【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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Third Chapter

不幸ではなく覚悟を

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 動かないロサリータ姫を抱きかかえているブォニートは、結界の手前までオレ達によって追い詰められていたが、
「『ジンクス』!私を助けろ」と往生際も悪く、絶叫した。
『……』負傷した肩を押さえながら、『ジンクス』が現れる。『ぶ、ブォニート様……わたし、は……』
「私をこれ以上不幸で悲惨にするな!『ジンクス』、この仮面の者ごと帝都を滅ぼせ!」
『……でも、』
「良いから早く滅ぼせ!他人の事なんて構うものか!私達だけが『幸せ』であれば良いのだ!」
「おい」オレ達はロサリータ姫に話しかけた。「悪い悪い『ジンクス』をやっつけに来たぞ」
「……え?」ロサリータ姫の視線が初めて動いた。泣き腫らした真っ赤な目で、オレ達を見つめる。「まさか……?まさか!」
「そのまさかだ。待っていろ。今すぐ助ける」
「……」ようやくロサリータ姫が藻掻いた。「お願い!私はこのまま不幸なのも、不幸にされるのも、不幸にするのももう嫌だ!!!!本当に幸せになりたい!」
ブォニートは暴れる彼女を羽交い締めにして、
「何を言うのだ愛しいロサリータ、お前は私の手の中にいればそれが一番の幸せなのだよ」
「嫌だ!私は自分の手で幸せを掴みたい!お前からの幸せなんて何よりの不幸だ!」
ロサリータ!とブォニートは叫んで彼女を殴り倒した。そうやって拳で殴ったのにとても優しい声で、「お前には、少し厳しいお仕置きが必要なのだね……?」
「伯父様」殴られたのに反抗的な目はそのままで、ロサリータ姫はブォニートに言ってのけた。「伯父様が私のお母様も、お祖母様も、フェレネとフェルニも!他にももっともっと大勢を当たり前の顔をして不幸にしてきたのでしょう?
伯父様はそうするよりなかった己こそが最も不幸で悲惨だとお思いのようですから、この私の口から言って差し上げますわ」
そう言ってから、渾身の声でロサリータ姫は怒鳴った。
「――世界で一番不幸で惨めな男ですわね、伯父様は!」
「……何だと」ブォニートの声色が豹変した。ロサリータ姫の胸ぐらを掴んで、「今、何と言ったのだね?私の愛しいロサリータ……?」
ロサリータ姫と来たら、ブォニートにさらに唾を吐きかけて、馬鹿にした。
「『世界一不幸で惨めな負け犬』と申し上げたのですわ!」
直後、彼女は蹴飛ばされて悲鳴と共にまた転倒する。
「ロサリータ姫!」
オレ達がブォニートを攻撃しようとした瞬間、
「帝都を滅ぼせ、『ジンクス』!」
『……はい』
――ぐらりと視界が揺らいだ。
オレがいなければ耐えきれない程の激痛と、体中の力が急激に失われていくあの感覚が、もう一度オレ達を襲った。
オレの力が失せ切る前に、今ここでオレ達は決着を付ける必要がある。
「させるか――ガン=カタForm.2『ハイプリーステス』!」
「待って!
『ジンクス』、私の話を聞いて!」
倒れながらも、地面に這いながらも、それでも手を伸ばすロサリータ姫に名を呼ばれて、びくりと精霊獣が震えた。
「今度こそ、今度こそ一緒に幸せになろう!」
『しあ、わせ……』その言葉を『ジンクス』は何度も繰り返した。『しあわせ……でも、わたしは、ブォニート様と……』
「こんな己の不幸に酔いしれるだけの気持ち悪い男と一緒にいたら、もっと不幸になるだけよ!こんなクズ男なんて今すぐ捨てなさい!私がいるわ!」
『……ねえ、ロサリータ』
小さな声で、『ジンクス』は呟いた。
『本当に……わたし達、幸せになれるの?』
「私達の力で、幸せになってみせるのよ、『ジンクス』!悲惨で不幸なだけの『ジンクス』なんて捨ててしまって、私と一緒に歩いて行こう!」
うん、と頷いて精霊獣『ジンクス』はロサリータ姫に駆け寄って、ありったけ左手を伸ばした。


 その手が触れあった瞬間――オレ達の体が、ふうっと軽くなった。


 「じ、『ジンクス』!?」
ブォニートが辺りを見回して『ジンクス』を探しているが、見つけられていない。
もうこの男と、精霊獣『ジンクス』との魂の繋がりは完全に切れてしまったのだ。
だって、ここにいるのは――。


『わたしは――「マスコット」だ。
今度こそ人々に幸運をもたらす「マスコット」に変われたんだ!』
精霊獣『マスコット』と、それを従えるロサリータ姫なのだから。
「やろう、『マスコット』!こんな気持ち悪いだけのゴミ男に、現実ってものを思い知らせるのよ!」
『うん!「スキル:カタストロフィー」!』

 ぐえ、と惨めな悲鳴をブォニートは上げた。見る間に人相が醜く変わり、髪の根元が真っ白に染まっていく。肌にシミが浮かびしわくちゃになって――。
「私に、何をした、愛しいロサリータ……!?」
黄色みを帯びた眼球で、ロサリータ姫を見上げた。
「伯父様が己こそ世界で一番不幸で悲惨だと仰るから、それに相応しいお姿に変えて差し上げただけですわ」
「違う、そうじゃない、こうじゃ――」
嗄れた声で呻くブォニートは、力なく地面にへたり込んだ。
「私は、絶対に不幸なんて嫌だ!!!!!!こんな悲惨なんて嫌だああああっ!!!!!」


 ――足音。
 振り返れば『峻霜』と『睡虎』率いる部隊が武器を手にこちらへ走ってきていた。
「人影を確認!」
「アレはー……アレがブォニートですかー!?」

 さて、これでオレ達の出番も終わったようだ。
 オレ達はさっさと姿をくらましたのだった。
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