209 / 297
Third Chapter
秘めやかな悪意
しおりを挟む
「そ、そりゃー、おいらの聞いた噂話が根こそぎ吹っ飛ぶくらいですぜー……。だからロウさんも飲み過ぎで、すっかり駄目になった訳ですぜー……」
帝国第一高等学院への通学途中で、牛車の牛を操るゲイブンは、びっくりした顔をしてオレ達と話していた。
「ああ、そうだ、こっちでも本当に酷かった。……うん?ゲイブンは何の噂を聞いたんだ?」
「こっちは娼婦の姐さん達の噂話ですぜ、闇カジノに新しい遊びが出来たらしいんですぜ」
「新しい遊び?何だそれは……?」
あそこは違法な賭博を日夜やっている。でも遊郭や地獄横町とは『やっている事』が被らないように気を付けているから、『新しい遊び』なんてそう頻繁に登場しないはずだが……?
「詳しくは分からないんですぜ、テオの兄貴。ただ、相当にヤバい遊びらしいんですぜー」
闇カジノと言うだけでヤバいのに、『相当に』だと……?
一体何をやり始めたんだ?
「またロウが落ち着いたら探って貰うか」
「それが一番ですぜ!……おいらも遊郭で小遣い稼ぎどころじゃないんで、早くロウさんには元気になって欲しいんですぜー」
やけっぱちの飲んだくれロウの世話をするしかないなんて、ゲイブンの不幸にも程がある……。
そのまま帝国第一高等学院に到着してゲイブンに牛車から車椅子に乗せてもらっていたら、何か校門の辺りが騒がしい。様子見に行ったユルルアちゃんがすぐに戻ってきて、
「テオ様、マーロウスントからの転入生同士が揉めていますわ!」
マーロウスント王国の反王家派がマーロウスント公国を名乗って勝手に独立し、勝手にホーロロ国境地帯に大軍を擁して侵略してきたのを、『逆雷のバズム』率いる帝国軍がサンタンカン渓谷で壊滅させた『サンタンカンの戦い』があったのは、つい先日の事だ。
戦いに勝利したガルヴァリナ帝国は両国に対して和平を結ぶ代わりに、多額の賠償金の支払いに加えて、人質を差し出すように命じた。
どうしてマーロウスント王国にも人質を差し出すように命じたかと言うと、マーロウスントの王国内には相当数の――サンタンカンの戦いの結果如何では公国(仮)に鞍替えしようとしていた者がいたらしい。
今の王国そのものがとても弱体化していて、公国(仮)の抑止力としてはちっともアテにならないからな……。
しかし2代も暗君・暴君が続いた後の帝国では、王国・公国(仮)そのものの討伐が出来るほどの国力も軍事力もない。
故に金と人質を差し出させる事で、一旦は手打ちとしたのだ。
そのマーロウスントの王国・公国(仮)からそれぞれ姫君が来ているのは、勿論オレ達も知っている。
人質と言っても、基本的にこの帝国では城に軟禁するのではなくて、相応しい学校に通わせ、教育を受けさせて、将来は出身国と帝国との間を繋ぐ人材として育てる風習があるので、めいめいの学力を調べた後で、こうやって帝国第一高等学院に二人ともが所属しているはずだった。
ただ、オレ達とは学年もクラスも違うので、接点は今まで全く無かったのだ。
――オレ達の目の前でマーロウスントの言葉で言い争っていた(オレ達の見た限りでは一方的にけんか腰で捲し立てられていた)二人の姫君の内、一方がいきなりもう一方を突き飛ばした事で、遠巻きに見守っていた生徒達も近くで対応に困っていた護衛達も動かざるを得なくなったのだった。
「きゃあああ!?」
と突き飛ばされた方は悲鳴を上げて転んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「サレフィ姫、お怪我は!?」
「保健室にお運びしろ!」
と突き飛ばされた姫君がいなくなったところで、
「もうお止め下さい、ロサリータ姫!」
「流石に今日の行動は目に余ります!」
護衛達が突き飛ばした姫君に訴えた。
しかし彼女は何も言わず、酷く険しい顔をしたまま去って行った。
「……何あれ」
当然、生徒や駆けつけた教師達の印象は――。
「人質で来たはずの姫君よね」
「いきなり言いがかりをつけた上に突き飛ばすなんて、最悪……」
「あれで王族だなんて信じたくも無いぞ」
「……妙ですわね」
オレ達の乗る車椅子を押してくれていたユルルアちゃんが、小声でオレ達だけに囁いた。
「妙?」
「突き飛ばされた方――公国(仮)のサレフィ姫ですけれども。彼女、少しだけ目が笑っていましたわ」
「国の勢いがあるのは王国ではなくて公国(仮)だからな。後で抗議させるつもりなのでは?」
ユルルアちゃんがオレ達の肩を握りしめる。
細い指に信じられないくらいの力を込めて、少しだけ震わせて。
「……いえ。これは私のただの女の勘なのですけれども、サレフィ姫からは悪意を感じました」
「だとしたら、ロサリータ姫はその悪意に耐えきれずにあんな行動を取ったのは間違いないだろう」
「疑わないのですか?私の勘でしか無いのに……」
「どうして?僕は君を信じた結果なら地獄に堕ちても構わない」
すうっと彼女の指から力と震えが抜けていった……。
「……ねえテオ様。後でロサリータ姫とこっそり話をしません事?」
「出来れば……そうしたい所だが。しかし、彼女の側には常に護衛がいる。どうやって護衛を外させる?」
このガルヴァリナ帝国としては、人質に逃げられても、危害を加えられても困るからだ。
「少し……考えてみましょう」
帝国第一高等学院への通学途中で、牛車の牛を操るゲイブンは、びっくりした顔をしてオレ達と話していた。
「ああ、そうだ、こっちでも本当に酷かった。……うん?ゲイブンは何の噂を聞いたんだ?」
「こっちは娼婦の姐さん達の噂話ですぜ、闇カジノに新しい遊びが出来たらしいんですぜ」
「新しい遊び?何だそれは……?」
あそこは違法な賭博を日夜やっている。でも遊郭や地獄横町とは『やっている事』が被らないように気を付けているから、『新しい遊び』なんてそう頻繁に登場しないはずだが……?
「詳しくは分からないんですぜ、テオの兄貴。ただ、相当にヤバい遊びらしいんですぜー」
闇カジノと言うだけでヤバいのに、『相当に』だと……?
一体何をやり始めたんだ?
「またロウが落ち着いたら探って貰うか」
「それが一番ですぜ!……おいらも遊郭で小遣い稼ぎどころじゃないんで、早くロウさんには元気になって欲しいんですぜー」
やけっぱちの飲んだくれロウの世話をするしかないなんて、ゲイブンの不幸にも程がある……。
そのまま帝国第一高等学院に到着してゲイブンに牛車から車椅子に乗せてもらっていたら、何か校門の辺りが騒がしい。様子見に行ったユルルアちゃんがすぐに戻ってきて、
「テオ様、マーロウスントからの転入生同士が揉めていますわ!」
マーロウスント王国の反王家派がマーロウスント公国を名乗って勝手に独立し、勝手にホーロロ国境地帯に大軍を擁して侵略してきたのを、『逆雷のバズム』率いる帝国軍がサンタンカン渓谷で壊滅させた『サンタンカンの戦い』があったのは、つい先日の事だ。
戦いに勝利したガルヴァリナ帝国は両国に対して和平を結ぶ代わりに、多額の賠償金の支払いに加えて、人質を差し出すように命じた。
どうしてマーロウスント王国にも人質を差し出すように命じたかと言うと、マーロウスントの王国内には相当数の――サンタンカンの戦いの結果如何では公国(仮)に鞍替えしようとしていた者がいたらしい。
今の王国そのものがとても弱体化していて、公国(仮)の抑止力としてはちっともアテにならないからな……。
しかし2代も暗君・暴君が続いた後の帝国では、王国・公国(仮)そのものの討伐が出来るほどの国力も軍事力もない。
故に金と人質を差し出させる事で、一旦は手打ちとしたのだ。
そのマーロウスントの王国・公国(仮)からそれぞれ姫君が来ているのは、勿論オレ達も知っている。
人質と言っても、基本的にこの帝国では城に軟禁するのではなくて、相応しい学校に通わせ、教育を受けさせて、将来は出身国と帝国との間を繋ぐ人材として育てる風習があるので、めいめいの学力を調べた後で、こうやって帝国第一高等学院に二人ともが所属しているはずだった。
ただ、オレ達とは学年もクラスも違うので、接点は今まで全く無かったのだ。
――オレ達の目の前でマーロウスントの言葉で言い争っていた(オレ達の見た限りでは一方的にけんか腰で捲し立てられていた)二人の姫君の内、一方がいきなりもう一方を突き飛ばした事で、遠巻きに見守っていた生徒達も近くで対応に困っていた護衛達も動かざるを得なくなったのだった。
「きゃあああ!?」
と突き飛ばされた方は悲鳴を上げて転んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「サレフィ姫、お怪我は!?」
「保健室にお運びしろ!」
と突き飛ばされた姫君がいなくなったところで、
「もうお止め下さい、ロサリータ姫!」
「流石に今日の行動は目に余ります!」
護衛達が突き飛ばした姫君に訴えた。
しかし彼女は何も言わず、酷く険しい顔をしたまま去って行った。
「……何あれ」
当然、生徒や駆けつけた教師達の印象は――。
「人質で来たはずの姫君よね」
「いきなり言いがかりをつけた上に突き飛ばすなんて、最悪……」
「あれで王族だなんて信じたくも無いぞ」
「……妙ですわね」
オレ達の乗る車椅子を押してくれていたユルルアちゃんが、小声でオレ達だけに囁いた。
「妙?」
「突き飛ばされた方――公国(仮)のサレフィ姫ですけれども。彼女、少しだけ目が笑っていましたわ」
「国の勢いがあるのは王国ではなくて公国(仮)だからな。後で抗議させるつもりなのでは?」
ユルルアちゃんがオレ達の肩を握りしめる。
細い指に信じられないくらいの力を込めて、少しだけ震わせて。
「……いえ。これは私のただの女の勘なのですけれども、サレフィ姫からは悪意を感じました」
「だとしたら、ロサリータ姫はその悪意に耐えきれずにあんな行動を取ったのは間違いないだろう」
「疑わないのですか?私の勘でしか無いのに……」
「どうして?僕は君を信じた結果なら地獄に堕ちても構わない」
すうっと彼女の指から力と震えが抜けていった……。
「……ねえテオ様。後でロサリータ姫とこっそり話をしません事?」
「出来れば……そうしたい所だが。しかし、彼女の側には常に護衛がいる。どうやって護衛を外させる?」
このガルヴァリナ帝国としては、人質に逃げられても、危害を加えられても困るからだ。
「少し……考えてみましょう」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる