【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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Second Chapter

未練がましい男

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 シューヤドリックは風邪気味だと言う事で寝台の中にいたが、どうにか体を起こして、しばらく差し出された書をじっと眺めていた。
じっくりと眺めた後で、
「これは……さぞや名のある武人の残した書か」
と唸るように言った。
「字の太さも見事だが全体に勢いがあり、だがその勢いは一時も放埒ではない。品格に相応しい強さと気骨があり、青竹が青空へ真っ直ぐに伸びているような、或いは清流が大滝となって落ちているような清涼感さえ余韻に残す……。
だが……懐かしい、ような……?何処かで見たような……はて、何処だったか……?」
「アウルガじゃよ」
シューヤドリックは思わず目の前の老将軍と伏している盲目の男を交互に見つめた。
そうか、そうかと何度も得心してから、
「道理で、叔父上。彼の書も、彼が貶められた時に大半が焼かれたのでしたな。
……其方、顔を上げて名乗れ」
盲目の男はゆっくりと顔を上げた。
「手前はアウルガが一子ロウ・ゼーザと申しまする」
『とっても可愛くってブリリアントでお利口さんで有能でパーフェクトに最高な、精霊獣パーシーバーちゃんでーすっ!でも……』
あの男の息子だ、とシューヤドリックは簡単に懐かしい男の顔を思い出す事が出来た。この盲目の男は、戦場で何度も己を助けてくれた鬼武者と同じ雰囲気だったのだ。
「ふむ、この書を売りつけて小銭を貰おうと言う面構えでは無さそうだな」
「人払いをどうか……。特に、そこに隠れていらっしゃる恐ろしい御方は何方でございましょう」
『ええ、今にも襲ってきそうな怖い顔をしてこっちを虎視眈々と伺っているんだもの、冗談じゃないわよーっ!』
「……ヴェド!」
シューヤドリックが柱の陰を睨むと、ヴェドが居たたまれなさそうに出てきた。
「何じゃ、誰じゃと思ったら『峻霜』か。仕事はどうしたんじゃ、この馬鹿者!」
バズムが一喝すると、ヴェドは黙って首を左右に振った。
『あら、イケメンね!と言ってもパーシーバーちゃんの大事なロウほどじゃないわねーっ!いいえ、このパーシーバーちゃんにとって世界で一番イケメンなのはロウなんだからねっ!』
「ヴェド、頼む。私の好きなようにやらせてくれ」
困った顔をしてシューヤドリックが頼む。
「……」
ようやくヴェドは黙って去って行った。
『あらら……?片思いか失恋したみたいな様子だけれども、えっ……まさか禁断の愛なのかしら!?禁断の愛よ、きゃああああああああああああああああああああああーっ!パーシーバーちゃんは初恋も片思いも純愛も禁断の愛も大・大・大好きよーっ!でもロウは違うのよねー、色とりどりの花から花へ飛び移るのが大好きな、とっても浮気で罪な男なのだもの……』
その後ろ姿が酷く未練がましい様子だったので、二人の仲を知るバズムも奇妙に思った。
「どうしたんじゃ、何ぞあったのか?」
「ご覧の通り、私が最近風邪気味なのと、些細な行き違いがありまして。それより……」
そのままシューヤドリックはロウに話すように促すと、

 「実は、『精霊獣』を従える可能性のある者を在野にて見つけたようなのです」
と、ロウはとても信じられない事を言い出した。
「「!!!?」」
「ですが、その者は長年虐げられておりまして、命からがら逃げ出したそうなのです。故に『精霊獣』を正しく従える事も出来ておらず、それ故に彼の者の『精霊獣』は半ば暴走しているも同じ有様にて……」
『暴走なんて言いたくないけれども……「トドラー」が、せめてパーシーバーちゃん達とお話しできたら良かったのに……』
「その者の出自は!?何処の家だ!?」
血相を変えて訊ねるシューヤドリックに、ロウは首を左右に振った。
「帝都にてほぼ監禁されていた所を命からがらに逃げたようで、本人にも分からぬようです」
「帝都で皇統の者を虐げるのみならず、監禁していたじゃと……!?」バズムは冷静にロウに訊ねる。「監禁していた連中の、何ぞ手がかりは無いのか」
「夜中にどうにか逃げたそうで、今は何も……」
険しい目つきをして黙り込んだバズムの前で、同じくらい顔をしかめたシューヤドリックが呟いた。
「いや、一つだけ……あるやも知れない」
『何ですってーっ!?それは一体全体何がどうしてどうなった「一つ」なのよーっ!?早く説明しなさーいっ!』
「一つだけ?」バズムも首をかしげる。「どうしてシューヤドリックが知っているんじゃ」
「実は、前々から……密かにこの噂は流れていたのだ」
「どのようなお噂で?」
そう訊ねつつもロウの内心では『まさか俺についてじゃあるまいな』と一瞬だけ不安になった。
そのロウの手を咄嗟にパーシーバーが握って励ました時に、シューヤドリックは小声で二人に言ったのだ。
「ピシュトーナ家がトウルドリックの出生を偽っている……との噂だ」
「「『!!!?』」」

 事実ならばピシュトーナ家の血縁者全員を厳しく処罰せねばならぬ程の大醜聞が、皇族の口から飛び出てきた。
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