【完結】ガン＝カタ皇子、夜に踊る

Ｓｅｃｏｎｄ Ｃｈａｐｔｅｒ

目が覚めた時に、側に

　ゲイブンが目が覚めた時――その視線の真ん前には、ロウが突っ伏して寝ている頭があった。
「あ、あれ……？」
『ゲイブン！ロウ、ロウ、ゲイブンが起きたわよーーーーーーーーー！！！起きなさいロウ！大変よーーーーーーーーーーーーー！！！』
あの地下牢獄の事は全部夢だったのかと安堵して起き上がろうとしたゲイブンを、激痛が襲った。
「い、痛いですぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！！」
痛い所を見れば、両腕に幾重にも包帯が巻かれていた。
あれが夢じゃ無かった事にゲイブンがガッカリした時、ようやくロウが起きた。
「ゲイブン！」
「ロウさーん！痛いですぜー、凄く痛いですぜー……！」
「意識が戻ればもう大丈夫だと医者は言っていた。本当に良かった……！」
『ああ、安心したわ……この丸二日、ずっと冷や冷やしていたんだからね……！』
「え、医者？」
ゲイブンは気付いた。ここがよろず屋アウルガでは無くて、豪華な屋敷の中だと言う事に。
「ここは何処のお屋敷なんですぜ……？」
「『逆雷』の爺さんの屋敷だ」
「どうしておいら、将軍閣下のお屋敷に……？」

　「……ボクが将軍閣下にお仕えしているからだ」
それまで気配の一つもしなかったのでゲイブンは全く気付いていなかった。
ロウの向かい側の壁際に、キアラフォが佇んでいたのだ。
ゲイブンは振り向いて、いつものように無邪気に笑う。
「ほっ……。なーんだ、おいら達二人とも無事だったんですぜ！」
「おい」キアラフォは不愉快そうに顔をゆがめると、ゲイブンの胸ぐらを掴んだ。「どうして助けた？」
「え、だって……おいらがああすれば、キアラフォは助かると思ったから……」
『何を言っているのよ、君！！！！そこは「助けてくれて有り難う」でしょうが！？ちょっと何よその失礼で傲慢な態度はっ！』
「二度とするな！邪魔だった！」
「邪魔……」見る影も無く、ゲイブンは落ち込んだ。「邪魔、だった……」
「おい、その言い方は無いだろう。おちおち捕まる様な未熟な密偵の癖に、ゲイブンが邪魔だも何もあったものか」
あまりにも悲しそうなゲイブンの声に、とうとうロウが黙っていられなくなって、珍しく食ってかかった。
「黙れ！平民は平民として生きていれば良いんだ！金輪際にボクと関わるな！」
「関わるも何も、ゲイブンは不運にも巻き込まれた被害者だ。そうやってすぐに頭に血が上るから未熟な密偵なんだぞ」
「何だと！？」
『何よ、そっちからやるつもりなの！？このパーシーバーちゃんが相手になるわよっ！！手始めに目に唐辛子の粉を振りかけてやるわーっ！！！それから耳の穴の近くで大声で叫んで――』
ロウに掴みかかったキアラフォの腕を見たゲイブンが、あっと息を呑んだ。
魔法封じの入れ墨を、焼いて潰したばかりの痕跡があったのだ。
「い、痛くない、んですぜ……？」
「は？」
キアラフォは愕然とした。
「いや、これって見るからに痛そうですぜ……。人が痛そうにしていたら、心配するのが当たり前だっておいらの親父は言ってましたですぜ！」
「っ……！」
顔が真っ赤になったキアラフォはロウから手を離して、そのまま部屋から飛び出て行ってしまった。
『何よ、アレ！本っ当に失礼極まりないわねー！どんな密偵教育受けたのよ、0点よ！絶対に不合格だわ！』
ぷりぷりと怒っていたパーシーバーだったが、ぽかんとしているゲイブンを見て微笑んだ。
『でも今は、ゲイブンが目覚めた事を無音通信でテオ達にも伝えなくっちゃ！』


　「それは、本当に、良かっ……クシュン！」
『おい、テオ……まさか風邪か？』
「斯く斯く云々、で……ゲホゲホ！ゲーホゲホゲホッ！……ズビッ」
『これはお互いに医者頼みの生活だな、しばらくは……』