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First Chapter
見合い(潜入調査・開始)
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ギルガンドの見合いの相手は、妾腹の生まれだが当主サロフが正式にブラデガルディースの戸籍に入れた、次女のサティジャである。
帝国第一高等学院では『学院一の美少女』として有名であった。
……サロフの後ろに控えている、とても愛らしくて可憐な美少女がギルガンドを清楚な佇まいで出迎えた。サロフがほくほく顔で挨拶する。
「ようこそ当家にお越し下さいました。この娘がサティジャ・ブラデガルディースです。本日がどうか良き日になりますよう、よろしくお願い申し上げます」
――しかし、ギルガンドもよく知っている。
こうやって愛想良く娘を紹介するサロフは、もはや愛妾ヌルベカの傀儡と化している事を。
そして、その娘であるこの美少女こそが帝国第一高等学院に『改悪済みの神々の血雫』をはびこらせた――極めつけの悪女だと言う事を。
「特務武官ギルガンド・アニグトラーンだ。よろしく頼む」
「帝国十三神将の中でも双璧を成す強者だと伺っていましたから、さぞや恐ろしい武人だと思っていましたのに、何て素敵な殿方であらせられたのでしょうか。
帝国城の後宮には美しい女官が数多いるとは耳にしておりましたけれども、貴方様ほどの殿方を放っておくなんて……」
ほほほほ、と軽やかに少女は笑う。絢爛豪華に調えられた見合いのための一室は、甘く優美な香がたきしめられ、窓の外からはお抱えの楽人達が奏でている雅な調べが聞こえてくる。少し開けられた窓からは庭園が見えて、今は青色の花が咲いていた。
「我が一族には恐ろしい呪いがかかっていたので、私に近付く女官は一人もいなかった」
ギルガンドはすぐにでも軍刀を抜いて突きつけたい衝動を上手に抑えて、淡々と応対する。
「まあ!どのような呪いだったのでしょうか」
「一族の血を受け継ぐ者が次々と呪われては死ぬ呪いだ」
「無事に……解けたのですか?」
「だが、私が最後の一人となった」
「まあ、まあ……!何てお労しい……!」
よよよとサティジャは目元を抑えて涙をこぼす。
並の男ならばその可憐な姿に、思わず椅子から腰を浮かせ、大丈夫ですかと問い、逆に慰めたくなる所だったが――ギルガンドはなよなよと非力さを装って涙をこぼす女が蹴飛ばしたいくらいに大嫌いであった。
泣けば問題が解決すると思っているのなら大間違いだ、泣いて感情を消化するためならともかく、問題解決は他人任せにしてただ泣いているのは時間の無駄でしかない、と。
一族があれほどに苦しみ血涙をこぼしても、結局は己一人を残して絶えてしまった事を経験しているギルガンドからすれば……いつだって太々しい態度の『裂縫』や己を徹底的に罵倒してきた、だらしないあの女の方が、余程好ましいのである。
「呪いが解けたため、私は貴族の責務として一族の血を絶やす事なく増やさねばと考えている」
「それで……わたくしに逢いにいらして下さったのですね」
その業腹をも知らずに――頬をほんのりと赤く染めて、サティジャは潤んだ目でギルガンドを見つめるのだった。
帝国第一高等学院では『学院一の美少女』として有名であった。
……サロフの後ろに控えている、とても愛らしくて可憐な美少女がギルガンドを清楚な佇まいで出迎えた。サロフがほくほく顔で挨拶する。
「ようこそ当家にお越し下さいました。この娘がサティジャ・ブラデガルディースです。本日がどうか良き日になりますよう、よろしくお願い申し上げます」
――しかし、ギルガンドもよく知っている。
こうやって愛想良く娘を紹介するサロフは、もはや愛妾ヌルベカの傀儡と化している事を。
そして、その娘であるこの美少女こそが帝国第一高等学院に『改悪済みの神々の血雫』をはびこらせた――極めつけの悪女だと言う事を。
「特務武官ギルガンド・アニグトラーンだ。よろしく頼む」
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帝国城の後宮には美しい女官が数多いるとは耳にしておりましたけれども、貴方様ほどの殿方を放っておくなんて……」
ほほほほ、と軽やかに少女は笑う。絢爛豪華に調えられた見合いのための一室は、甘く優美な香がたきしめられ、窓の外からはお抱えの楽人達が奏でている雅な調べが聞こえてくる。少し開けられた窓からは庭園が見えて、今は青色の花が咲いていた。
「我が一族には恐ろしい呪いがかかっていたので、私に近付く女官は一人もいなかった」
ギルガンドはすぐにでも軍刀を抜いて突きつけたい衝動を上手に抑えて、淡々と応対する。
「まあ!どのような呪いだったのでしょうか」
「一族の血を受け継ぐ者が次々と呪われては死ぬ呪いだ」
「無事に……解けたのですか?」
「だが、私が最後の一人となった」
「まあ、まあ……!何てお労しい……!」
よよよとサティジャは目元を抑えて涙をこぼす。
並の男ならばその可憐な姿に、思わず椅子から腰を浮かせ、大丈夫ですかと問い、逆に慰めたくなる所だったが――ギルガンドはなよなよと非力さを装って涙をこぼす女が蹴飛ばしたいくらいに大嫌いであった。
泣けば問題が解決すると思っているのなら大間違いだ、泣いて感情を消化するためならともかく、問題解決は他人任せにしてただ泣いているのは時間の無駄でしかない、と。
一族があれほどに苦しみ血涙をこぼしても、結局は己一人を残して絶えてしまった事を経験しているギルガンドからすれば……いつだって太々しい態度の『裂縫』や己を徹底的に罵倒してきた、だらしないあの女の方が、余程好ましいのである。
「呪いが解けたため、私は貴族の責務として一族の血を絶やす事なく増やさねばと考えている」
「それで……わたくしに逢いにいらして下さったのですね」
その業腹をも知らずに――頬をほんのりと赤く染めて、サティジャは潤んだ目でギルガンドを見つめるのだった。
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