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Final Chapter
小さな約束、大きな初恋
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ハルハの住んでいた官舎は、余りにも整然としすぎていて、生活臭が一切感じられない部屋であった。
まるでもうすぐ死ぬ事を理解していた病人が、こっそりと身の回りを整理していた――そう言われても納得してしまうだろう。
「本も日記も何も無い……」フォートンが驚愕している。「これは、あたかも……」
「壁や床も天井も、家財道具も調べた。……隠されているものは何も無かった」
ギルガンドが告げると、フォートンは項垂れる。
「私の読み違いだったか……?」
「ひとまず外に出ましょう。神殿騎士に気付かれると厄介な事になります」
クノハルが促して、3人は外に出た。丁度真向かいに設営されたばかりの児童園があって、子供達がそこの庭で追いかけっこをして遊んでいた。
「……」黙っていたフォートンは気落ちした声で呟く、「本当にハルハは我らを裏切っていたのか……」
「あら?」足音と声がして、振り返った3人の前には縫いぐるみを抱く娘リリシーテを連れたリーニャ夫人がいた。「皆様、どうされたの?」
「これはご夫人、ご無沙汰しております」
フォートンはいつも慇懃無礼な態度に戻った。
夫人は、今日が娘の誕生日なので、これから娘と一緒に『一つだけ好きな玩具』を選んで買いに行く所だったと話し、
「こちらこそ、いつも主人がお世話になっております。ほら、リリちゃんもご挨拶を――」
「いや!」リリシーテはギルガンドを睨みながら泣き出してしまった。「だってぎるがんどさま、うわきしたんだもん!リリちゃんがさきにすきだったのに!ほかのおんなとこんやくしたって――」
「ちょ、ちょっとリリちゃん!?」
夫人は戸惑うし、最近の子供はませている、とフォートンは呆れてしまった。
「……」
完全に扱いに困っているギルガンドを置いて、クノハルはそっと少女に近付いてかがみ込んで視線を合わせた。
「リリちゃんの好きな人を奪ってごめんね。でも必ず幸せにするから、許してくれないかな?」
「うわーん!」とリリシーテは大声で泣き叫んだ。だが、クノハルが辛抱強く待っていると、泣き真似を止めて、「……おばちゃん、うそついてない?」
「おばちゃんは本気だよ」
「じゃあ……これ、あげる」
彼女が差し出したのは不格好な縫いぐるみだった。
「……。良いの?」
「うん。これ、はるはさまがくれたの。ほんとうはぎるがんどさまにあげてねっていわれてたけど、でも……おばちゃんにあげる。だっておばちゃんも、ぎるがんどさまのこと、だいすきなんでしょ?」
「うん。ありがとうね、リリちゃん」
「でもね!」少女は大声で、胸を張って宣言した。「おばちゃんがうわきしたら、リリちゃんがぎるがんどさまとけっこんするからね!やくそくだからね!」
「うん。約束する。約束するよ」とクノハルは強く縫いぐるみを抱きしめて、頷いた。
「くすん……。……とくべつに!それならいいよ!」
不格好な縫いぐるみを貰ったクノハルは、何も言えないでいるフォートンとギルガンドに向かって、
「急ぎ『黒葉宮』へ戻りましょう」
と、先ほどまでの穏やかな顔を一変させて焦った声で告げたのだった。
「何が起きている……?」
オレ達の目の前ではフォートンとクノハルとギルガンドが険しい顔をして、不格好な縫いぐるみを怨敵のように睨んでいる。
何やらオレ達の知らない、重大な秘密がその縫いぐるみにあるらしい。
「分解するのは気が引けますが、やるしかありませんね」とクノハルは言う。
「ええ。だがもしかすれば、下手に分解すると危険やも知れません。中に入っているものが安全とは限りませぬ故」
フォートンは縫いぐるみをあちこちから観察していたが、頷いた。
ギルガンドは早速に出て行く、
「そう言う事ならトキトハを連れてくる」
それだけを言い残して。
まるでもうすぐ死ぬ事を理解していた病人が、こっそりと身の回りを整理していた――そう言われても納得してしまうだろう。
「本も日記も何も無い……」フォートンが驚愕している。「これは、あたかも……」
「壁や床も天井も、家財道具も調べた。……隠されているものは何も無かった」
ギルガンドが告げると、フォートンは項垂れる。
「私の読み違いだったか……?」
「ひとまず外に出ましょう。神殿騎士に気付かれると厄介な事になります」
クノハルが促して、3人は外に出た。丁度真向かいに設営されたばかりの児童園があって、子供達がそこの庭で追いかけっこをして遊んでいた。
「……」黙っていたフォートンは気落ちした声で呟く、「本当にハルハは我らを裏切っていたのか……」
「あら?」足音と声がして、振り返った3人の前には縫いぐるみを抱く娘リリシーテを連れたリーニャ夫人がいた。「皆様、どうされたの?」
「これはご夫人、ご無沙汰しております」
フォートンはいつも慇懃無礼な態度に戻った。
夫人は、今日が娘の誕生日なので、これから娘と一緒に『一つだけ好きな玩具』を選んで買いに行く所だったと話し、
「こちらこそ、いつも主人がお世話になっております。ほら、リリちゃんもご挨拶を――」
「いや!」リリシーテはギルガンドを睨みながら泣き出してしまった。「だってぎるがんどさま、うわきしたんだもん!リリちゃんがさきにすきだったのに!ほかのおんなとこんやくしたって――」
「ちょ、ちょっとリリちゃん!?」
夫人は戸惑うし、最近の子供はませている、とフォートンは呆れてしまった。
「……」
完全に扱いに困っているギルガンドを置いて、クノハルはそっと少女に近付いてかがみ込んで視線を合わせた。
「リリちゃんの好きな人を奪ってごめんね。でも必ず幸せにするから、許してくれないかな?」
「うわーん!」とリリシーテは大声で泣き叫んだ。だが、クノハルが辛抱強く待っていると、泣き真似を止めて、「……おばちゃん、うそついてない?」
「おばちゃんは本気だよ」
「じゃあ……これ、あげる」
彼女が差し出したのは不格好な縫いぐるみだった。
「……。良いの?」
「うん。これ、はるはさまがくれたの。ほんとうはぎるがんどさまにあげてねっていわれてたけど、でも……おばちゃんにあげる。だっておばちゃんも、ぎるがんどさまのこと、だいすきなんでしょ?」
「うん。ありがとうね、リリちゃん」
「でもね!」少女は大声で、胸を張って宣言した。「おばちゃんがうわきしたら、リリちゃんがぎるがんどさまとけっこんするからね!やくそくだからね!」
「うん。約束する。約束するよ」とクノハルは強く縫いぐるみを抱きしめて、頷いた。
「くすん……。……とくべつに!それならいいよ!」
不格好な縫いぐるみを貰ったクノハルは、何も言えないでいるフォートンとギルガンドに向かって、
「急ぎ『黒葉宮』へ戻りましょう」
と、先ほどまでの穏やかな顔を一変させて焦った声で告げたのだった。
「何が起きている……?」
オレ達の目の前ではフォートンとクノハルとギルガンドが険しい顔をして、不格好な縫いぐるみを怨敵のように睨んでいる。
何やらオレ達の知らない、重大な秘密がその縫いぐるみにあるらしい。
「分解するのは気が引けますが、やるしかありませんね」とクノハルは言う。
「ええ。だがもしかすれば、下手に分解すると危険やも知れません。中に入っているものが安全とは限りませぬ故」
フォートンは縫いぐるみをあちこちから観察していたが、頷いた。
ギルガンドは早速に出て行く、
「そう言う事ならトキトハを連れてくる」
それだけを言い残して。
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