。心配していないと言えば嘘にはなるな。なにせ相手はあの獣王だ。一筋縄ではいかんだろう」
「まぁまぁ、ハルトマンは王国内でも指折りの才の持ち主だ。きっと上手くやるさ。俺たちは吉報を待てばいい」
「ああ…そうだな」
こうしてハルトマンを含む五名の使者に護衛の騎士三十名を合わせた総勢三十五名の使節団が北の大山脈にある獣王国ビステリアへと出発したのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
五日後。
獣王国ビステリア ───── 玉座の間。
「獣王様、ご報告致します。ガルディア王国からの使節団が獣王様への謁見を求めてこちらに向かっております。数刻の後には到着致しますが、如何されますか?」
「あん?ガルディアの使節団?国王レオンハルトでも直々に来たのか?もし、クソみてぇ~な奴を使いで寄越していたらブッ殺してやるからな」
「落ち着け、ドルーマン。陛下の前だぞ」
「これが落ち着いていられるか」
「少し黙れ。アーサーも言ったが、陛下の前で醜態を晒すな」
「グッ…ギュスターヴ…貴様…」
「まぁまぁ、みんな落ち着け。ここで我々が取り乱しても仕方がないぞ」
「しかし陛下、これは一大事ですぞ。最悪の場合、獣王国ビステリアとの戦争にもなりかねない事態です」
ガルディア王国首都メルサ ───── 王宮内会議室 。
そこに集まったのは、国王レオンハルト・聖騎士長アーサー・筆頭魔法師ギュスターヴ・大臣ドルーマンの四名。
今後の方針を決めるべく各方面の主要な人物が国王によって集められたのだった。
そして、今回急遽この会議が開かれた理由は先程ドルーマンが発した“一大事”にある。
先刻ガルディア王国の首都メルサと獣王国ビステリアを繋ぐ道中にて、獣人の商人二十名にからなる一団が襲われたのだ。
それだけでも大事であるにも関わらず、ガルディア王国を震撼させたのはその一団を襲撃したのがヒト族であると報告されたからである。
しかも襲撃者たちがガルディア王国の紋章が刻まれた胸当てを装備していたというのだ。
そして、言うまでもなくこれはただ事ではない ──────── 。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ガルディア王国にはその国内において治外法権が認められている種族が三つ存在する。
※治外法権
ガルディア王国の領土内にあってその法律及びルールに縛られない独自の統治が許された特権。
まず首都メルサから見て東方に位置する森に住まうエルフ族。
次に北方にある大山脈の奥に王国を築く獣人族。
そして最後に南方にある広大な大森林を守護し、ガルディア王国と最南端の領地を収める魔族の間に超強力な結界で壁を作り続けている精霊族。
しかし、この三種族において獣人族だけが他の二種族と状況が大きく異なる。
エルフ族と精霊族がヒト族とほとんど直接的な関係を行なっていないのに対して、獣人族だけは積極的な国交を行なっていた。
そんな中で起きた今回の事件。
先程のドルーマンの言葉通り事と次第によっては両国の戦争にまで発展しかねないほどの大問題なのである。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それで、実際のところどうなんだ?アーサー」
「はい。目撃者の証言によりますと七~八名の武装した者たちが商人の一団を襲ったとのことです。そして、その者たちが装備していた胸当てに我らがガルディアの紋章が刻まれていたと報告が入っております」
「これは困りましたね。その様相ですとガルディアの兵士ということになりますし、もちろんその情報はビステリアの方にも届いていることでしょう」
実際のところ真相は分からない。
しかし、今はそういう話ではない。
獣人族が襲われ、目撃者もおり、その上で襲撃者はヒト族、さらにガルディア王国の紋章が刻まれた物を装備していた。
実際に事件が起き、人的証拠に供述証拠まで揃った上で知らぬ存ぜぬでは済まされない。
「陛下、一先ず一度ビステリアへ使者を送り、縦横にこの度の謝罪と真相究明に全力を尽くす旨を伝えるべきかと」
「うむ ───── そうだな。真相が分からぬとはいえヒト族が起こした事。私が行こう」
!? !? !?
「へ…陛下!まさか陛下自らビステリアへ行くおつもりですか?」
「ああ、今のこの状況下ではそうすることが最善であろう」
国王レオンハルトの発言に驚愕する三人。
使者を送るとはいったもののまさか国王が自ら行くと言い出すとは誰も予想していなかった。
そして、国を代表する王同士の会談ともなれば両国にとっても準備が必要となる。
その時、国王レオンハルトのことを誰よりもよく理解しているアーサーが口を開いた。
「陛下、恐れながら申し上げます」
「なんだ?アーサー」
「陛下自らビステリアへ赴き謝罪するというのは、獣王国に対して最大限の誠意と敬意を示すという意味では良いかと思われます。しかし、陛下が赴くとなれば両国においてそれ相応の準備が必要となります。ですので、まず先に使節団を向かわせ陛下と獣王の会談を申し込み、その間にこちらで準備を済ませておくというのが得策かと愚行致します」
「陛下、私も聖騎士長に同意します」
「わ…私も同意します」
こうしてアーサー・ギュスターヴ・ドルーマンの説得もあり、突発的な獣王国への訪問を考え直した国王レオンハルト。
まずは王宮からの使節団を派遣し、謝罪の意を示しつつ獣王に後日改めて国王との会談を申し込むという方向で話がまとまったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌日。
ガルディア王国王宮内 ───── 謁見の間。
「それでは宜しく頼む」
「ハッ!必ずや国王様のご期待に応えてみせます」
「しっかりやるんだぞ!ハルトマン」
「はい、父上。必ず獣王との会談の約束を取り付けて参ります」
今回の使節団の代表に任命されたのはハルトマンという男。
王宮内の文官たちのトップに立つドルーマン、その息子である。
ハルトマンは若くして父親を超える才覚の持ち主と云われ、王宮の者たちからも将来を嘱望されていた。
そうした背景もあり今回の重要な獣王国への使者を任されたのであった。
「フゥー・・・」
「大丈夫か?ドルーマン」
「ん?なんだアーサーか。心配していないと言えば嘘にはなるな。なにせ相手はあの獣王だ。一筋縄ではいかんだろう」
「まぁまぁ、ハルトマンは王国内でも指折りの才の持ち主だ。きっと上手くやるさ。俺たちは吉報を待てばいい」
「ああ…そうだな」
こうしてハルトマンを含む五名の使者に護衛の騎士三十名を合わせた総勢三十五名の使節団が北の大山脈にある獣王国ビステリアへと出発したのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
五日後。
獣王国ビステリア ───── 玉座の間。
「獣王様、ご報告致します。ガルディア王国からの使節団が獣王様への謁見を求めてこちらに向かっております。数刻の後には到着致しますが、如何されますか?」
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