【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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Final Chapter

月に還る者達

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 銃声。
お互い、脳天に最大威力の魔弾を受けた衝撃で派手に体が吹っ飛ばされる。

 「何や……」脳天を撃ち抜かれたノリの、消えそうな小さな声が響いた。「そんなん、ズルいやろ……」
「僕達は、僕達のガン=カタは」テオは這いずりながら、答える。「二人で――いつだって戦ってきたんだ」
――オレは魔弾を受け止めた衝撃で、綺麗に吹き飛んだ左腕を右腕で押さえながら、テオにもう一度重なった。

 ……ああ、この感覚だ。
 やっぱりオレ達、いつも一緒なのが落ち着くよな……。

 「ほんま……羨ましい、わ………………………………」
ノリは、そのまま動かなくなった。体も、すぐに――光の粒子になって消えてしまった。

 オレ達は「『あばよ』」とだけ告げると、壁にタルヤンから渡されたチップを埋め込んだ。
すると、稼働していた聖地が徐々に静かになっていって――。



 「『始まりのエルフ』、アルア・ユトゥトゥゼティマルトリクスよ」
直後。背後にゲイブンが――いや、最高神アド・マベ・ルフェーが立っていたので、オレ達は感傷に浸る余裕も無く飛び上がった。
「わっ!?」
「驚かせたか。済まない」
そう言ってアルカイックスマイルで神様は笑う。
『……げ、ゲイブンの顔と声で言われると、ぞっとしない……』
何かのサイコホラー映画のようである。
「精霊獣パーシーバーを従える者にも、必ずやこの少年の体を返せと言われた。無論、無事のまま返そう」
それから最高神アド・マベ・ルフェーは両手を掲げて、呼びかけた。
「月に還ろう、アルア・ユトゥトゥゼティマルトリクス。この世界にわたくし達はこれ以上干渉すべきでは無い」
『……うぅーん……誰なの?ノリじゃないの?』
「あの時、君に手を伸ばした者だ」
『もしかして……世界を司る神様?』
「そうだ。随分と待たせてしまったが、ようやくわたくしはここに来られた」
『揺籃』の壁から小さな細い手が伸びた。それに最高神アド・マベ・ルフェーは手を差し出し、小指を結び合わせる。
『……あのね、ノリもね、よくこうやって私の手を握ってくれたの。ずっと側にいるから、何も怖い事なんて無いよって。ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ますーって。
ねえ、ノリは何処?またお外をお散歩しているの?寂しいよ、私……』
「彼は、まだこちらには来てはならない魂だ。心配せずとも、月に行けばいつでも会える」
『本当!?それなら、私、月に行くわ。だってノリとは家族なんだもの。いつだって一緒なんだから』
「ああ、行こう。皆も、わたくし達を迎えに来てくれている」
最高神アド・マベ・ルフェーは頷いたかと思うと、そのまま羽化した。
精霊獣であるオレの目を通して見える。
ゲイブンの背中から神としての存在が抜け出たのだ。
『ゲイブンよ』
「……へ?」
ゲイブンは目をパチクリとさせていたが、上から不思議な声が響いてきたので腰を抜かした。
「うあひゃー!?ここは何処で一体何が起きているんですぜー!?」
――オレ達は力が抜けて、そのままへたり込む。

 うん……いつものゲイブンだ。
 ああ、いつも以上にゲイブンだ……。

『わたくしを宿していた其方に、祝福を授けよう』
「祝福!?それじゃーおいら、美味しい鶏肉料理を腹一杯……」

 ノーコメントで……。
 一気に疲れた。早くユルルアの膝枕で休みたい。
 そういや……オレ達、ヘトヘトの上に毒で内臓をこれでもかとやられているんだぜ……?左腕の再生まだだったし……。
 ああ、我ながら、よく意識があると思っている……。

 『それは人の間で行うべき事だ。他に、希望する祝福はあるか?』
うーん、とゲイブンはしばらく悩んでいたが――、
「でもおいらは、ちゃんとおいらの手の届く範囲の、おいらが責任を取れる力しか持ちたく無いんですぜ。だから、困っている他の人にあげて欲しいんですぜ!」

 ゲイブン……お前は馬鹿だよ、最高に気持ちの良いお人好しの大馬鹿だ。大好きだ。
 後でオユアーヴに山ほど料理を作らせるから、幾らでも食べて良いぞ!

 『では、祝福ではなく、エルフの因果の枷を外そう。彼女達が今から自然の摂理の元に子を成す事が出来るように』
ゲイブンは無邪気に笑う。
「良く分かんないですけど、でもそれで困っている誰かが笑顔になれるなら一番なんですぜ!」

 ――聖地が静かに揺れ始めた。
『わたくし達は、この聖地と共に月へ還ろう。人の子らよ、早く地上へと戻りなさい』
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