【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

2626

文字の大きさ
192 / 297
Second Chapter

アンサーはイエスかノーで

しおりを挟む
 帝国城に呼び出されたピシュトーナ家当主ムガウルは、一子ノルゼドを連れて参上した。
「父御よ、少し宜しいでしょうか?」
「我が息子よ、お前の好きなようにしなさい」
ノルゼドが折角なので帝国城の庭園を見学すると言って離れていった所で、高等武官が現れてムガウルを一室に案内した。

 その簡素な一室では『睡虎』が待っていて、慇懃無礼に彼に椅子に座るように勧めた。
「どうもー、ピシュトーナ家の御当主様。いきなりにお呼び出てして誠に恐縮ですー。実はムガウル様に急ぎお一つお伺いしたい事がございましてねー。
早速ですが、『はい』か『いいえ』だけでお答え下さい――アナタ方ピシュトーナ家は偉大なるガルヴァリナ帝国に反逆心を抱いていますか?」
――冷笑をムガウルは浮かべる。
「『はい』――と私が応えれば満足なのだろう、ええ?」


 帝国城の廊下を進んでいたヴェドが潜んでいた襲撃者達に気付いて、前を歩く『逆雷』とセージュを守るべく氷の盾をすぐさま展開したのは、流石と言うべきであった。
咄嗟にセージュを背後に庇う『逆雷』の目の前で、攻撃を受けた氷盾が砕け散る。
その隙にヴェドは抜剣し、剣で攻撃を受けながら、鞘で襲撃者を次々と殴り倒して気絶させていた。
『逆雷』が緊急事態を知らせる笛をすぐさま吹き鳴らし、廊下の向こうから何事だと叫びながら、近くにいたのであろう高等武官達が駆けてきた。

 「何事ですか!?」
高等武官の中にはトウルドリックもいた。
かつての教官だった高等武官達と、偶然立ち話をしていたのである。勿論、一番の話題はホーロロの戦いで、彼は武勇を褒められて照れながらも嬉しそうにしていた所であった。
「どうして、お前達が!?」
トウルドリックの顔色が、襲撃者達の覆面を外された瞬間に青ざめた。
「知り合いか、トウルドリック隊長」
バズムが上官の態度で言うと、トウルドリックは青くなりながらもどうにか敬礼して、告げた。
「いずれも、ピシュトーナの家人です……将軍閣下」

 「何の騒ぎですか」
遅れてそこにやって来たのはトウルドリックにとっても従兄にあたる、ピシュトーナ家の嫡子ノルゼドであった。
「ノルゼド兄、帝国城で何て事を!」
青くなったまま掴みかかるトウルドリックだったが、振り払ってノルゼドは鼻先で笑った。
「憎く忌々しい皇統の血を引くお前が私に触るな!」
「あ、ああ……」
もう駄目だ、とトウルドリックは戦慄きながら座り込む。
帝国城でピシュトーナ家の跡取り息子が騒ぎを起こした上、大勢の前でここまで直接的で不敬な発言をした。もはや姉にも己にも累が及ばぬ訳がない。
せめて姉だけは、とトウルドリックはバズムの足にすがった。
「お、お願いします将軍閣下!この咎は全て俺が受けます、ですから姉は……姉様だけは!」
苦虫を噛みつぶしたような顔をして、バズムは直ちにやってきた親衛隊の兵士達に告げた。
「……牢へ連れていけ」
トウルドリックは引きずられながらも叫んだ。
「どうか姉様だけは!閣下、閣下!」


 「……どうもおかしい。おいヴェド、セージュを連れてこのままミマナ皇后様の所に急ぐぞ」
バズムはそう呟くと、セージュを背負って走り出す。ヴェドも剣を仕舞って、続いた。
そのバズムが肩で息を切る頃、ようやくミマナ皇后がおわす『凰翼宮』に到着したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...