【青天白雪、紅の君。2072】 〜2072年夏、僕は無口な少女と出会った〜

凜 Oケイ

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第三部

@63 落とし物

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「あぁっ!」
 全身が痛い。何も見えない。僕は仰向けになっているようだ。何とか起き上がろうとしてみるが、その瞬間にとてつもない痛みが襲った。僕はゆっくりと目を開ける。かすんだ視界には照明と…赤い袋が見えた。
「こ、ここは、ど、こだ?」
 声が思うように出ない。口の中がひどく乾いている。そしてどこかでけたましくアラーム音が鳴っている。しばらくしていると誰かが駆け寄ってきた。白い服のその人───あるいはその人たちは僕の腕に触ったり慌ただしそうだった。しばらくして僕は目を閉じてしまった。数分、もしくは数時間後、ようやく僕は再び目を開けた。今度は意識もしっかりしている。
 赤い点滴袋が僕の左腕に繋がれており、更に僕は人工呼吸器もつけられていた。
「…病院か」
 設備を見るにかなりひどい病気か怪我なんだろう。最新の記憶を思い出そうとする。僕は…ユヅハと…そうだ、中国に来たんだった。でも何のために? 誰かに会いに…
「邏陽!」
 僕はバッと起き上がる。そうしたらズキンと頭がひどく痛んだ。頭を押さえて気づく、頭には包帯が巻かれているようだ。
「邏陽に会いに行かなきゃ…」
 僕はどうにか手足を動かそうとする。そうしていると病室の扉が勢い良く開け放たれた。看護師が僕に駆け寄り、僕をベッドに寝かせるように押さえた。
「やめてくれ、僕は行かなきゃいけないんだ」
 看護師は中国語で僕に必死に何かを説明しようとする。当たり前ながら僕は何一つ理解することができない。看護師は困り果てた様子で腰に付けた無線機で何かの連絡をした。僕と看護師が攻防していると今度は医師らしき太った男がやってきた。
「まだ起き上がらないで、状態が安定していないのだから!」
 流暢な英語だった。
「点滴を外してくれ! 今すぐにでもここを出る!」
「それはいけない、とにかく落ち着いて」
 声を荒げたせいか僕は咳き込む。咳をするたびに身体中に痛みが走る。
「うぅ…あぁ…」
「言わんこっちゃない…いま鎮痛剤を打つから」
 医師は僕の腕に注射をした。しばらくすると痛みが大分和らぎ、落ち着いて話せるようになった。
「…なぜ僕は病院にいるんだ」
「あなたは銃で撃たれたんだ、それも何箇所も」
「…思い出してきたぞ」
 僕は邏陽と合流したが…脱出する前に銃撃を受けた…。
「もう一人運ばれてきたはずだ。彼に会わせてくれ」
 邏陽、彼も怪我をしているはずだ。
「…今はできない、繊細な治療中だから」
「ひと目見るだけでもいけないのか?」
 医師は力なく頷いた。彼の怪我はそれほどひどいのだろうか?
「それと仁山コズさん、あなたは環華人民銀行の武装警備による特別参考人に指定されています。状態が回復したあとに彼らから事情聴取が待っています」
「…わかった」
 僕はこの件に関しては医師に質問をしなかった。この素性の知れない医師に対する質問によって自分の状況が不利になるのを避けたかったからだ。僕と邏陽は逮捕されたと考えていいだろう。ユヅハはどうなっているのだろうか。彼女は警察に保護されて…48時間の拘束を受けている。
「今は何時だ? いや、何日の何時だ?」
 僕は医師に尋ねる。医師はゆっくりと腕環を確認した。
「えっと…一月十日の、午後三時一四分だ。あなたがこの病院に運ばれてきたのは八日の午前九時ごろだから…あなたは二日半寝ていたことになる」
 ユヅハが警察に拘束されたのは八日の午前三時頃、既にユヅハは警察から解放されているはずだ。彼女は僕の状況を知らされているのだろうか。
「連絡したい人がいるんだが…」
「あぁ、萩原ユヅハさんか?」
 医師はすでに彼女のことを知っていた。
「そんな私を疑うような顔をするな。彼女が何度も面会を希望しに来てたんだ。しかしあなたの状態は良くなかったし、重要参考人でもあった。それで面会を断っていたんだ」
 医師は息を吸って言葉を繋ぐ。
「環華人民銀行武装警備との面会が終わり次第、彼女に連絡する。安心してくれ」
 僕はそれが聞けて満足だった。
「さて、そろそろあなたの治療について話してもいいかね?」
 僕は頷く。そうだ、僕は銃で撃たれたのだった。僕は身体の痛む場所に手を当てようとした。しかしあることに気づく、僕の左手には指が三本しかなかった。
「…あなたは計六発の弾丸を受けた。まずは左手と左肩に一発ずつ。肩に通っている神経や骨に損傷はなかったが…あなたは薬指と小指を失った。損傷した組織を整理し、人工皮膚で傷口を覆う手術を行った。そして右下腿に二発、これは腓骨を破断させ、脛骨に亀裂を生じさせた。手術を行い、生体素材で骨を固定した。また小腸に一発、これは内容物の漏出もほとんどなかったため、感染対策を施して傷口を縫い閉じた」
 医師は一息つく。
「…そして最後に頭に一発」
 僕は自分の頭に触れる。耳の上のあたりに鈍い痛みを感じる。
「これについては本当に幸運だ。弾丸が威力の低い拳銃弾であったこと、弾道が頭蓋を掠めるようなものだったこと、そしてすぐに治療を受けられたこと。おかげで頭蓋に亀裂が入ったものの、脳へのダメージはほとんどない」
 僕は自分の幸運に感謝するよりもまずゾッとした。あと数センチでも弾道が低かったら僕はここにいない。
「あなたは衝撃による脳震盪と大量出血で気絶した。手術は十五時間に及び…あなたは一リットルの人工血液による輸血を受けた───。何か質問は?」
 僕は自分のひどすぎる怪我に関する解説に圧倒されていた。僕は特に質問も思いつかず、ただ自分の三本指の左手を眺めた。不思議と喪失感はなかった。
「…指は生体培養で生やすこともできる」
 医師は僕に”そう落ち込むな”と言いたいようだった。
「すぐにでも環華人民銀行との面会を行いたい」
 体調は万全とは言い難かったが、僕にはすぐにでもユヅハと会いたい気持ちの方が強かった。
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