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第三部
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赤い。空が赤い。小屋の中のはずなのに空が見える。ぼくは怖くなってすぐに出ようと思った。でも振り向くと入ったはずのドアはなかった。ぼくは外にいるみたいだった。ぼくはひとりぼっちで木々に囲まれている。周りには誰もいない。
誰かがぼくを見てる気がする。周りの木々には果実の代わりに目玉がついている。ぼくは息が止まりそうになる。木々は蠢いてぼくを監視する。
頑張って走り出す。逃げなきゃ。
逃げても逃げても目玉からは逃れられない。どこかで必ず誰かがぼくを見ている。ぼくは目玉が恨めしくなった。木々の中にそそり立つひときわ大きな一本、その幹には大きな虚(うろ)のように目玉がひとつ付いていた。ぼくは地面から枝を拾う。枝は尖ってささくれ立っている。
ぼくはゆっくりと大きな目玉に近づく。目玉はじぃっとぼくを見るだけだった。ぼくは持っていた枝を振り上げて、思い切り目玉の真ん中にぶすりと突き立てた。目玉は悲鳴を上げて血を流し始めた。いい気味だ。
血は止まらない。足元にびたびたと目玉の血が溜まり続ける。血はあっという間にぼくを膝まで飲み込んだ。逃げなきゃ。でも血が粘っこくぼくの足を摑む。ぼくは血に囚えられてしまった。
周りの木の枝が伸びてぼくの腕を摑んだ。
「離してよ!」
木々は言うことを聞かず、ぼくの腕を思い切り引っ張って動けなくした。
「ぼくは悪くなんかない! 君たちがぼくを見るからいけないんだ!」
枝はぼくを摑んだままだ。遠くに人影が見えた。血の海をゆっくりと歩いてくる。彼は剣を持っていた。ぼくは直感的に察する。彼は処刑人だ。ぼくを罰しに来たのだ。
背広を着た処刑人の顔はよく見えなかった。彼の首には横に切られたような傷があり、そこから血を流し続けていた。
「罪人よ」
彼が声を出すたびに喉から流れる血がぶくぶくと泡立つ。
「貴様は大罪を犯した。よって貴様を罰しなくてはならない」
彼は剣を構える。ぼくは目を閉じる。ぼくはここで死ぬのだ。しかし処刑人はぼくを斬らなかった。おそるおそる目を開ける。
彼は喉から血を流しながらぼくに話しかける。
「罪人よ、貴様に選択肢をやろう」
彼は剣で遠くを示した。そこにはとてつもなく高い木があって、その先端は十字架になっていた。ぼくは気づく、十字架の先端には誰かが磔になっている。
「助かりたいなら貴様の代わりにあれを殺すこともできる」
「あそこには誰がいるんだ」
処刑人は答えない。ぼくは目を凝らして磔にされた人を見る。だめだ、遠すぎて見えない。助かりたいならあの人間が死ななければならない、あの死なない誰かを助けるためにはぼくが死ななければならない。
「…あれを殺してくれ」
どうせ知らない誰かだ、もしかしたらあれはただの人形かもしれない。
「いいだろう」
処刑人は剣を思い切り地面に突き立てた。そうすると十字架の先端にいた人の頭が弾けた。頭の破片はぽろぽろと落下し、血の海にぽちゃぽちゃという音を立てた。
処刑人は満足そうに地面から剣を抜いた。
「この罪人を解放しろ!」
背広の男はそう言うと急に倒れ、血の海へと溶けていった。しばらくすると木々はぼくの腕を離し、血の海はだんだんと引いていった。ぼくは再び自由に動けるようになった。ぼくは目の前を見て絶望する。大きな目玉は何事もなかったかのようにそこにあったのだ。
ぼくは目玉から目を逸らして森に逃げ込んだ。ただひたすらに走る。すこしでもあの目玉から遠ざかりたかった。
ここはどこなんだろう、お父さんとお母さんのもとに帰りたい。
「ああっ」
ぼくは何かにつまづいた。でも転ぶだけじゃなかった。つまづいた先にあったのは落とし穴だった。ぼくは穴に飲み込まれて落ちていく。穴はかなり深く、底が見えなかった。
「うぐっ!」
一秒ぐらい落ちたあとぼくは底に叩きつけられた。とりあえず生きている。そして…骨も折れていない。ぼくは穴の底に手をついて起き上がろうとする。しかし底の感触は不気味だった。生温かくてぬめぬめとしている。生きてるみたいだ。そして底だけでなく壁も同じようなピンク色の”粘膜”でできていた。
壁や底は蠢き、ぬるぬるとした粘液を出し続けている。まるで誰かの口の中にいるみたいだ。ぼくは食べられてしまうのだろうか? ぼくは底に手をついて移動する。
「…誰もいないの?」
父さんや母さんはどこだろう、会いたい。ぼくは泣きそうになってしまう。
どこからか物音がした気がする、誰かいるのかな。音のした方を向いてみる。そこには知らないお姉さんが座ってた。ぼくはあいさつする。父さんにそう教えられたから。
「…こんにちは」
赤い髪の毛のお姉さんはぼくに気がついたようだけど、何も話さなかった。
「…父さんと母さんがどこにいるか知らない?」
お姉さんは首を横に振る。お姉さんは学校の制服を着ていた。
「お姉さんはここで何してるの?」
「…落としものを探している」
「そうなんだ…」
ぼくはぬめぬめした床にへたり込む。
「ここはどこなの? さっきまでお花畑にいたのに」
「わからない」
お姉さんにもわからないんじゃ、ぼくにもわからない。ぼくはお姉さんの手を見る。
「あれ、お姉さんの左手、指が六本あるよ」
「これは偽物の手」
偽物の手、お姉さんは大きな怪我をしちゃったのかな。
「この落とし穴から出る方法ってあるのかな?」
お姉さんは首を横に振る。
「どうしよう…」
壁を見るとだんだん迫ってくるようにも見えた。ここにいたら粘膜に押しつぶされそうだ。
「…ん?」
ぼくは振り向く。
「お母さん…?」
母さんの声が聞こえた気がした。さっきまでなかった白いドアがそこにある。声はドアの向こうから聞こえる。
「お母さんの声だ」
ぼくは白いドアに駆け寄る。このドアの向こうにお母さんがいる!
「じゃあね、お姉さん。落とし物見つかるといいね」
「…ありがとう」
赤い髪の毛のお姉さんは六本指の手を振ってぼくを見送ってくれた。
ぼくはお姉さんもこのドアから出ないのかは聞かなかった。だってお姉さんの脚はそのままピンク色の粘膜に繋がってたから。
誰かがぼくを見てる気がする。周りの木々には果実の代わりに目玉がついている。ぼくは息が止まりそうになる。木々は蠢いてぼくを監視する。
頑張って走り出す。逃げなきゃ。
逃げても逃げても目玉からは逃れられない。どこかで必ず誰かがぼくを見ている。ぼくは目玉が恨めしくなった。木々の中にそそり立つひときわ大きな一本、その幹には大きな虚(うろ)のように目玉がひとつ付いていた。ぼくは地面から枝を拾う。枝は尖ってささくれ立っている。
ぼくはゆっくりと大きな目玉に近づく。目玉はじぃっとぼくを見るだけだった。ぼくは持っていた枝を振り上げて、思い切り目玉の真ん中にぶすりと突き立てた。目玉は悲鳴を上げて血を流し始めた。いい気味だ。
血は止まらない。足元にびたびたと目玉の血が溜まり続ける。血はあっという間にぼくを膝まで飲み込んだ。逃げなきゃ。でも血が粘っこくぼくの足を摑む。ぼくは血に囚えられてしまった。
周りの木の枝が伸びてぼくの腕を摑んだ。
「離してよ!」
木々は言うことを聞かず、ぼくの腕を思い切り引っ張って動けなくした。
「ぼくは悪くなんかない! 君たちがぼくを見るからいけないんだ!」
枝はぼくを摑んだままだ。遠くに人影が見えた。血の海をゆっくりと歩いてくる。彼は剣を持っていた。ぼくは直感的に察する。彼は処刑人だ。ぼくを罰しに来たのだ。
背広を着た処刑人の顔はよく見えなかった。彼の首には横に切られたような傷があり、そこから血を流し続けていた。
「罪人よ」
彼が声を出すたびに喉から流れる血がぶくぶくと泡立つ。
「貴様は大罪を犯した。よって貴様を罰しなくてはならない」
彼は剣を構える。ぼくは目を閉じる。ぼくはここで死ぬのだ。しかし処刑人はぼくを斬らなかった。おそるおそる目を開ける。
彼は喉から血を流しながらぼくに話しかける。
「罪人よ、貴様に選択肢をやろう」
彼は剣で遠くを示した。そこにはとてつもなく高い木があって、その先端は十字架になっていた。ぼくは気づく、十字架の先端には誰かが磔になっている。
「助かりたいなら貴様の代わりにあれを殺すこともできる」
「あそこには誰がいるんだ」
処刑人は答えない。ぼくは目を凝らして磔にされた人を見る。だめだ、遠すぎて見えない。助かりたいならあの人間が死ななければならない、あの死なない誰かを助けるためにはぼくが死ななければならない。
「…あれを殺してくれ」
どうせ知らない誰かだ、もしかしたらあれはただの人形かもしれない。
「いいだろう」
処刑人は剣を思い切り地面に突き立てた。そうすると十字架の先端にいた人の頭が弾けた。頭の破片はぽろぽろと落下し、血の海にぽちゃぽちゃという音を立てた。
処刑人は満足そうに地面から剣を抜いた。
「この罪人を解放しろ!」
背広の男はそう言うと急に倒れ、血の海へと溶けていった。しばらくすると木々はぼくの腕を離し、血の海はだんだんと引いていった。ぼくは再び自由に動けるようになった。ぼくは目の前を見て絶望する。大きな目玉は何事もなかったかのようにそこにあったのだ。
ぼくは目玉から目を逸らして森に逃げ込んだ。ただひたすらに走る。すこしでもあの目玉から遠ざかりたかった。
ここはどこなんだろう、お父さんとお母さんのもとに帰りたい。
「ああっ」
ぼくは何かにつまづいた。でも転ぶだけじゃなかった。つまづいた先にあったのは落とし穴だった。ぼくは穴に飲み込まれて落ちていく。穴はかなり深く、底が見えなかった。
「うぐっ!」
一秒ぐらい落ちたあとぼくは底に叩きつけられた。とりあえず生きている。そして…骨も折れていない。ぼくは穴の底に手をついて起き上がろうとする。しかし底の感触は不気味だった。生温かくてぬめぬめとしている。生きてるみたいだ。そして底だけでなく壁も同じようなピンク色の”粘膜”でできていた。
壁や底は蠢き、ぬるぬるとした粘液を出し続けている。まるで誰かの口の中にいるみたいだ。ぼくは食べられてしまうのだろうか? ぼくは底に手をついて移動する。
「…誰もいないの?」
父さんや母さんはどこだろう、会いたい。ぼくは泣きそうになってしまう。
どこからか物音がした気がする、誰かいるのかな。音のした方を向いてみる。そこには知らないお姉さんが座ってた。ぼくはあいさつする。父さんにそう教えられたから。
「…こんにちは」
赤い髪の毛のお姉さんはぼくに気がついたようだけど、何も話さなかった。
「…父さんと母さんがどこにいるか知らない?」
お姉さんは首を横に振る。お姉さんは学校の制服を着ていた。
「お姉さんはここで何してるの?」
「…落としものを探している」
「そうなんだ…」
ぼくはぬめぬめした床にへたり込む。
「ここはどこなの? さっきまでお花畑にいたのに」
「わからない」
お姉さんにもわからないんじゃ、ぼくにもわからない。ぼくはお姉さんの手を見る。
「あれ、お姉さんの左手、指が六本あるよ」
「これは偽物の手」
偽物の手、お姉さんは大きな怪我をしちゃったのかな。
「この落とし穴から出る方法ってあるのかな?」
お姉さんは首を横に振る。
「どうしよう…」
壁を見るとだんだん迫ってくるようにも見えた。ここにいたら粘膜に押しつぶされそうだ。
「…ん?」
ぼくは振り向く。
「お母さん…?」
母さんの声が聞こえた気がした。さっきまでなかった白いドアがそこにある。声はドアの向こうから聞こえる。
「お母さんの声だ」
ぼくは白いドアに駆け寄る。このドアの向こうにお母さんがいる!
「じゃあね、お姉さん。落とし物見つかるといいね」
「…ありがとう」
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