207 / 297
Third Chapter
キャットファイト
しおりを挟む
「キアラカ皇妃様におかれましては益々お美しくあらせられ、キアラーニャ皇女殿下もいやさかのご健康とご成長の程を」
「クーちゃん、止めて。すまし顔の貴女に敬語を使われると『あたし』鳥肌が立つのよ」
帝国指折りの美女、皇帝からの御寵愛も変わらず、しかも最初に皇女を産んだ事でその立場も確定した皇妃キアラカは、周りに――少なくとも二人の話し声が聞こえるような近距離には女官も宦官もおらず、奥では医者によって定期検診を受けている我が子キアラーニャのご機嫌な声が遠く聞こえる事を確認して――急にはすっぱな物言いでクノハルに言ったのだった。
「天下のキアラカ皇妃様に『あたし』なんて言わせたと陛下や皇后がたに知られたら私の首が物理的に、永遠に飛びます故」
「ああ、ミマナ様やレーシャナ様にはバレてるわ。『あたし』と言わないように直々にお二人から猛特訓を受けたんだから。陛下は知らないけど」
「はぁー……」クノハルはしばらく目を閉じて迷っていたが、「分かったよ。それで、何の用?キーちゃん」
かつての親友に向けて、呆れた顔をして訊ねたのだった。
するとかつての親友は得意げに片手の指を立てて揺らし、
「クーちゃん、男いる?超の付く良物件、今なら只で紹介してあげる」
「いないし要らない」
「まさか、まだロウ兄さんにべったりなの?どんだけブラコンなのよ……」
「……『ロウ兄さんと結婚したらクーちゃんと姉妹になれるじゃん!クーちゃんからも説得してよ!初恋なの!結婚したいのよ!』って泣いて言ったのは何処の誰だっけ?」
「忘れてよ!あたしの黒歴史!思い出すだけであの頃のあたしをぶっ殺してやりたくなるんだから!」
顔を真っ赤にしたキアラカだったが、
「ええい、お黙りクーちゃん!そこじゃなくて、良物件よ、気にならないの?」
「だから、要らないってば。そもそも『只』ってキーちゃんが言い出した時はいつだって『只』じゃなかったから。基本的にがめついのがキーちゃんでしょ」
「本当にクーちゃんは嫌味な事ばっかり覚えているのね!……まあそうよ、『只』じゃないわ」
「キーちゃんが思っている以上にお金無いんだけど、私」
「お金じゃ無いわよ。あの子の家庭教師、どう?」
「ええー…………」
「あのね、最初から露骨に嫌な顔をしないで最後まで聞いてよ。
クーちゃんもご存じの様に、あたしは後ろ盾が弱いのよ。そりゃそうよ、平民上がりの女がカドフォの養女になった所で、大した力なんて持っていないわ。ミマナ様もレーシャナ様もお若いし、産む気満々だし、いずれあの子は何処かに降嫁されるわね。陛下も言葉こそ曖昧に仰せだったけれど――もしお二人のどちらかに皇子が生まれたらだが、下手にここに残って有象無象からいびられるより、早くに外に出した方が安全じゃないだろうか、って」
「それはそうじゃん。皇子が出来たらって話になるけどさ。キーちゃんの娘なら将来の美女も確定したようなものだし、そもそも陛下が溺愛する第一子をいびるような馬鹿者だっていないよ。
多分だけど、功績を挙げた有力貴族か、友好国の王子あたりに嫁ぐ事になるんじゃない?」
「ええ、あたしもそれに反対じゃないんだけれど……」
「ならいいじゃん」
「その、ね、母親のあたしがね、問題なのよ。所詮は学が無い平民上がりだからって、まあその有象無象から結構馬鹿にされているんだわ」
「えー……ええー……あのクソヤバい女二人から可愛がられているキーちゃんをいびるとか、命知らずもいるんだねー……」
「ミマナ様とレーシャナ様をクソヤバい女って言わないでよ!超絶に不敬よ!死刑モンじゃないの!」
「でも事実じゃん。政治の魔女とそれを支える女傑じゃん」
「クーちゃんだって貧乳なのは事実じゃん!」
「……キーちゃん嫌い」
「まあ、そう言う事でね?あの子には徹底的に教育を受けさせたいのよ。でもね、詰め込み式の猛勉強もさせたくないの。出来れば教育を、楽しいなー面白いなーって思いながら受けて貰えると良くってね。だから、選りすぐりの家庭教師を付けてやりたいの」
「それで私?」
「だってクーちゃん、凄く楽しそうに本を読むから」
「読むのと教えるのは別だってば……」
「教育学の本は読んでないの?」
「帝国城の本は全部読んだけど……」
「ならば良し!
さて、ところで!さっきの良物件なんだけれども……家にねえ、私設だけれどもとっても大きな図書館があるんですって。先祖代々、古書希書を集めるのが隠れたご趣味だったらしくてね?本好きのクーちゃんの事を知って、あたしだけにこっそり教えてくれたのよ。
クーちゃんは珍しい本が読める、良物件はクーちゃんとお見合いが出来る、あたしは更に知識を得たクーちゃんをあの子の家庭教師に出来る。
ほら、ね?この通り誰も損していないでしょう?」
「やっぱり『只』じゃないじゃん!」
「あらやだクーちゃん、『只』って代物はね、この世の中で一番タチが悪いのよ?只は人をつけ上がらせるだけだわ。善意が悪意に貪られるようにね」
「……うう……うう。聞きたくも無いけれど……何処の誰なの?」
「ギルガンド・アニグトラーン。どう?大金持ち・イケメン・血筋良し・出世確定済みの超絶良物件よ?」
クノハルの顔がギョッと引きつった。
「嫌だ!あの男だけは絶対に嫌だ!」
ここでキアラカ皇妃は医者に抱えられて戻ってきた我が子を愛おしそうに抱きしめて、微笑んで告げた。
「駄目よ、クノハル。必ず来週には見合いをして貰います。私の命で」
「クーちゃん、止めて。すまし顔の貴女に敬語を使われると『あたし』鳥肌が立つのよ」
帝国指折りの美女、皇帝からの御寵愛も変わらず、しかも最初に皇女を産んだ事でその立場も確定した皇妃キアラカは、周りに――少なくとも二人の話し声が聞こえるような近距離には女官も宦官もおらず、奥では医者によって定期検診を受けている我が子キアラーニャのご機嫌な声が遠く聞こえる事を確認して――急にはすっぱな物言いでクノハルに言ったのだった。
「天下のキアラカ皇妃様に『あたし』なんて言わせたと陛下や皇后がたに知られたら私の首が物理的に、永遠に飛びます故」
「ああ、ミマナ様やレーシャナ様にはバレてるわ。『あたし』と言わないように直々にお二人から猛特訓を受けたんだから。陛下は知らないけど」
「はぁー……」クノハルはしばらく目を閉じて迷っていたが、「分かったよ。それで、何の用?キーちゃん」
かつての親友に向けて、呆れた顔をして訊ねたのだった。
するとかつての親友は得意げに片手の指を立てて揺らし、
「クーちゃん、男いる?超の付く良物件、今なら只で紹介してあげる」
「いないし要らない」
「まさか、まだロウ兄さんにべったりなの?どんだけブラコンなのよ……」
「……『ロウ兄さんと結婚したらクーちゃんと姉妹になれるじゃん!クーちゃんからも説得してよ!初恋なの!結婚したいのよ!』って泣いて言ったのは何処の誰だっけ?」
「忘れてよ!あたしの黒歴史!思い出すだけであの頃のあたしをぶっ殺してやりたくなるんだから!」
顔を真っ赤にしたキアラカだったが、
「ええい、お黙りクーちゃん!そこじゃなくて、良物件よ、気にならないの?」
「だから、要らないってば。そもそも『只』ってキーちゃんが言い出した時はいつだって『只』じゃなかったから。基本的にがめついのがキーちゃんでしょ」
「本当にクーちゃんは嫌味な事ばっかり覚えているのね!……まあそうよ、『只』じゃないわ」
「キーちゃんが思っている以上にお金無いんだけど、私」
「お金じゃ無いわよ。あの子の家庭教師、どう?」
「ええー…………」
「あのね、最初から露骨に嫌な顔をしないで最後まで聞いてよ。
クーちゃんもご存じの様に、あたしは後ろ盾が弱いのよ。そりゃそうよ、平民上がりの女がカドフォの養女になった所で、大した力なんて持っていないわ。ミマナ様もレーシャナ様もお若いし、産む気満々だし、いずれあの子は何処かに降嫁されるわね。陛下も言葉こそ曖昧に仰せだったけれど――もしお二人のどちらかに皇子が生まれたらだが、下手にここに残って有象無象からいびられるより、早くに外に出した方が安全じゃないだろうか、って」
「それはそうじゃん。皇子が出来たらって話になるけどさ。キーちゃんの娘なら将来の美女も確定したようなものだし、そもそも陛下が溺愛する第一子をいびるような馬鹿者だっていないよ。
多分だけど、功績を挙げた有力貴族か、友好国の王子あたりに嫁ぐ事になるんじゃない?」
「ええ、あたしもそれに反対じゃないんだけれど……」
「ならいいじゃん」
「その、ね、母親のあたしがね、問題なのよ。所詮は学が無い平民上がりだからって、まあその有象無象から結構馬鹿にされているんだわ」
「えー……ええー……あのクソヤバい女二人から可愛がられているキーちゃんをいびるとか、命知らずもいるんだねー……」
「ミマナ様とレーシャナ様をクソヤバい女って言わないでよ!超絶に不敬よ!死刑モンじゃないの!」
「でも事実じゃん。政治の魔女とそれを支える女傑じゃん」
「クーちゃんだって貧乳なのは事実じゃん!」
「……キーちゃん嫌い」
「まあ、そう言う事でね?あの子には徹底的に教育を受けさせたいのよ。でもね、詰め込み式の猛勉強もさせたくないの。出来れば教育を、楽しいなー面白いなーって思いながら受けて貰えると良くってね。だから、選りすぐりの家庭教師を付けてやりたいの」
「それで私?」
「だってクーちゃん、凄く楽しそうに本を読むから」
「読むのと教えるのは別だってば……」
「教育学の本は読んでないの?」
「帝国城の本は全部読んだけど……」
「ならば良し!
さて、ところで!さっきの良物件なんだけれども……家にねえ、私設だけれどもとっても大きな図書館があるんですって。先祖代々、古書希書を集めるのが隠れたご趣味だったらしくてね?本好きのクーちゃんの事を知って、あたしだけにこっそり教えてくれたのよ。
クーちゃんは珍しい本が読める、良物件はクーちゃんとお見合いが出来る、あたしは更に知識を得たクーちゃんをあの子の家庭教師に出来る。
ほら、ね?この通り誰も損していないでしょう?」
「やっぱり『只』じゃないじゃん!」
「あらやだクーちゃん、『只』って代物はね、この世の中で一番タチが悪いのよ?只は人をつけ上がらせるだけだわ。善意が悪意に貪られるようにね」
「……うう……うう。聞きたくも無いけれど……何処の誰なの?」
「ギルガンド・アニグトラーン。どう?大金持ち・イケメン・血筋良し・出世確定済みの超絶良物件よ?」
クノハルの顔がギョッと引きつった。
「嫌だ!あの男だけは絶対に嫌だ!」
ここでキアラカ皇妃は医者に抱えられて戻ってきた我が子を愛おしそうに抱きしめて、微笑んで告げた。
「駄目よ、クノハル。必ず来週には見合いをして貰います。私の命で」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる