【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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Second Chapter

財布の肥えたお大臣様

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 そのバズムにも家はある。それはもう、とても大きな屋敷を帝都の一等地に持っている。だが彼は滅多にここで寝起きした事が無い。帝都にいる時は、大体、遊郭で寝泊まりするからである。
代わりに屋敷の管理人や手入れをしている者はバズムの元部下達だった。戦場で大怪我を負って戦う事は出来なくなったが、体は動くのでバズムが丁度良いとばかりに押しつけたのである。
彼自身は、いつも大きな財布に金貨をこれでもかと詰め込んで、まるで凱旋のパレードのように『パラダイス・ロスト』に胸を張って赴くのだ。いつもだったら屋敷の元部下達も引き連れて行くのだが、今回はたまたま彼らが忙しくしていたのでバズムだけだった。
美人の娼婦を相手に一戦交えた後に、毎回のように身が空いている娼婦達を集めさせ、雨のように金貨をばらまいて大笑いする。この時は娼婦だけでなく、下働きの人間にも気前よく金貨をくれてやるので、彼は格別のご贔屓様であった。

 「何じゃい。……何があったんじゃ?」
その彼もすぐに『パラダイス・ロスト』だけでない、遊郭全域の異変に気付いた。悪い病が流行って人死が大勢出たように、雰囲気が何時になく暗いし客の数も少ないのだ。
「話せないんです、話すと駄目だから……!」
そう言って彼を相手するはずの娼婦は泣き出した。何かに酷く怯えているようだ。
色香を振りまいて愛嬌たっぷりにすり寄ってくるならともかく、怯えて泣く娼婦相手に彼はとても一戦交える気にはなれなくて、大楼主マダム・リルリを呼び出した。
「おいマダムよ、この遊郭で何があったんじゃい?」
「旦那様……それが、色々ありまして。でも、貧民街の『よろず屋アウルガ』のロウって男に解決を頼みました。それまでは旦那様もどうか……」
次の瞬間バズムは立ち上がって財布をマダム・リルリに放り投げ、自分は服を着出した。いや、服を着る時間も惜しかったのか、下履き一枚と履物を身に着けただけでマダム・リルリや娼婦が呼び止めるのも聞かず、外に飛び出していってしまった。


 「おい!おい!」と声をかけられた貧民街の住人達は仰天した。下履き一枚に履物だけの半裸の老爺が走ってきたからである。「『よろず屋アウルガ』とやらは何処にあるんじゃ!?」
「ああ、ロウさんに話があるのなら――」
「だから何処じゃ!」
と凄い剣幕で詰め寄られた彼らはビックリして言われるがままに住所を教えた。
「そうか!」
聞いた途端、また老爺は走って行った。
「ろ、ロウさんもあんなのの相手をしなきゃならんなんて……」
「よろず屋ってのも、大変だなあ」
「ありゃあ、年でボケてるんだろうぜ」
彼らはロウの苦労を予想して、気の毒にと噂し合った。
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