【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

2626

文字の大きさ
231 / 297
Third Chapter

希望ではなく勇気を

しおりを挟む
 秘密の地下通路を急ぎ歩いていた一行が立ち止まった。
――彼らの目の前には、地中深くにまで展開された『ロード』の結界があったのだ。
思わずブォニートは舌打ちしたが、すぐに落ち着いた声で言った。

 「『ジンクス』、帝都全域に向けて最大威力の『スキル:カタストロフィー』を放て」

 従っていた精霊獣『ジンクス』は、しばらく返事をする事が出来なかった。
言われた言葉を完全に理解するのに時間を要したからだ。
どうにか理解が追いついた途端――ワナワナと震え出す。
『どうして……どうして、ブォニート様は、そこまで……!』
「どうしてだと?これだって戦争中の敵国に向けた行動としては一般的なものだろう?」
『でも!……ステータスが0になった帝都の民が、根絶やしになりますよ!』
「だから、これは戦争中の敵国に対しての攻撃なのだ。無論、彼らを君に、『ジンクス』に殺させねばならない私は誰よりも不幸で悲惨だが、それだって仕方の無い事だろう?君だってそう思うだろう?」
『あ、ああっ………………わたし、は……』
「良いかい、『ジンクス』」何処までもブォニートは人当たりが良かった。「この世は仕方の無い事だらけだ。何処に行っても、何処まで行っても、常に不幸と悲惨で満ち溢れている。君がロサリータから別れるしか無かった事だってそうだろう。君はロサリータと死ぬまで一緒にいたかったのに、ロサリータから拒まれ、否まれ、私が必要としなければ君からは存在意義さえも消え失せる所だった……」
『……で、でも……』
「私は『ジンクス』、君を否定しない。私であれば、君に備わっている可能性を最大限に活用できる。今までだってそうだっただろう?
――それとも、何か私が間違った事を言っているか?」
『……』
反射的に『ジンクス』は車椅子に縛り付けられたロサリータを見つめた。彼女はただ黙って泣いているだけで、震える『ジンクス』とは目を合わせようともしなかった。
『……帝都全域に放つとなると、時間が、かかります……』
「どれ程かかる?」
『………………。月が、上る頃には……可能、です』
「だとすれば、この地下通路では袋の鼠になりかねない。多少は危険だが、引き返して『コロシアム』で時を待つとしよう……」


 「……出来れば、今回ばかりはオレ達の出番が来る事が無ければ良かったんだがな」
 「仕方あるまい。まずは『コロシアム』に赴いて、僭主ブォニートを探すぞ!」


 依然、精霊獣『ジンクス』の存在に最大限に警戒しつつ、精鋭部隊は『コロシアム』の再度の制圧を続けていた。慌ただしく負傷者の応急手当や食事が行われている天幕がずらりと並んでいる側で、オレ達はロウとパーシーバーに出会したのだった。
『あっ、シャドウだわ!』
一瞬警戒した様子のロウが、すぐに肩の力を抜いた。
「おい、人をそう驚かせるな、シャドウ」
「済まない。ところで事態はどうなっている?」


 「……とまあ、俺が知っている事はこんな感じだな」
「あの『閃翔』と『闘剛』が大怪我。……なのに未だにブォニート達は捕まっていないのか」
「相手が隠れているのが、何せ闇カジノの建物だからな。帝国治安局からの摘発を恐れて、隠し部屋なり隠し通路なり、仕掛けなり、後からハチャメチャに増設しまくった所為で、未だに全域を押さえ切れていないらしい。加えて、『ジンクス』がいつ何処から襲ってくるかも分からん有様だからな」
「それで、クノハルは……」
「忌々しい糞野郎(※言うまでも無くギルガンド)の側から離れようとしないんだ。でも、これを預かった」
渡されたのは急いで書いたらしい殴り書きのメモだった。
『現在発見されている地下通路について違和感。帝国城に向かう方面には一本の通路も無い』
『そう言えば、おかしいわよね?メチャクチャに後から付け足してくっつけたのなら、四方八方に向かって地下通路があってもおかしくは無いのに……』
パーシーバーが首をかしげたが、オレ達は納得できている。
「いや、間違いなくあるはずだ。でなければどうやって『赤斧帝』の寵臣はこの『コロシアム』に怪しまれずに出入りした?」
「……そこに連中がいる可能性が高いな。袋小路に追い詰めて叩くか、シャドウ?」
「いや……引き返してくる可能性の方が高いだろう。未だに結界が解けていないからには、検問所を通らずに誰も帝都の外には出られないからな。
とすれば、『コロシアム』の中で結界が解ける時を狙っている……?」
「連中がそうやってただ時間を浪費するとも思えない。何かよからぬ事を企んでいるだろうな」
『パーシーバーちゃんだったら、「スキル」を使って帝都にひっどい混乱を起こして、結界を解除させるようにしちゃうけれど……?』
「待て!」オレ達はとんでもない事に気付いた。「帝国とマーロウスント公国(仮)は、今、戦争中のはずだが?」
「そう言う事になるな。……っ!?」
ロウも気付いたらしい。
「ブォニートは結界の解除も兼ねて、真っ先にこの帝都を潰しかねないぞ!」
「それは流石にマズいな。パーシーバー、ちょっと魔力を貸してくれ」
『勿論よロウ!幾らでも使って頂戴!』
パーシーバーから魔力を借りた後、ロウは杖を突いて、そこから地中に固有魔法の『衝撃』を幾度か放った。そうやって地中の反応を調べていたが、
「……あっちだ、あっちの地中からだが、やたら大きな空洞が広がっている。位置として、恐らく『コロシアム』の特等席辺りから繋がっているぞ」
そうやってロウが指さした方向に、オレ達は走り出した。
「後は任せろ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...