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Final Chapter
その仮面の者
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エルフ族がキアラカ皇妃の襲撃に使った武器は、『魔導ライフル』と言うらしい。己の魔力を込めてから圧縮し、その勢いを加速させて撃ち出す事であれ程の威力を誇るのだそうだ。レトゥが大喜びで複製し、帝国十三神将に配布したが、上手く使いこなせているのはバズムだけであった。
「こりゃあ良いのう!この老いぼれでも面白いように仕留められるわい!」
今や一兵卒(に自ら志願して成った)だが、バズムは既に物陰からエルフを数十人は仕留めている。固有魔法の『以心伝心』を逆手に使い、敵の居場所を物陰から探知しては遠距離からの狙撃を決めているのだ。
しかし他の帝国軍は魔弾の弾幕を前に、どうにも攻めあぐねていた。
『魔導ライフル』と弓矢では届く距離の差が歴然、何より火力が違いすぎるのだ。
連射速度では弓矢が上だが、そこは隊列を組んで交代で斉射してくるエルフの方が一枚上手である。
「笑っている場合か、『逆雷』殿」
『闘剛』が渋い顔をしている。かくなる上は多少の被害損害は覚悟の上で、彼の『剛化』を使い押しとおるか――そこまで彼は考えていた。
別働隊を率いている他の帝国十三神将達からもまだ連絡は来ていない。
恐らくこの火力を前に、同じように難儀しているのだろう。
「そうは言ってものう、戦の時にどうしようも無く血が騒ぐのが『狂犬』じゃよ」
そう言ってまたバズムはエルフ相手にヘッドショットを決めた。
言うまでも無いが、彼はスコープのようなものは一切無くして物陰から百発百中で狙撃している。
だが、一人倒れても次のエルフが進み出てきてまた斉射するのだ。
「この混沌!この騒乱!この興奮!この地獄こそがワシの求めておった戦いじゃあ!」
――その時だった。
溜めに溜めた『スキル:カタストロフィー』が聖地を襲ったのは。
精霊獣マスコットから『青い羽根』を渡されている帝国軍は無事だったが、直撃を受けたエルフのステータスが急降下する。
エルフ達は己の魔力を圧縮して魔弾として放っていたが、その魔力も限界近くまで引き下げられてしまった。
弾薬切れが起きたのと同じだった。
斉射が止まる。
その瞬間を見逃さず、『闘剛』も大声で突撃命令を下した。
『その仮面の者は不思議な武器を両手に宿し、闇夜のごとき黒い装束をまとって、この帝都に蔓延る邪知奸悪と戦っている』
分かっていた。
必ず、来ると。
結界を巡らせている皇帝と精霊獣ロードの目の前に、月光に照らされてその『仮面の者』は姿を見せる。
「……ふーん、あんさんが皇帝か?」
闇夜のごとき漆黒の服を優雅に着こなして、不思議な武器を両手に宿して。
だが決定的に『シャドウ』と異なっているのは、『道化師の仮面』の表情だった。
『シャドウ』の仮面には涙の跡があるのに、この男の仮面には歪んだ笑顔しか描かれていない。
「そうだ。私こそがこの帝国の皇帝ヴァンドリック・ネロキアス・ガルヴァリーノスだ」
ミマナ皇后達は東宮御所に避難させてあるので、この場には彼とロードとこの『仮面の者』だけがいる。
聖地に彼が階を架けたからには、その階を使って聖地から敵勢が降りてくる事も考えての事だった。
「長ったらしい名前やなあ。俺あんさんの事、嫌いやわー」
「貴様も名を名乗れ」
ヴァンドリック達は冷酷に尋ねる。
するとひとしきりその者は嗤ってから、
「名乗る言うても、どれがええんやろうな?精霊獣インベンダーと、隷械獣ヴェロキラプトルと、怪盗アルセーヌと。あんさんはどう思うんや?」
「つまり貴様は精霊獣インベンダーの存在を奪い隷械獣ヴェロキラプトルとなり、表向きは怪盗アルセーヌとして犯罪行為を働いていた訳か」
――ぴたりと嘲笑が止まった。
「頭ええとは聞いとったけど、ほんまに頭ええんやなあ……理解力の塊や。その認識で間違っとらんで?
隷械獣ってのはな、精霊獣の体と存在性に操りやすい偽物の魂をぶち込んで作った『代替品』やからな。
せやけど犯罪行為って何やろな?所詮は馬鹿皇帝ばっかり王座に座っとった、この国の法律で決まっただけの事やろ?」
言葉のやり取りなら彼はそうそう簡単に負けはしない。
それはもう『賢梟』に鍛えられたからだ。
「聖職者の顔をして馬鹿皇帝の亡骸を墓所から暴いておきながら、犯罪行為で無いと胸を張るその厚顔無恥には全く恐れ入る」
怪盗アルセーヌは舌打ちした。
「誰や、チクったんは……」
「精霊獣オラクルの『スキル:メッセージ』で言われた事だ」
「……確率4割なのに的中させるとか、ほんまに恐ろしいスキルやな……」
それから怪盗アルセーヌは不思議な武器を構えて、ロードと彼を狙った。
「まあええわ。あんさんには悪いが、ここでおっ死んでくれます?」
――ヴァンドリックは狼狽えも怯えもせずに、突きつけられた銃口を見据えていた。
「させん!」
雷霆が轟いたような激しい音と共に閃光が瞬いて、咄嗟に回避した怪盗アルセーヌは階の上に立った。
「何や、誰や!?」
おお、お決まりの台詞が来たぜ、相棒。
だとすればこちらもこう返そう。
三度目は無いぞ。
ああ、決着を付ける!
「誰と聞かれたら応えてやろう」
「ガン=カタを愛する者として!」
「こりゃあ良いのう!この老いぼれでも面白いように仕留められるわい!」
今や一兵卒(に自ら志願して成った)だが、バズムは既に物陰からエルフを数十人は仕留めている。固有魔法の『以心伝心』を逆手に使い、敵の居場所を物陰から探知しては遠距離からの狙撃を決めているのだ。
しかし他の帝国軍は魔弾の弾幕を前に、どうにも攻めあぐねていた。
『魔導ライフル』と弓矢では届く距離の差が歴然、何より火力が違いすぎるのだ。
連射速度では弓矢が上だが、そこは隊列を組んで交代で斉射してくるエルフの方が一枚上手である。
「笑っている場合か、『逆雷』殿」
『闘剛』が渋い顔をしている。かくなる上は多少の被害損害は覚悟の上で、彼の『剛化』を使い押しとおるか――そこまで彼は考えていた。
別働隊を率いている他の帝国十三神将達からもまだ連絡は来ていない。
恐らくこの火力を前に、同じように難儀しているのだろう。
「そうは言ってものう、戦の時にどうしようも無く血が騒ぐのが『狂犬』じゃよ」
そう言ってまたバズムはエルフ相手にヘッドショットを決めた。
言うまでも無いが、彼はスコープのようなものは一切無くして物陰から百発百中で狙撃している。
だが、一人倒れても次のエルフが進み出てきてまた斉射するのだ。
「この混沌!この騒乱!この興奮!この地獄こそがワシの求めておった戦いじゃあ!」
――その時だった。
溜めに溜めた『スキル:カタストロフィー』が聖地を襲ったのは。
精霊獣マスコットから『青い羽根』を渡されている帝国軍は無事だったが、直撃を受けたエルフのステータスが急降下する。
エルフ達は己の魔力を圧縮して魔弾として放っていたが、その魔力も限界近くまで引き下げられてしまった。
弾薬切れが起きたのと同じだった。
斉射が止まる。
その瞬間を見逃さず、『闘剛』も大声で突撃命令を下した。
『その仮面の者は不思議な武器を両手に宿し、闇夜のごとき黒い装束をまとって、この帝都に蔓延る邪知奸悪と戦っている』
分かっていた。
必ず、来ると。
結界を巡らせている皇帝と精霊獣ロードの目の前に、月光に照らされてその『仮面の者』は姿を見せる。
「……ふーん、あんさんが皇帝か?」
闇夜のごとき漆黒の服を優雅に着こなして、不思議な武器を両手に宿して。
だが決定的に『シャドウ』と異なっているのは、『道化師の仮面』の表情だった。
『シャドウ』の仮面には涙の跡があるのに、この男の仮面には歪んだ笑顔しか描かれていない。
「そうだ。私こそがこの帝国の皇帝ヴァンドリック・ネロキアス・ガルヴァリーノスだ」
ミマナ皇后達は東宮御所に避難させてあるので、この場には彼とロードとこの『仮面の者』だけがいる。
聖地に彼が階を架けたからには、その階を使って聖地から敵勢が降りてくる事も考えての事だった。
「長ったらしい名前やなあ。俺あんさんの事、嫌いやわー」
「貴様も名を名乗れ」
ヴァンドリック達は冷酷に尋ねる。
するとひとしきりその者は嗤ってから、
「名乗る言うても、どれがええんやろうな?精霊獣インベンダーと、隷械獣ヴェロキラプトルと、怪盗アルセーヌと。あんさんはどう思うんや?」
「つまり貴様は精霊獣インベンダーの存在を奪い隷械獣ヴェロキラプトルとなり、表向きは怪盗アルセーヌとして犯罪行為を働いていた訳か」
――ぴたりと嘲笑が止まった。
「頭ええとは聞いとったけど、ほんまに頭ええんやなあ……理解力の塊や。その認識で間違っとらんで?
隷械獣ってのはな、精霊獣の体と存在性に操りやすい偽物の魂をぶち込んで作った『代替品』やからな。
せやけど犯罪行為って何やろな?所詮は馬鹿皇帝ばっかり王座に座っとった、この国の法律で決まっただけの事やろ?」
言葉のやり取りなら彼はそうそう簡単に負けはしない。
それはもう『賢梟』に鍛えられたからだ。
「聖職者の顔をして馬鹿皇帝の亡骸を墓所から暴いておきながら、犯罪行為で無いと胸を張るその厚顔無恥には全く恐れ入る」
怪盗アルセーヌは舌打ちした。
「誰や、チクったんは……」
「精霊獣オラクルの『スキル:メッセージ』で言われた事だ」
「……確率4割なのに的中させるとか、ほんまに恐ろしいスキルやな……」
それから怪盗アルセーヌは不思議な武器を構えて、ロードと彼を狙った。
「まあええわ。あんさんには悪いが、ここでおっ死んでくれます?」
――ヴァンドリックは狼狽えも怯えもせずに、突きつけられた銃口を見据えていた。
「させん!」
雷霆が轟いたような激しい音と共に閃光が瞬いて、咄嗟に回避した怪盗アルセーヌは階の上に立った。
「何や、誰や!?」
おお、お決まりの台詞が来たぜ、相棒。
だとすればこちらもこう返そう。
三度目は無いぞ。
ああ、決着を付ける!
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