【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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First Chapter

世はなべて事もなし⑤

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 興奮していた民衆は次の日に処刑される廃帝の娘にもありったけの石礫を投げてやろうと、朝早くから競うように拾い集めて、懐いっぱいに抱え込んで待っていたが――やってきた荷馬車を見た途端に、がっかりしてしまった。
まだ幼いと言う表現の方がしっくりくるような少女が、既に傷だらけの状態で、泣きはらした顔に恐怖と怯えを露わにして乗せられていたのだから。
あれほど帝都を脅かしたのだ、間違いなく恐ろしい悪女に違いないと思っていた民衆は、失望した様子を隠そうともせず、これならば昨日の廃帝にもっとぶつけてやれば良かった、いや石礫を他の者へ売っておけばよかった等々と様々に考えた。

 しかも……少女は自力では歩けず、抱えられて処刑場の首切り台の前に座らされる。
「うーっ、うう、ううう……」
泣きじゃくる少女の首が切り落とされた時には、民衆の中でも年長の者は『乱詛帝』や『赤斧帝』による惨い処刑の光景を思い出して、思わず目を背けたくらいだった。


 ……その翌日。
処刑人達は全ての後片付けを終えた後――皇太子の求めに応じて二人の亡骸を安置してあった地下室に足を踏み入れた。二人の埋葬と弔いをするために派遣されたエルフ族の高位神官数名が最後尾に続いていた。


 『両者とも皇族の血を引いている。せめて亡骸は聖奉十三神殿の皇族のための墓廟に葬り、礼を以てその魂を弔わねばなるまい。両者に恨みを抱く者に亡骸を盗まれ毀損される事の無きように計らえ』


 ――地下室は暗く、亡骸を腐らせないために特殊な処理を施されているため、凍えるようにひんやりとしていた。扉に頑丈な金属製の鍵が5つもかかっていたのを、処刑人達がそれぞれ持っている鍵で開けて中に入る。それから彼らは二つの亡骸が安置されている地下室の最深の部屋の灯りを付けた。

 「なっ!?」
「おい、どうし――うわあっ!?」
「これはどう言う事です!?」
彼らは仰天した。
廃帝の隣に静かに安置していたはずの、その娘の遺体だけが消え失せていたのである。
その代わりに、遺体を横たえてあった所には――ヒビが入った道化師の仮面が置かれていた。
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